タイムリーヒットと冷やし中華――石原彪のお母さんと再会した日

文春オンライン / 2019年5月11日 11時0分

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冷やし中華を食べる石原選手のお母さん ©かみじょうたけし

 ゴールデンウィークも終盤の5月5日、僕はオリックスvs楽天が行われるオセアンバファローズスタジアム舞洲に向かっていた。いつものようにJR桜島駅からタクシーに乗るも此花大橋を渡った所で大渋滞。4年前の履正社と大阪桐蔭が初戦で激突したあの夏を思い出させる。しかし今日は高校野球は行われていないはず。

 えっ、確かにファームの楽天を関西でチェックできる機会なんて滅多にない。まさかこれ全部!?

「ゆり園、凄い人ですねー。」

 えっ?

 運転手さん曰く、球場奥にある大阪まいしまシーサイドパークで行われている100万株のネモフィラが連休中お客様から大人気だそうだ。

 野球関係ないんかーい。

 ほどなくして到着。「オリックス勝つといいですね!」。野球話に花を咲かせる事がなかったのは言うまでもない。

球場に聞き覚えのある声が…

 2017年秋だったか、高校野球観戦の帰りに米村理コーチにご挨拶にうかがって以来の球場、あの時は夕方だったのでわからなかったが、この日は雲ひとつない青空がひろがり燦々と照りつける太陽がまるで春のキャンプ地に来ているかのようでテンションも上がる。バックネット裏はファームの試合にもかかわらずプレイボール一時間前にはもう満席状態であった。一番後ろの席のさらに後ろの空間に腰掛け客席を眺める。3塁側には各々推し選手のユニフォームを着た楽天ファン。僕の目の前には石原彪選手のユニをまとった女性が団体でお越しになっていた。楽しい会話が聞こえてくる。

 もしかして……

 その声には聞き覚えがあった。藤田一也選手が毎年京都で自主トレを行うのだが石原選手も毎年参加している。地元が京都という事もあり石原選手のお母さんもいつもお手伝いに来られていて、見学に来た僕にまで「コーヒー入れましょうか?」と気遣ってくれる優しい方なのだ。

「こんにちは、石原さんですか?」

「あら! かみじょうさん。」

 やはりお母さんであった。聞けば地元京都の友達と一緒に応援に来たのだという。

「今日はファーストみたいですわっ」

 普段は捕手だが、ドラフト2位ルーキーの太田光選手やU-23日本代表でも活躍した堀内謙伍選手などファームにも未来の扇の要候補がたくさんいる。この日も先発マスクは堀内選手だった。

「活躍期待しています!」

 そうこうしているうちに試合は始まった。楽天先発は藤平尚真投手、オリックスは松葉貴大投手と、この投げ合いがファームで見る事ができるのか!? と喜んでいたのも束の間、2回、3回に1点ずつ取られ2点のリードを許してしまう。なんとか流れを変えたい楽天は4回から石原選手をキャッチャーにもってきた。もちろん母率いる応援団にもさらに熱が入る。

お母さんと冷やし中華

「わぁ藤平−石原バッテリーやん!」

 どこからか声が聞こえる。そうU−15日本代表でもバッテリーを組んだ2人がプロ野球選手になってまた再びなのだから野球ファンにはたまらない。そして4回をゼロに抑えた次の回、ツーアウト2、3塁で打席には石原彪。応援団にもより一層の力がはいる。

「カーン!」

 見事に同点に追いつく2点タイムリーをはなった。

母「良かったぁー!」

かみじょう「お母さん良かったですね!!」

母「良かったー、冷やし中華こぼさなくて!!」

かみじょう「えっ……」

 どうやらお昼ご飯に食べようとしていた冷やし中華を開ける寸前に息子が同点タイムリーを放ったらしく、嬉しさのあまり思わず立ち上がってしまい、封を開けていれば前の方に冷やし中華が……

「なんで今食べようとしててん!?」

 周りからいじられる母。

 同点に追いついたのも束の間、オリックスの5回裏の攻撃はあっと言う間にノーアウト1、2塁。流れ的にも1点もやりたくない場面でセカンドランナーが若干飛びしたとみるや、石原選手は矢のような送球でセカンドランナーを刺してしまう。

「おい、冷やし中華こぼすなよ!(笑)」

 振り向いた前列の仲間からいじられる母。

 さらにすかさず1塁ランナーも盗塁を試みるも、セカンドベース上のグラブにスライディングしてくるのがわかるくらいのタッチアウト、石原選手の強肩で気づけばツーアウトランナーなし。

「石原さん、冷やし中華食べる暇ないやん!」

「ごちそうさまでした」

「食べたんかーい」

ここ数年探しつづけている「未来の嶋基宏」

 試合は結局2−2の引き分けで終わり、石原選手本人と試合後に少しお話も出来た。

かみじょう「ナイスバッティング! ナイス強肩!」

石原「ありがとうございます。まだまだです」

かみじょう「あなたのお母さん冷やし中華こぼすくらい応援してたよ!」

石原「なんですかそれ(笑)」

 この試合で活躍をみせた石原選手は8日のホークス戦から一軍に合流するや、7点差をひっくり返す大逆転勝ち、そして9日には今シーズン一軍初スタメンマスクをかぶり、序盤に点は取られるも9回裏に銀次選手のタイムリーで、2試合連続のサヨナラ勝ちを納めた。何かいい空気をもっているのかもしれない。  

 ふと2年前に泉の練習場、ベースボール・ファースト・リーグ選抜との試合で5打数5安打、両打席で2本のホームランを放った当時の田中和基選手を思い出した。「未来の松井稼頭央」を探していたチームにこれほどハマる選手はいないと確信した。

 そしてここ数年探しつづけている「未来の嶋基宏」。しかし技術的な事だけでは到底辿り着けない絶対的な信頼度はまだ誰しもが近づく事も出来ていない。ただ何年かかるかはわからないが、あの強肩に僅かではあるが、確かな光をみたのは僕だけではないと思う。石原彪、ひょっとすると彼の活躍が今シーズン、そして未来の楽天の命運を握っているかもしれない。

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(かみじょう たけし)

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