店がない!! 中国の首都・北京の街並みが「シムシティ化」している理由

文春オンライン / 2019年5月12日 11時0分

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こういう光景もどんどん見られなくなっている(鄭州で撮影) ©山谷剛史

「中国のIT化がスゴい」といわれる現在においても、中国旅行に、昔ながらのごちゃごちゃ感を期待する人はそれなりにいると思うのですよ。ごちゃごちゃ感とは、例えば見るからにチープな商品が並ぶ不揃いな店だらけの商店街だったり、通路の真ん中まで商品や長椅子に座って寝ている店員が飛び出したりしている光景です。

 もちろん高層マンションが市街地に立ち並ぶ今となってはなかなか見つけづらくもありますが、ほとんどの都市において個人商店や安食堂が道路沿いに並んでいて、そこでのB級グルメやジュースやお菓子などで胃袋を満たすことができます。

住宅地ともなると味気ないのにも程がある

 ところが中国の首都・北京だけは別。この1、2年は北京の路地から個人経営の商店や食堂が消えていっています。北京の街中の観光地では、お土産屋も商店も並ぶので、そんなに違和感はないのですが、普通の住宅地ともなると味気ないのにも程がある。

 中心部に近い住宅地や商業地ならコンビニもずいぶんありますが、筆者が選んだホテルはやや郊外の立地でした。ちょっとジュースかお菓子でも買うかと散歩するも、歩けど歩けど商店ひとつ見当たらず。以前は見かけた麺やご飯を出してくれる食堂もありません。日本のように路上に自動販売機があるわけでもない。

 スマートフォンアプリから借りられるシェアサイクルを借りてサイクリングをするも、他の都市ではあるはずの個人商店も食堂もなくなっているのです。進んでも進んでも、高層マンションが何棟もある大規模団地を囲う壁や柵がひたすら続きます。他の都市に比べて歩いている人もまばら。ならばスマートフォンを取り出し、地図アプリからコンビニを検索するも、あるはずのコンビニは閉店する始末。夜になって屋台が出るならまだ味があるのですが、屋台もない。

 筆者は中国の地方都市の大規模マンションに拠点がありますが、家のドアからマンションの外に出るまで徒歩5分で、マンションの外側に張り付くように商店や食堂が並ぶのですが、ちょっとした買い物や食事でも、往復10分かけなければいけないわけです。北京ではその商店や食堂すらないわけで、これは大変だなあと思ったものです。

道路沿いの商店は、すべて違法建築だったので壊す

 北京の住宅地は、まるで街づくりゲーム「シムシティ」や「A列車で行こう」で作られた街のようなんですよね。かつて雑居ビルや小さな住宅が密集するエリアがあって、それをコントローラーのボタンひとつで「ボンッ」と更地にして、高層マンションやオフィスビルをボタンプッシュで「ドンッ」と建てる。1階部分には商店はなく、人の匂いがないような計画的な世界で、住民が外で買い物をすることも食べることも時間がかかりそうです。

 そんなシムシティで作られたような北京の住宅地は、少なくとも旅行者にはえらい不便な街だな、無機質な街だな、とは思ったものです。ちょっとは北京に旅行に行く外国人旅行者のことも考えてくれよ。

 北京では「開墻打洞」というキーワードをもとに、道にせり出した個人商店や食堂を一掃する動きが特に2017年以降進んでいます。開墻打洞」は文字的な意味で言うなら「こわせ! こわしまくれ!」、マイルドに言うなら「壁をなくそう、道をひらこう」となります。

 かつて北京でも見られて今はなくなった道路沿いの商店の並びは、すべて違法建築だったので壊す。これにより綺麗さっぱり、道は広がり、通りの景観はよくなる。おまけに店をやりくりしていた、北京住民よりは貧しい外地人を追い出すことができたというわけです。貧富の差による犯罪やトラブルのもとを一掃したとも現地では解釈されています。

案外不満が出ていないという実情も

 北京の名門大学「清華大学」の研究生が発表した「ビッグデータと都市計画」に関する論文で、北京のシムシティ化について調査を行っていました。その中で住民にアンケートを行っていて、シムシティ化の結果として「多くの店がなくなり不便になった。特に老人への影響が大きい。まずは閉店前に代替えの店を設置すべき(設置していなかった)」「ある日突然連絡なく道路沿いシムシティ化作業が始まるので移転の補助をしてほしい(していなかった)」「店をなくして道路が広がったが代わりに違法駐車が増えた」などという点で地元民からの不満があがっているそうです。

 街がシムシティ化したらそりゃ不満は出るだろうと思うところです。しかし、北京で長く在住する日本人にヒアリングをしてみると、案外そうでもない実情もあるようです。

「野菜も卵も牛乳もスーパーから届けてもらえますしね。ネットが活用できない老人とてスーパー行けば物売ってるし、家族がネットで注文してくれるし」

「コンビニチェーンがなくなっても、別のコンビニチェーンが台頭してくるので、近所からコンビニが消えるなんてことはないですね」

「スモーカーへの打撃は結構おおきかったですね。デリバリーがタバコに対応してなくて、小さい店がなくなって、とにかく近場でタバコが買える店が減って……」

「夜中まで仕事してる人がちょっとしたものを買うのに使ってたお店がなくなって、不便になったという声は結構あります」

……こんな意見がありました。

個人商店や市場から食材がデリバリーできるような仕組み

 日本ではネットスーパーが細々と展開していますし、Uber Eatsなどの食事のデリバリーをテレビやチラシで見るようになりましたが、中国ではキャッシュレスとともに、すでに多くの人口に普及しています。Uber Eatsではレストランがサービスに登録し、ユーザーが購入すればUber Eatsのデリバリースタッフが運ぶわけですが、美団(Meituan)などのアプリでは、これと同じ要領でスーパーやコンビニはもちろん、個人商店や市場から食材がデリバリーできるような仕組みになっているわけです。配送料は一定以上買えば無料だったり、そうでなくても5元(約80円)程度だったりと、日本よりずっとお手軽価格で利用できます。

 かつて「コンピューターおばあちゃん」という歌がありました。1981年より歌われた、パソコンでなんでもできるおばあちゃんを歌った未来感ある曲です。一方、日本を超えるIT化を果たした中国においても、デリバリーをオーダーするおばあちゃんはそう多くありません。老人がIT化に慣れるのは中国でも難しい。スーパーの顧客を見ると老人の割合が高いですが、家族の絆が強いので、若い家族が代わりにデリバリーで食品を注文するわけです。

 筆者も中国の地方都市でも利用はしていますし、状況によって散歩がてら実店舗を利用したり、美団のアプリを利用してデリバリーしたりしています。北京はネット普及率が以前から上海以上に高い都市なので、それゆえに店が突然なくなってもなんとかなっちゃうようなのです。キャッシュレスどころかショップレスが当たり前になっているわけです。

ネット最先端都市の北京市民の行動は……

 街のシムシティ化でショップレス化が進んでいるのと並行して、デリバリーにも対応し、セルフレジで買い物をする半無人コンビニ「便利蜂」が2017年2月に1店舗目を開店しました。すると、その後の2年間で、600店舗を超えるまでに急増し、代わりに既存のコンビニが業績不振で店を閉めています。野菜や食品や日用品の販売のほか、様々な住民向けサービスを提供する複合コンビニ「国安社区」は、絶頂期の400店舗に比べ、現在は155店舗と、6割が閉店する状況となっています。

 道沿いの店が少なくても、いい店にしか行かない。ネット最先端都市の北京の市民は、そう行動で応えていました。

 シムシティ化が進む中国には、それをフォローするネットサービスがあり、それがあるから人民も受け入れていました。ほかの都市でも、日本人が想像するごちゃごちゃ感満載の路面店がなくなっていく光景は当たり前になっていくかもしれません。

 山谷剛史氏ほか、高口康太氏、伊藤亜聖氏、 水彩画氏、田中信彦氏による共著『 中国S級B級論 ―発展途上と最先端が混在する国 』(さくら舎)が発売されました

(山谷 剛史)

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