「日韓断交!」「報復制裁!」なぜ日本人は不愉快な反日ニュースに興奮してしまうのかーー文藝春秋特選記事

文春オンライン / 2019年5月4日 6時0分

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韓国の文在寅大統領(右)と会談する安倍首相 ©共同通信社

日韓関係が冷え込む中、安倍総理は6月に予定されていた日韓首脳会談の見送りを検討しているという。令和の時代の日韓関係はどうなるのか。「文藝春秋」の特選記事を公開します。(初公開 2019年3月19日)

 最悪といわれる日韓関係の不思議は、韓国側では大統領がしきりに「親日清算」を公言し、国会議長が「天皇謝罪要求」をぶつなど反日言説が乱舞し、日本側では反韓感情の高まりから対韓制裁論や国交断絶論まで語られるなか、観光など双方の人的往来は史上初めて1千万人を超すほど盛況をきわめていることだ。この不思議を解くため月刊 「文藝春秋」4月号 で、元駐韓大使の寺田輝介氏、韓国富士ゼロックス元会長の高杉暢也氏、元陸将の福山隆氏、新潟県立大教授の浅羽祐樹氏という各界の“韓国経験者”に集まってもらって現状と展望を議論した(「『日韓断交』完全シミュレーション」)。

日本人の鬱憤やスカッとしたい気分

 この座談会を行った大きな動機は、メディアをはじめ日本の世論に出ている「日本を非難ばかりしている韓国とはもう付き合うな」「いつも日本の足を引っ張る韓国とは関係を絶つべきだ」といった声の当否を検証することだった。

 こうした声は、韓国から連発される不愉快な反日ニュースに接している日本世論の正直な感情の表れである。ソウルから見ていても韓国をめぐる日本人の鬱憤やスカッとしたい気分はよく分かる。だが、隣国との関係のあり方を感情だけで決めるわけにはいかない。

 結局、安全保障や外交、経済、文化など国益を前提に冷静に計算した場合、制裁や断交は現実的ではないし、とくに現在の日本の国際的立ち位置からは「無理」ということになる。すると、「日本は損を覚悟してでも韓国に断固対処すべき」という声が出るが、そうした覚悟論あるいは強硬論は「感情」である。対外関係で必要なのはスカッとするカッコいい感情論ではなく、面白くない冷静な計算である。

「韓国討つべし!」と感情が高ぶる歴史的背景

 記者として韓国あるいは日韓関係との付き合いは半世紀近くになるが、韓国人が日本に対し特殊な感情を持っているように、日本人も韓国に対しては他の国相手にはない、興奮に似た感情の表出があるように思う。たとえば中国相手に安保や外交、経済などでひどいことがあっても、反中・嫌中感情あるいはヘイトスピーチは韓国ほど問題にならない。

 その理由は、韓国との歴史的、文化的あるいは人種的な「近親関係からくるDNA(遺伝子?)のせい」と言うしかないが、お互いに引越しできない地理的・地政学的関係からくる関係の深さと利害関係の重なりが、そうさせるのだ。従って、“対韓不愉快”については、興奮ではなく「隣国同士はよくケンカするもの」といった地球俯瞰的な達観も必要だろう。

 ところで対韓制裁・国交断絶論など「韓国討つべし!」といった感情の高まりにはどこか“新・征韓論”的な印象がある。明治の征韓論は、終局的には韓国併合――朝鮮半島支配となり、その歴史的ツケにわれわれは今なお悩まされているが、こうした韓国への「引き込まれ、深入り」には先述したDNAが背景にある。

 と同時に、彼の地の対外関係の手練手管である“引き込み上手”も作用している。感情的な興奮は判断や選択を誤らせる。彼の地に対する興奮による「引き込まれ、深入り」は禁物である。

これからは「征韓論」ではなく「制韓論」

 それに、現在の韓国はもはや日本に“征韓”されるような弱い存在ではない。経済力や外交力でも日本の制裁がたやすく効果を発揮するような相手ではなくなった。現に、慰安婦問題など歴史問題において、日本は大きく強くなった韓国の外交力に負けている。イヤでもこの現実から目を背けてはいけない。だからこそ、冷静な判断が必要なのである。

 そんな観点からあえて言うならば、これからは“制韓論”でいくしかない。明治の征韓論は、国際情勢と国際的基準で韓国に対し開国・修交を迫ることから始まったが、現代韓国の反日つまり日本に対する不法や無作法、不愉快……は、国際社会を味方につけ国際的常識・基準という圧力によってコントロール(制御)するしかない、というわけだ。いわゆる「対韓・歴史戦」というのは、つまるところ外交戦である。

 それにしても韓国では近年、政治、外交、メディアの反日と、人びとの対日親近感の乖離が目立つ。われわれは後者を取り込んで前者を“制御”するという、制韓論的な情報戦・外交戦に取り組む必要がある。

(黒田 勝弘/文藝春秋 2019年4月号)

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