ラブホテルが訪日外国人に人気だが……「フロントの窓が小さすぎて困惑」問題

文春オンライン / 2019年9月2日 19時30分

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 観光立国の名のもと、訪日外国人旅行者頼みの宿泊業界。ここ数年のインバウンドの活況は、日本の宿泊施設を大きく変化させている。カテゴリーのボーダレス化はその一端だ。たとえばシティホテル/ビジネスホテルという区分がある。先日、ホテルに関する記事で「ホテルのジャンルといえば、料金によってシティホテルかビジネスホテルかに大きく分けられ」という文章を見たがこれは誤りだ。そうなると、繁忙日のアパホテルはシティホテルになってしまう。

 両者の区分は料金の高低ではなく、フルサービス/リミテッドサービスの違いである。宿泊機能のほかに料飲やバンケットなど多様なサービスを提供する施設がシティホテル、宿泊に特化した施設がビジネスホテルだ。

従来のカテゴリーが変化するホテル業界

 しかし、シティホテル/ビジネスホテルのボーダーは変化しつつある。シティホテルは設備が豪華で客室も広いという印象だが、最近では広々とした客室や質の高いレストランを有した「進化系ビジネスホテル」を見かけることも増えた。一方、従来シティホテルとされてきた施設が、レストランやヘルスクラブなどを廃止、宿泊特化へシフトする例もある。また、「温泉旅館」といわれる施設でベッドを導入した客室が人気になったり、「ライフスタイルホテル」のような特定の文化や趣味・嗜好にフィーチャーする宿泊施設等々、様々な差別化が図られた結果、もはや従来のカテゴリーは通用しなくなっている。

「ラブホテル」は“一般”と“ラブ”の二極化

 そんなホテル界のボーダレス化現象のひとつといえるのが、「ラブホテル」の一般ホテル化だ。業界では「レジャーホテル」と呼称されているので本稿でも以下「レジャーホテル」という表現を用いるが、カップルズユースに特化してきた業態であることは周知の事実。最近では大きく窓をとったリゾートホテルのような客室や、淫靡なイメージを完全に払拭した施設、広々としたロビーやレストランなどパブリックスペースを充実させるなど、カップルズユースにフィーチャーしつつも宿泊施設としての質を向上させたホテルが増加している。一方でさらなる“ラブ”を追求する施設も存在感を示している。ある種の二極化が垣間見えるカテゴリーだ。

訪日外国人旅行者から支持されるワケ

 こうした業界の現況であるが、レジャーホテルは目下、訪日外国人旅行者に注目されている業態だ。立地や設備といった条件の良さに加え、都市部の一般ホテルが過度な料金変動に走る中、基本的にシーズンによる料金変動とは無縁。ネガティブな先入観のない訪日外国人旅行者から支持されるのは理解できる。淫靡なイメージが少ない施設がその対象なのかと思いきや、“ラブ”を追求する施設もある種の「クールジャパン」として注目されているという。レジャーホテルの軒数は、後述の通り定義付けが難しく、多様な形態があるので正確なカウントは難しいが、7000軒弱といわれている(ただし事業継承の問題などもあり年間100軒程度の廃業も見られる)。一般のホテルが1万軒程度といわれているが、比較しても見劣りしないかなりのボリュームだ。

スタッフの英語対応に力を入れる施設も

 ホテルにとって集客の要となる国内外の宿泊予約サイトであるが、特に海外の予約サイトはインバウンドの取り込みには必須。レジャーホテルの掲載に規制のあった日本の宿泊予約サイトに先駆け、海外の宿泊予約サイトではいち早くレジャーホテルの掲載をスタートさせたことも大きかった。いまや訪日外国人旅行者が収益の重要な一部と話すレジャーホテル経営者もおり、スタッフの英語対応に力を入れる施設も増えている。ホテル不足が叫ばれて久しいが、訪日外国人旅行者の増加や女子会利用、ビジネスプランの拡充など、レジャーホテルの一般ホテル化といった傾向はさらに強くなっていくものと思われる。

レジャーホテルと一般ホテルとのボーダーは?

 宿泊施設カテゴリーのボーダレス化について先述したが、そもそもレジャーホテルと一般ホテルのボーダーはどこにあるのか。レジャーホテルも一般のホテルと同様、ゲストを宿泊させて料金を受領するのであり旅館業法の許可が必須。さらに特有の機器や設備を備える場合は風営法(風俗営業法)の許可も必要となる。風営法の許可が営業条件となる施設であれば、立地や設備など様々な規制に対応しなくてはならない。風営法の適用となるケースとしては、一定の規模以下の食堂やロビー等を設けること、異性を同伴する客の性的好奇心に応ずるために設けられた設備等を有する場合などがある。休憩料金の表示という点や、玄関等の遮蔽があるというのもポイントだ。

レジャーホテルの“フロント問題”とは?

 また、レジャーホテルと風営法にまつわる代表的なテーマとして“フロント問題”がある。すなわち、スタッフがゲストと対面して代金や鍵のやりとりをするか否かという問題である。そのため“フロントの遮蔽がある”“従業員と会わずに入室ができる”といったことも風営法適用のポイントとなる。結果的に風営法が適用されるか否かはそれぞれの要件の組み合わせによる。休憩料金の表示や玄関の遮蔽があっても、フロントの遮蔽がなく従業員と対面する場合は、風営法の適用がなく旅館業法のみでの営業が可能という。法律的な話でややこしいかもしれないが、こうしてレジャーホテルには様々なスタイルのフロントが登場してきたわけだ。

 風営法のレジャーホテルであれば、タッチパネルで客室を選び誰にも会わずにそのまま入室、オートロックで自動施錠され、退出時には室内の自動精算機で代金を支払えば開錠されるというのは代表的なスタイル(外出希望時や火災などの非常時にも開錠されるシステム)。できればスタッフに会いたくないというゲストにとっては好都合。他方、フロントにて代金の支払いや鍵のやりとりをする“より一般ホテル的なレジャーホテル”の場合、チェックインするゲストにとって重要なのがフロントの遮蔽度合い=開放度であろう。すなわちフロントスタッフとどこまで顔を合わすのかである。従業員に会いたくないというゲストの立場になれば、フロントの開口はなるべく小さく遮蔽度合いは高くあるべきで、これはレジャーホテルという業態を考えた場合にもセオリーといえる。

 一方で、最近レジャーホテル関係者との話で、積極的に訪日外国人旅行者の取り込みをする施設では、一瞬困惑するゲストがいることが話題になった。普通の宿泊施設と思って来訪した外国人が、一種変わったフロントを見て困惑する様というのはなんとなくイメージできる。ホテルといえばホスピタリティ。対面によるスタッフサービスが肝であるが、それは一般ホテルの話だ。スタッフと対面できないレジャーホテルが、一般の高級ホテル以上に客室の設備やサービスに注力するのはある種のホスピタリティともいえるが、人的交流も魅力と感じる異国からの旅人がホテルのフロントシステムで狼狽、これもまた丁寧な説明をすると“旅の一興”として楽しんでくれるという。

 ボーダレスのボーダーはもともと国境を意味する言葉。ますます増加する訪日外国人旅行者と宿泊施設のボーダレス化は日本の宿泊産業に何をもたらすのか。レジャーホテルひとつとってもその現場にはリアリティがある。

(瀧澤 信秋)

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