「マイナス180万円で購入します」越後湯沢リゾートマンションが「腐動産」に

文春オンライン / 2019年3月26日 6時0分

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「あなたの所有している部屋をマイナス180万円で購入します」

 越後湯沢(新潟県南魚沼郡湯沢町)のリゾートマンションの所有者に最近奇妙なダイレクトメールが届いているという。送り主は東京のある不動産業者だ。

 マイナス180万円という意味は、あなたが買手である私に180万円払ってくれるのなら、あなたのマンションを引き取ってあげてもよい、ということだ。いらなくなったものを他人に差し出すときによく「熨斗紙付けてでも譲りたい」という表現が使われるが、ついに越後湯沢のマンションは「カネを払ってでももっていってもらいたい」という代物になったということらしい。越後湯沢のリゾートマンションに、いま何が起きているのだろうか。

バナナのたたき売りのような状況に

 80年代後半から90年代前半の空前のスキーブームの影響で越後湯沢の街には50棟以上、戸数にして約1万5000戸ものリゾートマンションが建設、分譲された。当時は空前のカネ余り時代。ねこも杓子もスキーに興じるのがあたりまえだった。なかなか空室がでないホテルを予約するのは面倒だ。スキー場近くのリゾートマンションを買えば、ゲレンデは我が物になる。誰しもがそのように考え、その需要をアテにした多くの不動産業者が群がり、越後湯沢の駅前から苗場スキー場にかけてリゾートマンションが林立した。

 バブル崩壊から30年がたとうとする現在、当時販売された多くのマンションの中古価格が10万円の値付けになっている。部屋の大きさとはほとんど関係なく「ひとこえ10万円」だ。分譲当時の価格からは100分の1どころかそれ以下。バナナのたたき売りのような状況になっているのだ。

 原因は日本の少子高齢化や日本人のスキーに対する興味の減退だ。スキー人口は93年の年間1860万人をピークに減り続けている。日本は少子高齢化の渦に巻き込まれ、若い世代の経済力は大幅に減退。スキーに行く人口は2016年の調査では580万人。この23年間で3分の1以下に減少している(日本生産性本部「レジャー白書」)。

 その結果スキー場には閑古鳥が啼き、必要がなくなったリゾートマンションの価格は暴落してしまったのだ。ちなみに10万円とは上場株式の株価でいえば1円を意味する。流動性がないゴミと一緒、ということだ。 

 さらにこうしたマンションで次に問題となるのが、所有者の多くが管理費や修繕積立金の支払いを滞納することだ。管理費が払われないことには、やがてエレベーターの保守点検もままならず、共用廊下の電気すら消えたままになる可能性だってある。ましてや大規模修繕なんてできるわけがない。使わなくなり、興味もなくなったマンションは急速にスラム化していく。私が2015年に上梓した 『2020年マンション大崩壊』 で警鐘を鳴らしたのはこんな越後湯沢のリゾートマンションで生じている現象だった。

 その後多くのメディアがこの越後湯沢のリゾートマンションの惨状を取り上げたが、一部リタイアした団塊世代などがマンションを買って住んでいるという報道があった以外は、事態の解決には程遠い状況が続いていた。

「マイナス180万円」の内訳とは

 さて、前置きが長くなったが、なぜ「マイナス180万円」なのだろうか。 

 まず物件価格は10万円である。マンションとしては無価値という意味での10万円だ。問題はこれからだ。所有者は修繕積立金、管理費を2年間滞納していると仮定して月額5万円の24か月分として120万円を売手側に負担させるというもの。さらに部屋内の家具や家電類などの撤去費用で20万円、部屋の清掃費用や設備修繕費用で20万円、さらに本来は買手側が負担すべき不動産取得税や登録免許税などの税金負担30万円も上乗せして計190万円。つまり、物件価格は10万円だが、引き取り費用190万円を差し引いてマイナス180万円で買ってあげます、ということになる。

 多くのリゾートマンションで管理費や修繕積立金の滞納が生じている。買手側がこの負担を負いたくないので、未払い分を負担させることには理がある。だが家具家電等の撤去費用や清掃費などはかなりぼったくりの印象だ。売手側で行えばよいはずだが、売手もすでに高齢になっていて、わざわざ越後湯沢にまで出向いて処理する、清掃するのも億劫だし、どの業者に頼めばよいかもわからないケースがほとんどだ。そんな状況にある売手側の足元を見ているようにしか思えない。

 それどころか、本来は買手側にかかるはずの物件取得に纏わる税金などの諸費用までちゃっかり売手側の負担にさせている部分などは詐欺まがいだともいえる。

「不動産」が「負動産」になっている

 最近世間では、「売れない」「貸せない」「自分も住む予定がない」、三重苦の不動産を「負動産」などと称するようになった。まったく使い道がなくなっても不動産は車などの耐久消費財とは違って捨てることができない。いらなくなったからといってこの世からなくすことができないのだ。建物は解体できたとしても、土地はどんなに引っ掻いてもこの世から消すことはできないのである。ましてやマンションのような区分所有建物では自分の部屋だけこの世から消し去ることはできず、永遠に管理費や修繕費用を負うことになる。このような状態になってしまうと、資産であったはずの不動産がカネを垂れ流す面倒な「負債」に姿を変えてしまうのだ。

 だが世の中では「捨てる神あれば拾う神あり」とも言われる。まさに、今回ダイレクトメールを送り付けてきた業者は、「拾う神」というよりも、負動産どころかほとんど腐りかけている「腐動産」に群がるバクテリアのような存在ともいえるだろう。

 バクテリアは腐乱死体を食べてしまうので、死体は自然に還っていくはずだ。では彼らの狙いはなんだろう。

外国人に高値で売りつける作戦

 おそらく、購入当初より30年以上がたち、すでに厄介者となっているリゾートマンションに困惑する(おそらく)高齢者と思われる所有者の弱みにつけこんで、カネを払わせて物件を取得する。そしてこれをリフォームして、スキーに興味を持ち始めた外国人にでも高値で売りつける作戦だと思われる。オーストラリアや欧米からニセコや白馬にやってくる外国人富裕層のスキーヤーは越後湯沢には興味を示さない。越後湯沢は雪質が重く、彼らの「いいね」は得られないからだ。いっぽう最近スキーを始めた中国や香港のスキーヤーは東京から新幹線でアクセスできる越後湯沢なら便利だし、スキーを楽しめれば十分だから買ってしまう。平成バブル時の日本人と同じ思考回路だ。ここにつけこもうというわけだ。

 実際に最近では、越後湯沢のマンションを買いたいという中国などのアジア人が出始めているという噂も聞こえ始めた。また一部悪徳業者の中には、お金を振り込ませて、実際には所有権移転手続きを行わずにとんずらする「振り込め詐欺」事件まで発生しているというから事態は深刻だ。

ついに不動産の「腐動産」化が始まった

 さて、実はこの話にはオチがある。業者が一生懸命送り付けてくるダイレクトメールは、ターゲットとするリゾートマンションの登記簿謄本を閲覧して、所有者として登記されている人宛に送られてきていると思われる。

 ところが最近では所有者の一部に相続が発生している。30年も前のバブル時代に買った中高年の所有者の中にはすでに亡くなっている人も多いのだ。相続人は親が残したこんな出血続きのマンションなんて相続したくない。それでも相続は避けられない。結果どうするか。登記をせずに放置しているのだ。相続登記をしなければ、相続したことを表明していないことになるので雲隠れできる。最近は多くの「負動産」が相続登記をされずに、「所有者不明」に陥っている。マンションの場合は管理組合に相続をした旨の連絡もしないので管理費や修繕積立金が未納になっても管理組合は請求先がわからずに困惑しているのが実態だ。だからせっかくのダイレクトメールも現在の相続人の手元には届いていないケースが多い。

 買手側も「半分騙し」だが、売手側も「半分隠蔽」の構図にあるのがこの話の裏側なのだ。ついに始まった不動産の「腐動産」化。そこで登場するのが腐動産を喰いつくした挙句に、何も知らない新たな客に高値で売りつけるバクテリアたちだ。その先買った人がどうなろうと知ったことではない。不動産屋の中にはそんなとんでもない輩が潜んでいるのだ。

(牧野 知弘)

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