衝撃の米朝会談 最後に笑ったのは「蚊帳の外」の文在寅か

文春オンライン / 2019年7月2日 11時0分

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ドナルド・トランプ米大統領(左)と金正恩委員長(右) ©Getty Images

「衝撃でした。米国の現職の大統領が軍事境界線(DMZ)から北朝鮮に足を踏み出して、南北首脳と並ぶ姿は、やはり、歴史的瞬間でした」(中道派の韓国紙記者)

 韓国でも当然、生中継された6月30日の米朝首脳対談。軍事境界線での短い握手にとどまるだろうという大方の予想に反して、現職の米国大統領が北朝鮮側に足を踏み入れ、停戦後66年ぶりに米朝韓のトップが肩を並べた。さらに、米朝の話し合いは50分ほどに及び、明くる日(7月1日)の韓国紙の一面はこのニュースで埋め尽くされた。

 保守系は「いかなる政治イベントを繰り広げても北朝鮮の核廃棄に進む道でなければならない」(朝鮮日報、7月1日)と釘を刺しつつも概ね肯定的で、進歩系は一面をまるまる使って米朝韓トップの写真を掲載し、「韓半島の平和の里程標を打ち立てた南北米首脳の板門店での出会い」(ハンギョレ新聞、同)などと評価していた。

「呼びつけられる格好では、金正恩は動かない」

 6月30日、トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩労働党委員長が板門店(共同警備区域「JSA」)で3回目の短い会談を果たした。

 韓国メディアがざわつき始めたのは6月29日。トランプ大統領が朝7時過ぎにつぶやいた「もし、金委員長がこれを見ていたら、DMZで握手して挨拶をする用意がある」というツイートからだった。韓国の北朝鮮専門家の間では「呼びつけられる格好では、金正恩は動かない」という否定的な声が飛びかった。

 翌日、トランプ米大統領が米韓首脳会談後の記者会見でDMZを訪問し、北朝鮮の金正恩委員長に会うことを明かすと、「パフォーマンスではないか」と米国メディアから批判されたが、「オバマ大統領だったら戦争になっていたかもしれない。こんなことはできない」と笑みを浮かべながらやり返した。 しかし、この時までは韓国メディアも「どうせ握手だけだろうと当初は『米朝会同』という表現を使っていた」(同前)。

 その表現を「会同」から「会談」に変えるところが出てきたのは、話し合いの後。数週間以内に非核化についての実務交渉を再開することが発表され、また、トランプ米大統領が金正恩委員長をホワイトハウスに招待したことが明らかになってからだった。

トランプと金正恩、それぞれの思惑

 今回の米朝会談は、トランプ大統領にとっては、2020年の米国大統領選挙への“好材料”に、金正恩委員長にとっては、米朝首脳ハノイ会談決裂後、途切れていた米国との交渉再開の契機となった。そして、なにより、米国大統領を初めて北朝鮮側に呼び入れた指導者という、ハノイ会談で傷つけられた“最高指導者としての尊厳“を回復するという大きな果実を得た。そして、「米朝が主役」として黒子にまわった文在寅大統領は、北朝鮮から「仲介者気取りをするな」と誹謗されていたにもかかわらず、奇しくも仲介役の役割を果たした格好となった。

 いつ頃から構想が立てられていたのは分からないが、流れを追うと、今回の展開への予兆が見え隠れする。

電撃会談へのカウントダウン

 5月4日と9日、北朝鮮は、4月末に行われた小規模の米韓合同軍事演習に反発する格好で、日本では飛翔体と呼ばれた短距離弾道ミサイルと思われるものを発射したが、これは米国の反応を試すものだったようだ。

 この時、トランプ大統領は「金正恩委員長が約束を守ることを信じている」とツイートして批判を避けた。そして、6月14日のトランプ大統領の誕生日を前にした6月11日には、金正恩第一委員長から親書を受け取ったことを公開し、13日、その親書について文大統領が「とても興味深いものがある」と今回の電撃会談をほのめかすような発言もしていた。


 G20を5日後に控えた23日には、今度は金正恩委員長がトランプ大統領から親書を受け取ったことを北朝鮮対外用メディア「朝鮮中央通信」を通じて明らかにした。それも、親書を真摯に読んでいるように見える自らの写真と、「とても素晴らしい親書だった」という表現までつけて。さらに、27日には、北朝鮮が「朝米対話の期限は年末まで」とする談話を発表し、29日、トランプ大統領からくだんのつぶやきが飛び出した。

北朝鮮の文大統領への痛罵が目くらましに

 それにしても、目くらましとなったのは、北朝鮮の文大統領への痛罵だ。4月に成果なく終わった米韓首脳会談以降、文大統領を激しく罵倒し続けていて、6月27日には、仲介者ではないという烙印まで押していた。元高位層にいた脱北者(50代)は言う。

「北朝鮮が文大統領を批判していたのは、開城工業団地や金剛山観光などの南北事業についても米国の顔色を窺いすぎていて何もできていないという苛立ちからです。2018年4月27日の『板門店宣言』の中にあったことが一つも履行されていませんから。今年の新年の辞で金正恩は開城工業団地や金剛山観光再開についてわざわざ言及もしているだけに、金大中や盧武鉉元大統領時代はそうではなかったと言いたかったのでしょう」

 板門店ではトランプ大統領を真ん中に挟んで、その背中越しに文大統領に話しかける金委員長の嬉々とした姿が印象的だったが、こうした“実”がなければ相手にしないということなのか。南北において特別な思いを抱いているのは文大統領で、多分に浪漫的すぎるのかもしれない。

「コリアパッシング」「蚊帳の外」と散々に言われていた文大統領

 韓国でもこれまで「コリアパッシング」や「外交では蚊帳の外」と揶揄されてきた文大統領だが、冒頭の記者はこう解説する。

「今回のトランプ大統領の訪韓は韓国が必死に招聘した結果ともいえます。訪韓がなければ、トランプ大統領の板門店訪問もなく、米朝の会談はなかったでしょう。

 もちろん、非核化は米朝がメインですから、これからも文大統領の役割は限られますし、開城工業団地の再稼働など南北事業が始まらない限り、北朝鮮からのパッシングは続くかと思われますが、今回、米朝対話再開のきっかけを作ったことに関しては評価されるべきでしょう」

 トランプ大統領が青瓦台(大統領府)へ向かう途中、歩道では韓国の保守、進歩団体が待ち構えてシュプレヒコールを叫んでいた。保守団体は、「韓米同盟強化」や「(朝鮮半島の)非核化」、ついでに「朴槿恵の釈放」を訴え、反米の立場をとる進歩団体は「朝鮮半島の平和」、「制裁解除」や「終戦宣言」をそれぞれ声にしていたが、今回の米韓首脳会談だけみれば、奇しくもそれは保守・進歩の双方の言い分に近いものになった。

予断を許さない「トランプ、金正恩劇場」

 現職の米国大統領が軍事境界線を越えて北朝鮮の地を踏み、しかも話し合った建物は、金委員長がそれまで会談の場とすることを頑なに断ってきた韓国側施設「自由の家」だった。北朝鮮のトップが「自由」と名のつく場所で会談に応じた、それだけの魅力的なアプローチがあったのだろう。 

 会談後、トランプ大統領は、「交渉が行われていてもどこかの時点で制裁解除はありうる」と対北の経済制裁解除をほのめかす発言をしていて、韓国では、「ごはんを食べればお腹が膨れる式のリップサービス」(中道系の別の記者)と言う声がある一方、「トランプ大統領は完全な経済制裁の解除と(北朝鮮の)体制保証を、金委員長は完全な非核化を約束したのではないか」(民主平和党・朴チウォン議員、聯合ニュース、7月1日)という見方も出ている。また、北朝鮮の朝鮮中央通信は7月1日、「今後も緊密に連携しながら、非核化と朝米関係において新しい突破口を開いていくために生産的な対話を再開し、積極的に推進していくよう合意した」と会談結果を伝え、両首脳が「非常に満足している」とも報道した。

 いずれにしても、「トランプ、金正恩劇場」ほど予断を許さないものはない。今回の会談の成否が分かるのは今後になる。

(菅野 朋子)

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