「白人男性候補は不利?」2020年米大統領選、アジア系やゲイも出馬

文春オンライン / 2019年5月30日 6時0分

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カマラ・ハリス ©getty

 2020年アメリカ合衆国大統領選は「マイノリティの得票を巡る戦い」だ。打倒トランプを目指して民主党から続々と出馬者が出、5月20日現在、空前の24人(*)となっている。うち、有力とみなされる候補者の多くが女性、人種民族マイノリティ、同性婚者だ。

 本稿では今回の大統領選におけるマイノリティ候補たちの位置付け、彼らが躍進している社会的背景を検証する。

*……一部のメディアは実質の選挙活動をおこなっていない1人を含めず、23人としている。

女性、黒人、ヒスパニック、アジア系、ゲイ、30代……

 以前より出馬が確実視されていたジョー・バイデン前副大統領(オバマ政権)が4月下旬に、次いで5月にニューヨークの現役市長ビル・デブラジオが出馬表明をおこなった。これにより主だった顔ぶれがほぼ出揃ったことになる。

 立候補者の多くが皆保険制度の導入、地球温暖化対策などを訴えているが、政策の詳細を発表している者はそれほど多くない。選挙戦初期の現段階では24人もの候補者の中に埋もれてしまわず、有権者にどれほど強い印象を与えるかが重要となる。というのも、6月に行われる民主党候補者ディベートの初回に参加するには世論調査で規定以上の支持率、もしくは65,000人以上(*)からの政治献金(金額は不問)を得なければならないのだ。

*……米国では有権者(米国市民権保持者)だけでなく、永住権保持者(外国籍)も政治献金をおこなえる。

 現時点でディベート参加確定とみなされているのが以下の11人だ(順不同)。

・ジョー・バイデン(オバマ政権副大統領)
・カマラ・ハリス(上院議員)
・エイミー・クロブシャー(上院議員)
・バーニー・サンダース(上院議員)
・エリザベス・ウォーレン(上院議員)
・コーリー・ブッカー(上院議員)
・タルシ・ガバード(下院議員)
・ベト・オローク(元下院議員)
・フリアン・カストロ(オバマ政権住宅都市開発長官)
・ピート・ブーティジェッジ(インディアナ州サウスベンド市長)
・アンドリュー・ヤン(起業家)

歴代45人の大統領のうち非白人はバラク・オバマのみ

 11人の写真を眺めると、あることに気付く。米国大統領の典型像である「白人男性」が、わずか4人しかいないのだ。女性4人、黒人2人、ヒスパニック1人、インド系1人、台湾系1人、南太平洋系1人が含まれている。カマラ・ハリスの両親はジャマイカ移民とインド移民だ。4人いる白人男性もうち1人は同性婚者(ピート・ブーティジェッジ)、1人はユダヤ系(バーニー・サンダース)、残る2人はキリス教徒だがカトリック(ジョー・バイデン、ベト・オローク)だ。

 現在のドナルド・トランプも含め、歴代45人の大統領のうち非白人はバラク・オバマのみだ。女性大統領も、同性愛者の大統領もいまだ存在しない。宗教をみると、45人の全員がキリスト教徒だがカトリックはジョン・F・ケネディのみ。つまり、アメリカの歴代大統領はオバマとケネディを除き、全員が「白人・男性・キリスト教徒(非カトリック)・異性愛者」だった。

 この歴史を知ると、今回の大統領選がいかにユニークかが分かる。

ジャーナリストが思わず「白人男性候補は不利では?」と

 今年の1月から2月にかけて、前回の大統領選でも立候補を期待されたものの、ヒラリー・クリントンの援護射撃に回り、舌鋒鋭くトランプを批判したエリザベス・ウォーレン(上院議員)をはじめとする8人の候補者が出馬を表明。いずれも何らかのマイノリティであったため、CNNのジャーナリストは思わず、「今回の大統領選、白人男性候補は不利では?」と口にした。アメリカ合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンの就任から230年目にして、初めて漏れた言葉のはずだ。

 政治における人種問題の揺り戻しがオバマ政権以降、続いている。2008年、当初は無名のイリノイ州の上院議員だったオバマが米国初の黒人大統領に選ばれ、この国の歴史は引っくり返った。公民権運動家たちが黒人の投票権を求めてアラバマ州セルマで行進をおこなったのは1965年。それからわずか43年後に黒人の大統領が誕生したのだ。

 1960年代以前の激しい人種差別の時代を知る黒人の年配者たちは、「生きているうちに黒人の大統領をみるとは夢にも思わなかった」と、涙を流したが、米国初の黒人大統領の誕生を「信じられなかった」のは、人種差別主義者側も同様だった。

 いったんは減っていたヘイト団体の数がオバマ大統領の当選後に増えた。大統領のみならず、ファーストレディのミシェルをもサルになぞらえた加工画像がネット上に出回った。黒人をサルと呼ぶのは黒人差別の常套手段だ。公表はされていないが、オバマへの脅迫は選挙戦中からあった。そのため、オバマには早い段階から護衛が付けられていた。ミシェルが夫の出馬を諸手を挙げて歓迎しなかった理由の一つは最悪の事態、暗殺を憂えてのことだった。

オバマ政権時代からの揺り戻しの数々

 紆余曲折を経ながらもオバマ大統領が2期8年を務めたのち、2016年にトランプが当選した。そこには大手メディアも読み切れなかった経済の複雑な事情があったが、人種問題も確実に関与していた。オバマ大統領の政策や人格とは一切関係なく、黒人という属性を持つ者を自国の大統領として絶対に認められない者たちが存在するのである。

 8年間、不満を募らせていた人種差別主義者、移民排斥主義者、加えてミソジニスト(女性嫌悪者)たちとトランプは呼応した。トランプのマイノリティへの暴言の数々は、報じられているとおりである。

 トランプは当選直後から「イスラム7カ国からの入国禁止令」、続いて「メキシコとの国境に壁」「難民申請の親子を引き離す」といった政策を打ち出している。オバマ政権によるDACA(子供の時期に自分の意思とは関係なしにビザなし移民として米国に移住し、成長した若者たち=通称ドリーマーの救済支援法)の廃止も目論んだ。

中間選挙ではヒジャブをまとった元ソマリア難民が当選

 選挙戦期間も含めると3年間にわたるトランプの言動への反発がリベラルの間で高まり、昨年11月の中間選挙では、今や時代の寵児となっている “AOC” ことアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(下院議員)、ヒジャブをまとった元ソマリア難民のイルハン・オマル(下院議員)など、大量の女性、人種民族/宗教マイノリティが当選した。この流れが2020大統領選にも続くのではないかと思われた。これが「白人男性候補は不利?」発言につながったのだった。

 ただし、3月から5月にかけて今度は白人男性が続々と出馬表明し、現時点での立候補者数は史上最多の24名となっている。

出馬表明ビデオにみる候補者の「属性」

 ほぼ全ての候補者が、立候補表明に際してビデオを作っている。多くは3分程度で、自分自身と主だった政策の紹介になっている。いわば有権者への挨拶状だ。大統領選は有権者との心情的な繋がりも非常に重要となる。有権者は自分自身を反映する、親しみの持てる候補者を支援するからだ。したがってビデオで語られる政策はあくまで概要であり、候補者自身の「属性」――人種、ジェンダー、生い立ち、家族や故郷など――をフィーチャーした上で、支援者との交流を描くパターンが多い。

●黒人


 アフリカン・アメリカンのコーリー・ブッカー(上院議員)のビデオは、黒人色を前面に押し出している。ドラムラインのビートをBGMに、通りで支持者に「ワサップ!」と声を掛けるシーンから始まり、両親と幼い自分の白黒写真、1960年代の公民権運動の映像を使い、アメリカ黒人の苦難と、白人の支援もあっての上昇の歴史を語る。

 後半は広大な農業州の風景にパンしてあらゆる属性の人々を映し、司法改革、移民問題にも触れている。自分と同じ黒人有権者と、全アメリカ人の両方に訴えかける構成だ。支援者にカジュアルに「エーメン!」と応えるシーンは、敬虔なクリスチャンではあるが、頑な保守派ではないことを表している。

●女性/移民


 カマラ・ハリス(上院議員)は、インドからの移民でサリーを着た母親が科学者であり、かつ公民権活動家でもあったことを強調。移民や女性の尊重を意識してのことだ。ハリスが幼い黒人少女と笑顔で見つめ合うシーンも、子供と女性の未来を意味している。後半は検事、州司法長官、上院議員としての華々しい活躍(皆保険、中間層支援、司法改革、同性婚推進、移民問題など)を紹介。最後は多様な人々を映し、大統領として「すべての人々」に尽くすことを示している。

●ゲイ/新世代


 姓の発音が難しく、「ピート市長」の愛称で親しまれているピート・ブーティジェッジ(インディアナ州サウスベンド市長)は、かつては栄えながら今は衰退した工業都市の再建に尽くしている。都市の再生を切々と語るのは、自分には国家運営能力があると示すためだ。37歳と候補者の中で最も若いことを「私たちのジェネレーション」というフレーズで強調。70代のトランプ、バイデン、サンダースとの差別化だ。自宅の居間で夫とくつろぐシーンを挟み、同性婚者であることをさりげなく示している。

 大統領は米軍の最高司令官でもあり、軍経験者は大統領としての優位性があるとするために、米軍在籍時の画像も挿入。米軍と兵士の存在はアメリカ人にとって右派・左派を問わず不可侵の聖なるものでもあり、さらに米軍は130万人の兵士を擁しているため、その家族も合わせると重要な票田だ。国政経験の無さをカバーする意味合いもあるだろう。静謐なBGMは、ブーティジェッジの知的で冷静なキャラクターを表している。

●地方/都市


「居住地」も候補者の重要な属性となる。カリフォルニア州選出の下院議員エリック・スウォルウェルは地盤のカリフォルニアではなく、あえて故郷アイオワ州での撮影をおこなっている。雪の積もる郊外の住宅地、警察官だった父親、専業主婦の母親、近所のパブや小さな教会での少人数の集会。まさに古き良きアメリカの風景だ。2人いるコロラド州からの候補者は、共に山脈を背景にメッセージを語っている。前述のブッカー、ハリス、加えてデブラジオ(ニューヨーク市長)といった都市部の政治家たちの都市のリズム感を打ち出した軽快な映像とは対照的だ。

 アメリカは国土面積が広大なだけに大都市と地方の行き来は盛んではなく、双方の住人にとって他方の生活環境や文化は時に想像もできないほど隔たっている。かつ何かにつけ都会の洗練性が謳われがちだが、地方こそがアメリカの源流、屋台骨なのだというプライドが地方の居住者にはある。また、大統領選本選は州ごとの選挙人制度であることから、政治家にとって地方や田舎は決して蔑ろにできない地域だ。

●アジア系


 史上初のアジア系立候補者であるアンドリュー・ヤンは、政治家の経歴を持たない起業家だ。全米の地方都市での雇用創生を目的に、若者対象の起業家育成プログラムをおこなうNPOを創設・運営している。ヤンの政策は、IT化に伴う大量の失業者を見越し、すべての米国市民に月1,000ドルのベイシック・インカムを供給するというユニークなものだ。ヤンは台湾からの移民を親に持つ二世だが、ビデオでは人種民族に関する描写は一切ない。ヤン自身と家族の姿がアメリカの大統領選では自ずと強烈なエスニック性の発露になっており、それで十分ということなのだろう。(選挙キャンペーンでは「トランプと違って、数学の得意なアジア人」と、アジア系のステレオタイプを逆手に取ったフレーズを使用)

多様性を取り戻すアメリカ

 アメリカの人種民族別の人口比率は以下だ。

白人:61%
ヒスパニック:17%
黒人:13%
アジア系:5%

 黒人は13%だが、ヒスパニックやアジア系よりも移民の率が低く、有権者の数が多い。多数が奴隷の末裔という共通の歴史を持ち、現在の生活環境や、政治に要求するものも似通っている。支持政党は圧倒的に民主党だ。特に黒人女性の政治的視点は驚くほど合致しており、前回の大統領選では94%がヒラリーに投票している。黒人差別、女性差別を徹底して体現するトランプには一切投票しなかったのだ。

黒人有権者へのアピール

 こうした背景があり、今回の大統領選では対黒人有権者策を練る候補者が少なからずいる。もっとも顕著な例は、黒人奴隷制度への補償問題だ。奴隷制の影響と、現在に続く黒人への差別による損害を補償しようという案で、アフリカ系のブッカー上院議員、ハリス上院議員のほか、メキシコ系のカストロ前住宅都市開発長官も強く主張している。当初は補償に反対していたサンダース上院議員も黒人票の重要さから賛成に転じた。また、幾人かの候補者は「個々人への現金補償ではなく、黒人地域への貢献策」など、中庸策を提唱している。

 奴隷制補償の推進派は、第二次世界大戦中に収容所に入れられた日系人への補償が1988年に為されていることも踏まえ、長年にわたって実現を望んできた。しかし急進的な法案と捉えられがちなこと、対象人口の多さから莫大な予算が必要なことから実現に至っていない。その奴隷制補償を、今は大統領候補者たちが語っている。今回の大統領選で黒人有権者へのアピールがいかに喫緊の問題となっているかがうかがえる。

 前回の大統領選でヒラリーと熱戦を繰り広げながら敗退したサンダースも、敗因のひとつは黒人票が取れなかったことだ。その反省から今回の出馬表明イベントは黒人人口の少ない地元ヴァーモント州ではなく、黒人人口が極めて多い、生まれ故郷のニューヨーク市ブルックリンでおこなっている。さらにネットを基盤に活躍する若い黒人の人権活動家などを公認の支援者としてリストアップしている。

 アメリカはキリスト教色が非常に濃い国であり、中絶と同性愛へのアンチも根強い中、同性婚者のブーティジェッジが支持率を高めたのは驚きだった。

 知的で冷静なキャラクターであることから「オバマの再来」とも言われるブーティジェッジだが、黒人層からの支持率は低い上、3年前にアンチ黒人とも解釈される発言「すべての命が大切だ(*)」をしていたことが報じられた。ブーティジェッジはこの発言について黒人人権団体でのスピーチの中で謝罪し、後日、黒人とヒスパニックの教育問題を語った。ゲイ、同性婚者としてマイノリティのブーティジェッジも人種においては白人であり、マジョリティ側なのである。ここにアメリカの複雑さがある。

*……黒人への警察暴力にアンチを唱えるフレーズ「ブラック・ライヴズ・マター(黒人の命も大切だ)」に反感を持つ層から生まれたフレーズ「オール・ライヴズ・マター(すべての命が大切だ)」

多様性側からの巻き返し

 重要なマイノリティは黒人だけではない。ヒスパニックは有権者数ではまだ黒人より少なく、支持政党も二分しているとは言え、人口が急激に増加し続けている。アジア系の人口は5%と少ないが、年収の中央値は白人をもしのいでおり、今後はやはり無視できない存在となっていく。

 とはいえ、現時点の世論調査で最も高い支持率を得ているのは、ともに70代の白人男性であるジョー・バイデンとバーニー・サンダースだ。

 しかし、その二人を徐々に追い上げているのが、経済政策が秀でているエリザベス・ウォーレン(女性)、ピート・ブーティジェッジ(同性婚者、30代)、カマラ・ハリス(女性、黒人、インド系)といったマイノリティ候補者たちだ。

 多様性の国アメリカは、その多様性を理解せず、排除を進めるトランプを大統領に持ってしまったがゆえに、多様性側からの巻き返しが起こっているのである。

(堂本 かおる)

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