楽天・今江選手も 突然の目トラブル「中心性漿液性脈絡網膜症」ってどんな病気?

文春オンライン / 2019年7月13日 11時0分

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5日に、右眼の中心性漿液性脈絡網膜症の再発と診断された今江年晶内野手 ©時事通信社

 プロ野球東北楽天ゴールデンイーグルスの今江年晶内野手(35)が戦線を離脱しています。

 春のキャンプ直前に右目の違和感を訴えて検査を受けたところ、「中心性漿液性脈絡網膜症」と診断。開幕後も二軍で調整を続け、5月には一軍に上がったものの、7月に入って再び右目の不調を感じ、医療機関を受診して、前回と同じ診断が下りたようです。

 目の奥にある網膜の一部が剥離して膨れ上がり、視野の一部が暗くなるなどの症状を示すこの病気。今江選手の発症の経緯は分かっていませんが、30代から40代の働き盛りの世代に多い病気です。そして、はっきりとした原因は分かっていないものの、眼科医の間では「どうやら精神的なストレスが関与しているらしい」という統一見解が得られているのも事実です。

 いったいどんな病気なのでしょう。

「中心性漿液性脈絡網膜症」という目の病を知っていますか?

 名前は、長くなるほど怪しげだ。

 山手線の新駅「高輪ゲートウェイ」は、発表直後から世間の不評を買った。鉄道業界を代表するキラキラネームとして名高い東武野田線の愛称「アーバンパークライン」などは、本名よりもニックネームのほうが長くて言いにくいという、本末転倒な事態に陥っている。

 ならば「中心性漿液性脈絡網膜症」という病名はどうだろう。精神的なストレスと密接な関係があるとされる目の病気で、患者数も少なくない。漢字ばかりなのでキラキラはしていないが、長いわりにどんな病気なのかが想像しにくい病名ではある。

 しかし、この病名には国際的に通用する略称がある。「CSC=central serous chorioretinopathy」だ。漢字だと11字も要する病名が、アルファベット3文字で済むのだから便利でお得だ。この記事ではこの先、CSCで済ませていくことにする。

突然、視野に「薄墨」がかかって見える

 IT企業の人事部マネージャーを務めるMさん(42)は、ストレスだけは売るほど持っていた。メンタルを病む社員の多い彼の会社では、その手当だけで人事担当がうつ病になりそうな忙しさだ。加えて、内定を出した人物には、よその会社に行かれないようにチヤホヤしなければならない。逆に不採用となった人物からは、ネット上に名指しで根も葉もない悪口を書かれることもある。激務と心労で彼の体は悲鳴を上げていた。

 ある日、会議用の資料を眺めていたら、紙の一部が薄く墨がかかっているように暗く見えた。紙を動かすと、薄墨がかかっている部分が動く。つまり、紙ではなくMさんの目のほうに問題があるのだ。

 その時はあまり気にしなかったのだが、同じような現象にたびたび気付くようになる。片方ずつ目を閉じてみると、右目で見たときに「薄墨」がかかることもわかった。

 ちょうどメガネを買い替えようとしていた時期だった彼は、メガネショップを訪れた。しかし、どう調整しても右目の視力が合わない。そこで初めて店員に「薄墨」の一件を伝えると、「メガネを作る前に眼科を受診したほうがいい」と勧められたのだ。

30歳~50歳を中心に「視野が狭くなる」「ぼやける」などの症状

 眼科クリニックを受診すると、眼底検査とOCT(光干渉断層撮影)という検査が行われた。眼底検査とは、目薬で瞳孔を開いて、専用のカメラで目の奥(眼底)の状況を観察する検査のこと。OCTとは、赤外線を照射して、反射する光の強度などから網膜の断層を三次元的な画像として映し出す検査だ。

 どちらの検査も短時間で終わった。検査そのものは痛くも痒くもない。そして、その場で言い渡された診断名が、先に挙げたCSC、つまり中心性漿液性脈絡網膜症だったのだ。

「CSCとは、網膜の中心にある“黄斑部”の下に水が溜まり、網膜剥離を起こすことで視野に異常が起きる病気です。視野の中心部が暗くなったり、ぼやけたり、実際よりも小さく見えたりするもので、30歳から50歳あたりの年代で多く見られる病気です」

CSCで発症する「網膜剥離」は少し違う

 と語るのは、横浜市青葉区にある「たまプラーザやまぐち眼科」院長の山口大輔医師。

 そもそも「網膜」とは何なのか。山口医師に続けて解説してもらおう。

「網膜とは、目の壁の内側で光を感じる細胞が集まっている膜のこと。その中心で視力を出すのにとても重要な部分が黄斑部です。CSCは、この黄斑部の網膜が剥離して浮き上がる(むくむ)ことで、視野の一部が暗くなったり、歪んで見えたりする病気。“網膜剥離”の一種です。むくむ厚さはミクロン単位ですが、その分眼球の内側が狭くなるので、屈折度(近視などの度数)にも変化が生じることがあります」

 網膜剥離というと、ボクシングの選手などがかかる「外傷性」の病態を想像しがちだが、CSCが起きるメカニズムはそれとは異なる。

「網膜の外側を“脈絡膜”という血管の多い膜組織が覆ってます。網膜と脈絡膜の間には“網膜色素上皮”というバリア組織があるのですが、何らかの原因で、脈絡膜の血管の異常が起こり、血液の液体成分である“漿液”が脈絡膜側からこのバリアを越えて、網膜の下に流れ込んで網膜を浮かせる、つまり“網膜剥離”が起きるのです」

 これで長い病名の説明がついた。この症状が網膜の「中心」で起きるから「中心性漿液性脈絡網膜症」でいいのだ。命名者に敬意を表したい。

レーザー治療で多くは治る症状だが……

 Mさんには「カルナクリン」という飲み薬が処方された。これは末梢血管を拡張して血液循環を改善する薬で、CSC治療でよく使われる。CSCの場合、薬を飲んでも飲まなくても自然に治ってしまうことも多いのだが、3カ月ほど内服薬で様子を見て、思ったほどの改善が見られなかったMさんは、レーザー治療を行うことになった。

 漿液が漏れている箇所に向けて、角膜から水晶体越しにレーザーを照射して瘢痕化、つまり「やけど」をさせるのだ。やけどした組織は、自然治癒力で元の状態に戻ろうとする。その結果、漿液が漏れていた穴も塞がり、網膜のむくみも治まる――という仕組みだ。

「レーザーを当てた瞬間、目の奥のほうに熱いような痛みを感じるという人もいますが、黄斑部付近のレーザーは弱めに当てるのでそれほど苦痛はないかと思います。多くはレーザー治療をしてから1カ月もすれば症状も消えます」

 と語る山口医師の言葉通り、Mさんの「薄墨がかかったような症状」も消えて行った。とりあえずは完治ということだ。

 しかし、山口医師は警鐘を鳴らす。

「精神的なストレスが原因なら、元のストレスを解消しない限り再発のリスクがあります」

失明の危険性も……ストレス、過労、睡眠不足は要注意!

 では、そもそもなぜ精神的なストレスが、目の奥の網膜に異常を起こすのか。

「それが分からないのです。ただ、ストレスが多い人、過労の人、睡眠不足の人にCSCが多いことは確かで、これはほぼすべての眼科医共通の認識になっています。ストレスで網膜色素上皮のバリア機能が低下するのではないか――などの説は、考えられないことではありません」

 まあ、胃酸の分泌量を増やしたり、血圧を高めたり、免疫力を下げてがんまで引き起こす実力者のストレスにとって、目の奥に良性のむくみを作るくらいのことは簡単なのだろう。

 ただ、良性とはいえCSCは、放置すれば視力障害を引き起こす危険性はある。

 また、50歳以降で似たような症状が出た場合、「加齢黄斑変性」という失明原因にもなる重大疾患の危険性もあるので、一度は検査を受けておくべきだろう。

 ちなみに、今回紹介したMさんの症例で称賛されるべきは、メガネ屋さんだ。この店員が目の異常に気付かず、適当にメガネを売り付けていたら発見は大幅に遅れたはずだ。

「メガネやコンタクトレンズを作る時にお店で行う検査では、CSCを見つけることはできません」(山口医師)

 良心的なメガネ屋さんと付き合いたいものだ。

 最後になりますが、今江選手の一日も早い戦線復帰を祈念いたしております。

(長田 昭二)

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