文不人気でチャンス到来? 韓国保守派の足を引っ張る、朴槿恵の嫌われぶり

文春オンライン / 2019年5月24日 11時0分

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文在寅韓国大統領 ©Getty Images

 朴槿恵前大統領の弾劾・罷免から2年あまり。瀕死の状態に陥ったともいわれた保守派で第一野党の「自由韓国党」が“打って出ている”。

支持率の上昇で保守派は「錯覚している」

 保守で第一野党の「自由韓国党」の支持率が今年に入り、じんわり上昇ラインをたどっている(昨年7月10%→5月17日24%、与党第一党「共に民主党」は同51%→38%、いずれも韓国ギャラップ)。この勢いに乗り、来年4月の総選挙に向けて一気に保守の結束を固めようと、「国民の中へ 民生闘争大長征」と物々しく銘打ち、黄教安同党代表が韓国全国を巡ったりもした。しかし、と世論調査関係者は言う。

「保守派は錯覚しています。文在寅政権離れは起きてはいますが、それが保守派に向いているわけではない。たとえば、文大統領をもっとも支持しない層といわれる20代男性も必ずしも保守派になっているわけではありません。あくまでも政策離れを起こしているに過ぎない。

自由韓国党の支持率が上がっている背景には、失業者が史上最大となるなどの経済の失速や対北外交で現政権の失策についての批判が高まる一方、黄教安氏が自由韓国党の新しい党代表となり、党全体が安定感を持ってきたことが重なっています。

 しかし、保守派が以前のような支持率を回復しようとするなら、まず、過去ときっちり断絶しなければいけない。朴槿恵前大統領の弾劾、罷免という“大事件”と向き合い、朴前大統領との関係を整理しなければ従来の支持を得ることは難しいでしょう」

 保守派にとって悪夢はまだ終わっていない。

朴前大統領の嫌われぶり

 保守派再生のカギを握るその朴槿恵前大統領の嫌われぶりといえば、やはり酷いままだ。

 4月17日、朴前大統領の「刑の執行停止」がソウル中央地裁に申請された。「頸椎や腰椎のディスクが好転せず、焼かれたような痛みとナイフで肉をえぐられるような痛みで不眠になっている」(京郷新聞4月26日)などという健康上の理由からだった。久しぶりに聞いた朴前大統領の消息だったが、これが報じられると世論はざわついた。

 世論調査(リアルメーター)では62%が保釈に反対。さらに、申請のタイミングでも物議を醸した。ネットで世論を操作したといわれる「ドゥルキング事件」で逮捕され、一審で実刑を受けて拘置所にいた金慶洙慶尚南道・現知事が保釈された同じ日だったためで、「金知事が釈放されたのだから自身も世論に訴えようとしたかもしれないが重みが違う」(進歩派韓国紙記者)などと揶揄する声が噴出した。

 朴前大統領が弾劾、罷免された当時、80%を超える人が弾劾に賛成し、国会でも同じくほぼ8割の国会議員が弾劾案に賛成するなど韓国に漂う雰囲気は反朴槿恵一色だった。

 罷免されてからほどない2017年3月31日には逮捕され、拘置所へ。その後、裁判が続いていたが、その年の10月からは朴前大統領は裁判をボイコット。拘束期間は異例の計3回延長され、拘置所暮らしが続いていた。最近、ひとつの裁判で有罪判決が確定したが、複数の裁判を抱えているため刑務所ではなく拘置所に留まっている。

拘束期間は歴代大統領で最長に

 拘置所での対応がVIP並みだとも騒がれたが、拘束期間は、拘束された歴代大統領の中でもっとも長くなった。無期懲役の判決を受けた全斗煥元大統領と懲役17年を受けた盧泰愚元大統領は共に特別恩赦で2年あまりで釈放されたが、このふたりの拘束記録を破ったといわれている。

 3月初めには、李明博元大統領が健康上の理由から保釈されていて、その時は韓国世論の関心も特に向けられることはなかったのに、朴前大統領は話が違うようだ。大統領選挙当選当初から支持率の高かった大統領ではなかったが、それにしても、これほどまで嫌われるのはなぜだろう。

 政治評論家でもある龍仁大学のチェ・チャンリョル政治学教授はこう解説する。

「朴大統領は、職権を乱用し、その権力を行使して崔順実という知己の女性とともに企業から資金まで出させ、大統領としての資格がないと審判されて、弾劾訴追され、罷免されました。

 複数の罪に問われて裁判中ですが、(17年10月からは)裁判をボイコットまでしている。まったく自身の行為を反省していない。韓国の人々はかつての大統領が罪に問われて服役しても恩赦ででてきてしまってまったく改心しないことを目の当たりにしてきました。もう、そんな不正は許してはならないという雰囲気が国民の中にある。

 それに、そもそも朴前大統領は釈放の条件には当てはまりません。李元大統領は持病などで健康上の問題があると判断されましたが、朴大統領の場合は腰痛でしょ。まず、条件が合わない」

 自由韓国党の男性支持者(70代)も言う。

「(朴前大統領は)釈放だなんだと騒がないで、静かにしていてほしい。

 そもそも弾劾訴追されて罷免されたということ自体が許せないのです。文民政権になってから大統領が弾劾されたのは初めてで、それを保守政権から出してしまった。彼女に政治力があったなら、弾劾訴追はいくらでも阻止できた。それは側近にも同じことが言える。要は、彼女、彼らに政治力がなかったということ。保守派を破壊したのです。

 北朝鮮が飛ばしたミサイルをミサイルといわないような北朝鮮寄りの政策をとり、経済を落ち込ませるなど、あまりにも現政権が酷いからこそ、よけいに朴前大統領には腹が立つ。自由韓国党は、まず朴大統領支持派を一掃すべきだ。朴前大統領とはきっぱり袂を分かち新しい保守政党にうまれかわらなければならない。今のままではまだ(進歩政権に)勝てない」

 朴前大統領の弾劾訴追時、大統領側の弁護団にいた弁護士はまた異なった見解だ。

「今、朴前大統領が問われている収賄は賄賂をもらって成り立つもので、朴大統領は受け取っていないので、収賄罪は成り立たない。今行われているのは、小説です。茶番です。でも、国民はそれを信じ切っている。真実を知らないから、朴大統領に厳しくなる。進歩政権ではまず刑の執行が停止されることはない」

若い人にとっては「本の中の人」に過ぎないが……

 冒頭の世論調査関係者はこう分析する。

「朴前大統領の支持層は高齢者層で、父親の朴正煕元大統領時代の記憶がある層です。この影響が大きい。その記憶が残っているのは今の50代前半まで。40代以下にとっては朴正煕元大統領は本の中の人に過ぎない。

 朴前大統領の支持者の中でも熱狂的なのは高齢者の女性です。大統領時代も90%近い支持率がありました。反対に若い層、20代の女性からは20%前後ともっとも支持がなかった。理由は保守的で女性のための政策も考えていないし、共感できるものがないなど複合的でした。この層は、今の文大統領では支持率がもっとも高い層です。

袂を分かつことができないジレンマ 

 保守派が巻き返しを狙うのであれば、朴前大統領と断絶し党をどう整備するか、そして若い層をどう取り込むかが支持率回復のカギになるでしょう」

 保守派も一枚岩ではない。

「自由韓国党」は朴前大統領を強く支持する「大韓愛国党」とは一線を画しているが、票田を考えるとはっきりと袂を分かつことができず、党内部にも朴大統領支持者議員が存在するなど、簡単に朴前大統領と決別できないジレンマを抱える。

    また、朴前大統領の弾劾訴追に賛成し「自由韓国党」から離脱した第2野党「正しい未来党」は朴前大統領と決別しているものの、野党でも与党でもない曖昧な立ち位置なため低支持率に喘いでいて、次の総選挙では「自由韓国党」と手を握るのか否かにも注目が集まる。

 さて、韓国保守派の運命やいかに。

(菅野 朋子)

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