誤解なんてあったっけ? 自民党「失言防止マニュアル」の実用性を考える

文春オンライン / 2019年5月21日 11時0分

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多種多様な失言で知られる麻生太郎財務相 ©文藝春秋

 長年、人にまつわるヒューマンリスクを専門にしてリスク管理の仕事に携わっているが、こんなマニュアルも珍しい。

 自民党が作成して所属議員に配布した「失言防止マニュアル」。早速、党内からは「レベルが低い」とか「恥ずかしい」という声さえ出ている。失言する議員が次々と出てくるのだから致し方ないと思うのだが、批判噴出のマニュアルとはどんなものだろう。

はて、誤解なんてあったっけ?

 マニュアルは、自民党遊説局が今年2、3月に開いた研修会の要旨をまとめたもの。最初に引っ掛かったのが「『失言』や『誤解』を防ぐには」というタイトル。はて、誤解なんてあったっけ? 誤解というのは、相手の言葉の意味を取り違えたり、間違った解釈や理解をすること。公表されることを前提に題にするなら、「誤解」というより「暴言」ではないのかと思うのだが……。

 そうか、これは自民党が所属議員に配布した議員目線のマニュアルだ。たとえ世間が「失言」と捉えても、政治家はあくまで「誤解を招いた言葉」で通してしまうこともある。だから「誤解」が使われたのだ。

自民党には豊富な失言事例が集まっている

 マニュアルは、ここ数年の失言や暴言を念頭に作成されている。文中には「リスクを軽減する3つの対策」とあり、要点がコンパクトにうまくまとまっている。プレゼンなどでも伝えたい部分を3点に絞るというのは常套手段で、記憶に残りやすい。良い点は、注意書きや対策のどれに対しても事例がすぐに思い浮かぶことだ。

 いくら中身を上手に作成しても、事例がなければピンとこないこともある。その点、このマニュアルはどこを読んでも「あぁ、あの人か」と、その対策まですんなり頭に入りやすい。いまや自民党には豊富な失言事例が集まっている。失言防止マニュアルは、自民党の失言カタログでもあった。

 注意書きの1つ目は「発言は『切り取られる』ことを意識する」。桜田義孝前五輪相のように、切り取られるような発言が上手い政治家もいる。だから失言を繰り返すわけだが、その対策は(1)として「句点(。)を意識して短い文章を重ねていくことで、余計な表現も減り、主張が誤解されにくくなります」と説明されている。

「文章は短く、ダラダラ説明しない」は、効果的に話を聞かせるための基本だ。確かに、短い文章が重ねられて余計な表現がなければ、それが失言だったとしても、わかりやすくインパクトは大きい。「そりゃ総理とか副総理がそんなこと言えません。でも私は忖度します」。塚田一郎前国交副大臣の失言は、ある意味では対策(1)を実践した結果だったのだ。

メディア対応の基本を知らない政治家が少なくない

 2つ目の注意書きは「報道内容を決めるのは目の前の記者ではない」。メディア対応・対策は政治家として重要項目であるため、発言が丸ごと報じられるわけではなく、視聴者を意識した編集が入ると懇切丁寧に解説。この丁寧すぎるところがこのマニュアルの良い点だ。裏を返せば、それだけメディア対応の基本を知らない、わからない政治家がいるということでもある。

「目の前の記者を邪険に扱わない」「丁寧に対応」「親しい記者の取材も注意」。もっともな注意点が挙げられ、あの大臣やこの大臣の歪んだ顔が浮かんでくる。丁寧なマニュアルに沿って対応していれば、マニュアル作成がもう少し早ければと悔しがっているかもしれない。

注意を促したい党内事情でもあるのだろうか

 注目すべきは「タイトルに使われやすい『強めのワード』に注意」。表現が強くなる可能性のあるパターンを具体的にわかりやすく5つに分類している。分類を見れば、このところ自民党で勃発した舌禍事件がおさらいできる。

「歴史認識、政治信条に関する個人的見解」には、「謝罪もできず長期化の傾向」と但し書きがついている。わざわざ但し書きをしたのは、注意してほしい人物に面と向かって言えないけれど、注意を促したいという党内事情でもあるのだろうか。

「ジェンダー(性差)・LGBTについての個人的見解」「事故や災害に関し配慮に欠ける発言」「病気や老いに関する発言」「気心知れた身内と話すような、わかりやすく、ウケも狙える雑談口調の表現」。分類ごとに政治家の顔が浮かび、問題が何なのか、何がどういけなかったのか即座に飲み込める。ここでは、誰もがスマホで写真や映像を発信できることを意識すること、発言をコントロールする大切さも指摘されている。

注意すべき場所として身内の会合や酒席

 発言をコントロールするための対策(2)としては「支持者や身内と使っている『危ない表現』を確認」。前述した塚田氏の「忖度します」発言などは、アドバイスにある「日頃の言葉遣いを、第三者にチェックしてもらいましょう」をやっていれば避けられたかもしれない。注意すべき場所として身内の会合や酒席などをあげ、盛り上がる「トークテーマ」や雰囲気に注意を促している。

 桜田氏の辞任前にこのマニュアルができていたら、きっと書面を読み続けるだけの大臣になり、あの面白さは印象に残らなかったかもしれない。対策(3)では「『弱者』や『被害者』に触れる際は一層の配慮を」と、弱者や被害者目線を忘れないよう呼び掛けている。

マニュアルを作成すれば「やった感」があるが……

「わざわざマニュアル化するものか」という意見はもっともなのだが、マニュアルにしなければ気がつかないこともある。一方、マニュアルは作って配布が終われば「やった感」があり、そこで終わってしまいがちだ。徹底するには、その後のフォローが必要になる。苦手な質問や反論された時の対応、失言しないための話法のバリエーションなど、まだまだ取り組めることはあるだろう。

 そもそも、失言する政治家は言っていいことと悪いことの判断がつかない、言っていいラインが決まっていないのが問題だという意見も聞く。そこは政治家としての「見識」と「資質」の問題である。もう議員になっちゃった先生たちには資質があるというのが大前提であり、マニュアルもそこまで付き合っていられない。

 失言を失言として認識できなければマニュアルがあっても意味はないし、自身の失言リスクを客観視していなければマニュアルを読む気は起きないだろう。

 そこを少しでもカバーするなら、第三者にチェックしてもらいながら失言の「ネガティブリスト」を作成するのがいいだろう。ネガティブリストとは、「言ってはいけないこと」のリストだ。リストがどれだけ長くなるのか、政治家の先生たちには、そこで自分の失言リスクと資質を振り返ってもらうしかないだろう。

 できれば党の垣根を越えて、マニュアル配布をお願いしたいところだ。

(岡村 美奈)

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