妻たちにとって「どういう不倫が最も許せないか」論争

文春オンライン / 2019年4月5日 17時0分

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 3年前に他界した私の母が、同世代の友人であるT夫人とよく議論していた話題がある。要は、どういった浮気が最も許せないか、という話で、両者とも遊び好きな旦那を持ちながら、その浮気の仕方には違いがあったため、こっちの方が悪質だとかそちらの方がまだマシだとか言い合うのだけど、どちらの言い分にもそれなりの説得力があり、結構白熱する。そして悪いものは悪いとか、罪に優劣がないとかいって議論を終わらせてしまうよりも、幼心に少し踏み込んだ複雑な心理を垣間見た気がした。

どのような浮気や不倫であれば、まだ許せるか

 私の母の夫、つまり私の父は遊び人ではあったものの、プレイボーイとかモテモテとかいうこととは無縁で、仕事やプライベートで出会う普通の女性というよりは、夜の蝶々を相手にお金を払って遊ぶ人であった。ただそれも、たまの息抜きにちょっと夜のお店に行くとかいうレベルではなく、しっかり浮気と呼べるレベルに入れ込んでいくタイプだったらしいが。対して母の言い合っていたT夫人の夫は、そういったお店で酒を飲むことは一切なく、仕事で知り合った独身女性との恋愛を楽しむ人で、端正な容姿のおかげもあってか、浮気で散財するようなことはほとんどなかった。

 経済的に特別豊かというわけではなかった我が家の母の方の言い分としては、恋愛を楽しんだところで男性のほとんどは家庭を壊してまで恋情を優先することはあまりないし、どうせ戻ってくるのであれば、家計を圧迫するような父の遊び方よりも、淡い恋心の動きや女性を口説き落とす行為自体を楽しむ方が実害がない、ということだった。それに、夜の店の、いわば玄人の女性というのは、客として出会った男性の人柄や頭脳ではなく、財布の中身を愛しているイメージが強く、なんとなく上から目線で自分の夫が見くびられているような気がして腹が立つ、といった事情もあったようだ。父から見て年上の妻であり、研究者でもあった母の、若く見た目が華やかな女性への独特の嫉妬混じりの偏見も大いにあったように思う。

 対してT夫人は、夜職の女性を相手にしている方が遊びに節操がある、というものだった。彼女の夫が相手に選ぶような女性は、ホステスと違って彼が家庭を持っていることに対する配慮がなく、わがままで、ともすれば妻と別れてほしいとすら願うようになる。男女など、関係に多少でもお金を介することによって、これが遊びである、という線引きをするものなので、純粋に恋愛感情だけで結ばれるような関係では相手の女性に割り切った態度は望めず、家庭を壊そうだとか探りを入れようなどと画策するようになればその方が実害が大きい、という。万が一夫が血迷えば家庭の危機だし、たとえ夫の方に確固とした線引きがあって家庭自体が壊れることがなかったとしても、逆にその場合は相手の女性に強い我慢や深い傷を負うことを強いることになり、そうすれば逆恨みなどの危険性だってある。

 隣の芝生は青く見えるというような意味で、互いにそっちの方がまだマシだと自虐していただけではあるのだけど、この二択を女性の前に突きつけると結構意見が割れる。浮気や不倫は嫌だ・よくないと言ってしまえば元も子もないが、実際は嫌だとかよくないにも濃淡があるのが現実で、その濃淡の形は人によって様々だ。コンプレックスや家庭の事情、夫のキャラクターや夫婦関係、自分の生活や仕事などあらゆる要素によって何を不快と思うかは複雑に決まる。

「最も人を傷つける不倫」なのか、「叱って許せる不倫」なのか?

 数年前にブームのようにマスコミを賑わせた有名人の不倫スキャンダルを報じる記事でも、その様子の深刻さやその後の展開にはそれぞれ大きな温度差があった。もちろんそもそもの夫婦関係によって反応が分かれるのは当然だが、そこには浮気の種類や浮気相手の属性も大きく関係しているように思う。世間の反応や仕事への影響に大きな落差があるのも、そもそもその有名人の実力や好感度の他に、最も人を傷つける形の不倫なのか、家庭を壊す不倫なのか、あるいは叱って許せる不倫なのか、意外にも敏感に嗅ぎとる臭覚を、世間の方も持っていた、とも考えられる。

 夫婦関係を終わらせるつもりが最初からある場合は全く話が別だが、夫婦関係の存続を望む場合に、それでもある火遊び衝動を恋愛に向けたいのであれば、同じ浮気でもパートナーを傷つける度合いが大きく違うことを自覚するべきだし、自分のパートナーがどんなことに敏感か、何を一番嫌がり苦痛と感じるかを知ろうという意識は絶対に必要だ。各所でこの指摘があまりなされないのは、浮気の一部を肯定し、免罪するように捉えられるからだが、現実では浮気の一部は傷を伴いながらも免罪されているわけだし、逆に最後まで許されない浮気も存在するのだから、これは真理なのだろう。以前、男性向けファッション誌の、お金や満足いく仕事を持つ男性がやり残したことを消化していく、という企画の中で、愛人に溺れるという項目の原稿を書いた時、私が最も強調したのもその点である。

恋人や旦那の浮気についてのアンケート

 とある企画で女性に向けて、恋人や旦那の浮気について次のようなアンケートをとったことがある。美人と浮気されるのとブスと浮気されるのと、どちらが嫌か。自分と同年代と浮気されるのと、自分より若い女性と浮気されるのと、自分より年上の女性と浮気されるのはどうか。浮気相手が自分と全く正反対のタイプの方が傷つくか、自分と少し似ている方が傷つくか。元恋人、自分の友人、旦那の同性、芸能人など、浮気相手として特別堪え難い相手はいるか。どの質問にも、一定のどちらも同じくらい嫌だという回答はあるものの、どちらか一方を答える数の方が圧倒的に多く、実は多くの質問で両者の数がほとんど同じ、つまり答えが綺麗に二分することが多かった。

 それなりに納得する理由がある。「美人と浮気されたら取られそう」「美人なモデルとかだったら見下されてる気がする」「ブスに手を出したら執着されそう」「ブスのくせにいい思いして腹がたつ」「同い年だと比べられそう」「若い女に乗り換えられそう」「旦那が10以上年上なので、年が近い方が楽しいのかと不安になる」「自分に持っていないものを持っている人だったら悔しい」「自分と似た仕事をしていたらライバル視してしまう」「元恋人と会ってやっぱりこっちがいいと思われるのが一番傷つく」「他の浮気は許すが、自分の知り合いだったら絶対に別れる」。

“ある予兆”は、女の側に示されていることがある

 女子会などでも話題になるそういった複雑で個性的で、大変デリケートな女心に敏感な男性は少なく、何が許されて何が許されないのかイマイチ飲み込めないままに羽目を外して、自分が想定した以上の大きなトラブルを巻き起こす人は多い。正直、そういった計らいができない人に不倫の資格などないと言ってもいい。相手の都合と自分の願望の折り合いが悪い時に、なんとか小さな隙間を見つけてすれすれのバランスを取るのであれば、その想像力と、コミュニケーションを惜しまない努力は不可欠だからだ。

 これはある意味、間に入る男の問題であって、浮気相手、愛人となる側には防ぎようのないことのようにも見える。妻の属性や性格を知らないし、男性と妻がどの程度思いやりのあるコミュニケーションをとっているかどうかも知らない。そもそも、知ったところで自分の容姿や年齢、属性を変えることは不可能だ。

 ただ、不倫関係を長く続けている者、短期間の浮気で家庭を壊してしまった者、大きなトラブルを呼んだ者の話の中には、妻の最も触れられたくない種類の不倫、という概念が影響していることはあるし、実はその予兆は、女の側に示されていることがある。

SNS経由で、妻から浮気相手に送られたメッセージ

 例えば浮気が原因で離婚し、その後しばらく浮気相手であった女と恋愛関係を続けたものの、今はそちらとも破局した男性は、専業主婦であった前妻にとって、彼と同じような高給の取れる専門職である浮気相手の属性が、普通以上に気に障ったのだろうということを、最近になって上司の指摘により気づいた、と言う。

 それもまた彼の事後的な想像でしかないが、彼はまだ不倫関係だった時に、浮気相手に自分の妻の愚痴を頻繁にこぼすタイプであった。当然、愚痴の中に含まれる情報から、愛人側はある程度の妻に関する情報、性格や経歴などを知ることができた。彼の浮気が妻の知るところになったのは、長い不信によって携帯電話やSNSをチェックされたことだが、トラブル発覚時にSNS経由で妻から浮気相手に向けてメッセージが送られたことがある。その時、彼の離婚と自分との再婚を希望していた彼の愛人は、自分が彼と同じ職業であることなどを強調して対応した。

 その対応の中には、浮気相手の妻の属性への蔑視や逆恨みによる見下しがあったのは確かだが、わざわざそういったことをしたのは、その事実が妻に対して持つ攻撃性に自覚的だったからとも考えられる。男よりも、浮気相手の方が妻の心境に対して想像がついていたのだとしたら、家庭を壊すつもりの彼女にとっては好材料であっただろう。逆に言えば、家庭を壊すような関係を望んでいない女性だったら、もっと相手を傷つけない行動を選択できたと言うことだ。男性を介して繋がる見ず知らずの女同士の方が、間に入ってどちらとも関係を持っている男性よりも、良くも悪くも相手の気持ちがわかる、といったことは結構な確率で起こりうる。

 20代後半から30代半ばにかけて長く既婚者との恋愛を経験したとある女性は、こんなことを言った。「奥さんや家庭について何の知識もなくても、自分のことを愛している男をよく冷静に観察して、思考回路を想像すると、奥さんが自分との関係を知った時に許すかどうかはわかる」。つまりは、日頃から相手の気持ちに想像力を働かせるような男性でなければ、タブーを犯している危険性がある、と言う意味だったのだと思う。

(鈴木 涼美)

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