青春18きっぷ 死ぬまでに乗りたいローカル線「五能線」の旅で何ができる?

文春オンライン / 2019年7月15日 5時30分

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日本海沿いを走る「五能線」。いざ絶景ローカル線の旅へ

 いよいよ夏である。なんだか今年は梅雨らしい梅雨というのか、ぐずついた天気が続いて涼しい日も多く、夏本番間近の雰囲気にはイマイチ欠ける。けれど、夏が来るのはもう間違いのないことである。そして夏といえば、旅の季節である。さらにそして、旅といえば鉄道の旅。そう、青春18きっぷの季節がやってくるのである。

「五能線」 どこを走っているか知っていますか?

 18きっぷを使ってどこに行くべきか。そうしたテーマを扱った本や雑誌、さらにはWebサイトの記事なんて数え切れないほどあるから、あえてここで取り上げるのも少し憚られる。だいいち、筆者はここ数年ほとんど18きっぷを使っていない。観光シーズンにはあまり遠出をしないというのもあるし、18きっぷでは特急や新幹線に乗ることができない。それに都心から比較的近い通勤電車の終点ばかり巡っているから、なかなか18きっぷを使う機会に恵まれないのだ。そうは言っても、文春オンラインでも鉄道関係の記事をずっと書いているから、18きっぷを無視し続けるわけにもいかないか……。というわけで、今回は18きっぷおススメコースでは必ずと言っていいほど取り上げられるJR五能線の旅を紹介することにしよう。暑い夏には涼しい東北に行きたくなるものである。

 五能線は、秋田県の東能代駅から白神山地の西側、日本海に沿って北に進み、最後は津軽半島の付け根あたりを走って青森県津軽地方をぐるりと半周、弘前(正確には川部駅が終点だが、すべて弘前まで乗り入れている)に至るローカル線である。だから起点は東能代というわけなのだが、東京から行くにはいささかアクセスが悪い。そこで、新幹線で新青森に向かって奥羽本線で弘前に行き、そこから五能線の普通列車に乗ってみることにした。

「おお、青森っぽい」リンゴ畑が続く車窓

 普通列車、とは言ったけれどそもそも五能線には特急などは走っていない。五能線を一躍有名にした観光列車「リゾートしらかみ」が走っているほか、快速(とは名ばかりでほとんどの駅に止まるのだが)があるくらい。本数もかなり少なくて、全線を通して走る列車は「リゾートしらかみ」を除くと下り2本・上り1本だけである。だから通勤電車の終着駅のように気軽に「行ってみた」とはなかなかいかないのだ。結局、全線走る列車には乗れず、10時23分弘前発深浦行の列車に乗り込んだ。

 ローカル線だから車内はどうせガラガラだろうとタカをくくっていたが、そこそこ混んでいる。乗っているのは学生と思しき若者たちと、あとはご年配のグループが数組。聞けば観光で仙台からやってきたという。弘前から川部までは電化されている奥羽本線を走るが、五能線自体は非電化なので車両はもちろん気動車だ。エンジン音を響かせながら、しばらくは津軽平野を走る。車窓から見えるのは岩木山とリンゴ畑。岩木山は円錐形の美麗な山で津軽富士の異名も持つ津軽地方のシンボルだ。そしてリンゴももちろん津軽の特産。最初はリンゴ畑を見て「おお、青森っぽい」とテンションも上がるが、どこまで行ってもリンゴ畑は延々と続くので少し退屈になってくる。

『俺ら東京さ行ぐだ~』途中下車するなら五所川原

 弘前から40分ほど走ると、五所川原駅。ここは津軽鉄道との分岐駅だ。津軽半島の中央を南北に走る津軽鉄道は日本最北の私鉄路線。金木駅付近はご存知太宰治の故郷である。そして、『俺ら東京さ行ぐだ~』の吉幾三も金木出身だとか。さすがに今はテレビもあるしラジオもあるし(もちろんネットもあるし)、お巡りもぐるぐるはしていないが、まあだいぶ田舎であることは間違いない。五能線を旅しつつ、途中下車も楽しむというなら、五所川原から津軽鉄道に乗り換えるのはまず欠かせないところだろう。

 もうひとつ、途中下車をしてみるならば気になる駅が、五所川原の少し先にあった。木造駅だ。この駅は近くに高校もあるようで、学生たちの乗り降りが多くて少し賑やか。そして、なんと驚くべきことに駅舎が土偶の形をしているのだ。木造駅のあるつがる市には縄文時代晩期の亀ヶ岡遺跡があって、そこから発掘されたのが国の重要文化財にも指定されている遮光器土偶。ほっそいお目々が特徴的なこの土偶、地域のシンボルとして“シャコちゃん”と名付けられ、駅舎にもなったということらしい。木造駅にいた高校生に聞いてみると、「不気味ですよね」と半笑いであった。

ぼーっと海を眺める鉄道旅

 五能線が“町の中”を走って、学生たちの乗り降りも多いのはこの木造駅やさらに先の鰺ケ沢駅あたりまで。鰺ケ沢駅は日本海に面した町にある駅で、江戸時代には津軽藩の積み出し港として大いに賑わったという。が、そんな面影も今は昔。ひっそりとした小さな町の駅である。そこでなんと10名近いご老人のグループが乗り込んできた。津軽をバスで旅しつつ、鯵ケ沢から深浦方面まで五能線の車窓も楽しむというプランのようだ。ここからはいよいよ日本海沿いを走る区間。千畳敷駅は目の前にその名の通り“千畳敷”と呼ばれるゴツゴツとした岩場の海岸があって、「リゾートしらかみ」ではしばらく停車してこの千畳敷を楽しむ時間が設けられることもあるとか。件のグループも「ああ、これがねえ」などと賑やかに車窓を楽しんでいた。

 その後も、五能線はずっと日本海を見ながら走る。集落はポツポツで、何もないような海沿いの田舎町を駆けてゆく。だからこれといって語るべきところもないのだが、ぼーっと海を眺めながら旅ができるのは、鉄道ならではの魅力というべきだろう。海水浴のための砂浜はほとんどなくて、奇岩という表現がぴったりの岩場続きの海岸線。日本海の荒波に揉まれ続けた、力強い海岸線が車窓に続く。風合瀬・轟木・追良瀬などの駅名からも、強風や高波と戦い続けた町の歴史がしのばれる。

「太宰治のね、お宿があるんですって」

 そして列車は、とりあえずの終点・深浦駅へ。到着したのは12時48分であった。ここから先に行くにはさらに列車を2時間も待たなければならない。こういう待ち時間があるのもローカル線の旅らしいところで、のんびりと駅のあたりを歩いて過ごすのがいいのだろう。ご年配のグループはタクシーに分乗して去っていった。「太宰治のね、お宿があるんですって」。グループの1人がこう言っていたので調べてみると、太宰が故郷の津軽地方を旅して記した小説『津軽』の中で、本当に宿泊した旅館が記念館として残っているのだとか。実際に太宰はこの『津軽』のために五能線に乗って深浦に来ているから、車窓からの風景も太宰が見たのとほとんど同じ(都会と比べて車窓に変化も少ないだろう)。そういう文学と掛け合わせた楽しみ方も、東北のローカル線らしいところである。

 深浦で約2時間待って、乗り継いだのは14時32分発の東能代行き。深浦から2つ目の艫作という駅から20分ほど歩くと、日本海の波をかぶりながら波打ち際の露天風呂に浸かる「黄金崎不老ふ死温泉」。鉄分たっぷりの温泉が海水と混ざって酸化して、お湯の色は茶褐色。時間の都合で(五能線に乗るのが目的なのだからしかたない)入ることはできなかったが、こうした秘湯回りもローカル線との相性がいい。

世界遺産・白神山地へもアクセスできる

 そこから先の車窓風景も、ずっと日本海である。深浦から先に乗る人はほとんどいなくて、車内には筆者とほかに地元のおばあちゃんが1人だけ。そのおばあちゃんも早々に降りていったから、事実上貸切である。何時間も海沿いの風景ばかりを見続けていると、さすがに眠くなる。深浦で昼食を食べたばかりの昼下がりだからなおさらである。クルマだったら眠くなっている場合ではないが、鉄道ならば眠気と戦う必要はない。せっかくここまで来たのにと思いながら貸切の車内で眠ってしまうのも、至極の贅沢である。

 車窓をもっと楽しみたいならば、このあたりで海ではなくて山側をみると、ブナの原生林で知られる世界遺産・白神山地。白神岳登山口駅はきっとその名の通り登山道がある駅なのだろう。大間越駅は津軽藩と秋田藩の藩境の関所があった街で、この駅を出ると五能線も青森県から秋田県に入る。

能代駅にはバスケのゴールがある

 うとうとしている間に、そうした県境はあっという間にとおりすぎて、気がつけば車窓は海と山から変わって少し開けた田園地帯。もうここまでくると、終点の東能代も間も無くである。いつのまにか少しずつ乗客も増えて、地元のお年寄りから学生さんまでいくらか賑やかになっていた。米代川を渡れば、能代の市街地の駅・能代駅。乗っていたお客がほとんど降りたかと思ったら、またずいぶんと沢山の客が乗ってきた。ローカル線の旅も終わり間近であることがなんとなく告げられている気分になる。

 能代といえば、田臥勇太しか思い浮かばない……というとさすがに言い過ぎだが、まあ能代=バスケットボールの町の認識は間違いではないだろう。実際、能代駅のホームにはバスケのゴールがあるくらいだ。そして、「リゾートしらかみ」に乗るとここでフリースローチャレンジができて、見事ゴールを決めると記念品がもらえるとか。腕に覚えのあるスラムダンク世代の皆さま、ぜひチャレンジしてみてはどうだろうか。

新幹線を使えば、東京から日帰りも可能

 終点・東能代駅に到着したのは16時19分。途中、深浦で2時間ほど待ち時間もあったが、弘前から6時間近い長旅であった。リンゴに岩木山、日本海の車窓を眺めて地元の高校生たちの賑やかな会話に青春を感じ、迫り来る白神山地に圧倒されつつ眠りに落ちて、と盛りだくさん。こういうローカル線、退屈になったら寝てしまえば放っておいても終点まで連れて行ってくれるので楽である。

 今回は普通列車に乗ったが、「リゾートしらかみ」は快速なので指定席券さえ買えば青春18きっぷでも乗ることができる。6時間の長旅ではあっても、実は今回の行程だと東京からの日帰りが可能。早朝の新幹線で新青森を目指し、五能線を乗り終えたら奥羽本線で秋田まで。そこから秋田新幹線に乗ったら、その日のうちに東京に戻ることができるのだ(「リゾートしらかみ」乗車でも日帰りができる)。

 弘前~東能代間の運賃は3020円。18きっぷは1日(1回)あたり2370円だから、充分元がとれる。それに、18きっぷというのは1人で5日使わなければいけないわけではなく、5人で同時に使うこともできる。1日だけ予定が合った友人たちと、ちょっと強行軍だけど五能線の旅。そんな贅沢な夏の過ごし方があっても、いいのかもしれない。

写真=鼠入昌史

(鼠入 昌史)

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