選手に恐れられる鬼軍曹 ロッテ・鳥越裕介ヘッドコーチが目を潤ませた日

文春オンライン / 2019年5月22日 11時0分

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募金活動を行う鳥越裕介ヘッドコーチと井口資仁監督 ©梶原紀章

「涙が出そうやわ」。試合前のグラウンド整備中にピンクのベースが一塁、二塁、三塁に埋められていくイベントが行われる様子を見て鳥越裕介ヘッドコーチはポツリとつぶやいた。

 レディースデーとして行われた5月18日のイーグルス戦(ZOZOマリンスタジアム)。乳がんの撲滅、検診の早期受診、乳がん体験者と家族の支援を啓発・推進する「ピンクリボン活動」に沿った取り組みの一環として試合でピンクのベースが使用された。井口資仁監督と共に募金活動も行っていた鳥越ヘッドは特別な想いでピンクリボンの象徴であるリボンの模様が描かれたピンクのベースが設置されていく様子を見つめていた。

悲しい想いをする人を一人でも減らしたい

「嫁が乳がんと分かった時には、もうステージ4だった。乳がんに関する本とかを読み漁ったし色々な人に相談をした。悲しかったし、辛い事だった。自分と同じ思い、悔しさを味わって欲しくない。早期の検診をして欲しいと思う」

 鳥越ヘッドは08年に夫人を乳がんで亡くしている。34歳の若さだった。悲しみに打ちひしがれたが、湧いてきたのは同じような悲しい想いをする人を一人でも減らしたいという強い決意だった。

 ホークスでコーチをしていた当時、球団に自ら提案を行い、乳がんの撲滅、検診の早期受診、乳がん体験者と家族の支援を啓発・推進する「ピンクリボン活動」とのコラボ企画がスタートした。そして千葉ロッテマリーンズのヘッドコーチを務める今もホークスでは年々、規模を大きくして活動が続いている。マリーンズもまた昨年から募金やピンクのベースなど様々な企画でメッセージを発信し続けている。

「こういう立場にいる人間として、率先して活動をしたり、発信しなくてはいけないと思っている。活動を通じて乳がんの事を知ってもらいたいと思った。今は早期発見、早期治療で治ると言われている。本人も周りもきつい病気。一人でも多くの人が治って欲しい」

 昨年、募金が始まる前にマイクを握った鳥越ヘッドは目を潤ませ、声を震わせ、そう語っていたのは印象的だった。

いつかは12球団で手を取り合って

 今年もレディースデーの季節が訪れた。それより少し前の福岡でのホークス戦でも同様のイベントが行われ、鳥越ヘッドはビジターチームであったものの志願をして募金活動に参加をした。ホークスでは乳がん検診車が待機し、無料で受診ができるなど、よりメッセージ性の強いものとなった。それこそが望んでいた姿であり、今後も続けていきたい活動だ。想いに賛同をしている井口資仁監督もまたZOZOマリンスタジアムでの募金活動に一緒に参加をすると囲まれた新聞記者に熱く語った。

「こういうメッセージ発信や活動は大事です。ただ私としては球団ごとではなく12球団で取り組んでもいいのではないかと思っている。メジャーは母の日などにリーグで取り組んで広く行っている。6球場で同じ日にピンクのベースなどで試合をしてメッセージを伝える日が来ればと思っている」

 元メジャーリーガーはアメリカでの経験も交え、ピンクリボン活動が広くプロ野球界に根付くことを切に願った。幸い、早期検診を推奨する活動は徐々に広がりを見せており今年はセ・リーグではカープも実施している。日本においてプロ野球はもっとも注目されているプロスポーツであり、メッセージ力は極めて強い。このような活動に12球団で手を取り合って、積極的に取り組んでいける日が近い将来、訪れて欲しいと思う。

 普段は鬼軍曹として選手に恐れられる存在である鳥越ヘッドコーチは試合前、ピンクのベースを見つめ、目を潤ませた。その胸の内にある悲しみは計り知れない。メッセージを送り続けることで悲しみが少しでも小さくなる社会作りに貢献することは日本プロ野球にとって大きな義務である。

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(梶原 紀章)

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