甲子園レベルのグラウンドに……“元阪神園芸”が整備する「ホークススタジアム筑後第二」の秘密

文春オンライン / 2019年8月2日 11時0分

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ホークススタジアム筑後第二 ©田尻耕太郎

 いま、ホークスは3つの球場を所有している。一軍本拠地の「ヤフオクドーム」。ファーム公式戦を行う「タマスタ筑後」。そして「ホークススタジアム筑後第二」だ。

 ホークススタジアム筑後第二――福岡市からクルマで南へ約1時間、新幹線ならば博多から最短24分(おおよそ1時間に1本のダイヤだが)の場所にあるファーム施設「HAWKSベースボールパーク筑後」まで足を運ぶ熱心なファンの方はご存知かもしれないが、知らない人の方が多数派だと思うし、実際に見る機会はあまりないだろう。

 もともと福岡市東区の雁の巣にファーム本拠を構えていたが、3年前の2016年に筑後市へ移転した。わざわざ場所を移した理由は様々だが、大きな要因の一つは三軍の練習場所の確保だった。

「日本一の練習環境」として作られた筑後第二球場

 2011年に導入された三軍制は、ホークスの「選手育成」の象徴だ。“育成の星”である千賀滉大や甲斐拓也はもちろん、柳田悠岐だって入団1年目は三軍でプレーしたことがある。ただ、以前本拠地だった雁の巣には球場が1つしかなかったため、二軍が公式戦や練習で使用する際に三軍は近くの大学のグラウンドや福岡市外の野球場をその度に間借りするしかなく、しっかり腰を据えて練習に励むことが出来なかった。

 そのため、ファーム新本拠地を公募する際にはメイン球場に隣接するサブグラウンドも建設することが前提で、土地は4万〜6万平米以上という条件が付いていた。

 筑後市の敷地は約7万平米だ。球団関係者によれば「もともとは野球場でなく総合グラウンドでもいいと考えていました。しかし、それだけの土地が確保できたので球場を造ろうという声が上がったんです」と振り返る。

 そのような経緯で誕生した「ホークススタジアム筑後第二」は両翼まで約100メートル、中堅まで約122メートルとヤフオクドームと同規格のグラウンドを持つ。当初観戦スペースはなかったが、現在はネット裏に小規模ではあるが設けられている。

 また、この筑後第二球場は内野が土、外野は天然芝のグラウンドだ。

 タマスタ筑後はファーム公式戦を興行として開催するために、雨に強い人工芝が採用された。一方で筑後第二球場は三軍を中心とした若手が練習をメインで使用するし、リハビリ中の選手もランニングなどを行う。体への負担の少なさも考慮された。

 特に内野手の練習については土のグラウンドの方がより上達が見込める。イレギュラーする打球への反応。さらに打球の勢いが弱まるので一歩前へ出る姿勢もそこで身につく。積極的なプレーを習慣づけ、反復練習による上達でミスを少なくすることを体に覚え込ませるのはやはり土のグラウンドだ。

 そして、この筑後第二球場の土と芝。球団は「日本一の練習環境をつくる」と力を入れる。練習用にもかかわらず最高のグラウンドを作り上げている。それは、あの甲子園球場とほぼ同じという素晴らしい環境なのだ。

福岡出身“元阪神園芸”の存在

 なぜ、筑後第二と甲子園がイコールで結ばれるのか。

 じつは、筑後のグラウンドの整備・メンテナンスの“リーダー格”を任されている西山修平さんは、2016年までの5年間、甲子園球場のグラウンドを管理する「阪神園芸」に勤めていたのだ。

「もともとこの世界に入ったきっかけはホークス。アルバイトとして5年間、雁の巣球場でグラウンドキーパーとして働いたのちに、阪神園芸さんにお世話になったんです。そして、筑後に施設が出来たことで声を掛けて頂き、もともと福岡出身ということもあり戻ってくることを決めたのです」

 甲子園球場のグラウンドは日本で一番美しいとも評される。また、2017年のクライマックスシリーズの時のように、たとえ雨が降っても素早く正確なグラウンド整備で「奇跡」のようなコンディションに回復させる技術は、野球ファンの間では語り草になっている。

 西山さんはまだ30代前半と若いが、技術も知識も一目置かれる存在だ。

「土や芝、トンボのかけ方まですべてに拘りがあります。たとえば野球場のグラウンドは黒土と砂が混合されているのですが、甲子園は季節によってその割合を変えています。夏場は水持ちをよくするために黒土を多めにしたりします」

 一口で黒土と言っても、その産地によってグラウンドの特性が大きく変わる。じつは筑後に赴任した当初には一つ問題が生じた。

周囲の反対の声を押し切る形でとった行動とは

「球団からも『甲子園のようなグラウンド作りを』と期待してもらったのですが、産地が違っていたのです。甲子園は、鹿児島の志布志のものを使用しているのですが、筑後は同じ鹿児島でも鹿屋の黒土でした」

 前者はさらっとした感じだが、後者は粘り気のある質感になる。その時、西山さんは一つの賭けに出た。

「第二球場が開場する前の年の1月に、わざと砂を全面に撒いて自分で掘り返して配合を変えたんです。周りからは反対の声も挙がりましたが、押し切る形でやりました」

 結果的にそれが奏功した。じつは今回のコラム用に取材をして撮影をした前日には、筑後地方で100ミリ近い大雨が降ったのだ。この日は三軍が遠征中で選手たちが使用する予定がなかったが、たった1日でノックなどを行えるだけの状態に回復していた。

「グラウンドの状態は、その日の気候、温度、湿度などによって日々違います。朝、グラウンドに来てまず感触を確かめて整備の仕方を考えています。土も難しいですが、芝生の方もこだわっています。自分の中の100点に辿り着けないから大変です(笑)。また、3日に1回はスマホで撮影して変化を確認したり、雨量のデータも残していたりしています」

グラウンドへの向き合い方で分かる選手の良し悪し

 西山さんも高校途中まではプレーヤーとして夢を追っていた。「子供の頃はやっぱりプロ野球選手になりたかったけど、そこに関わることができている今は嬉しい」。また、西山さんによれば、選手のグラウンドへの向き合い方で、その選手の良し悪しが分かる基準があるという。

「やっぱり守備の巧い選手の足元はキレイなんです。自分の足でちゃんと均しています。怪我やエラーのリスクを自分で減らすようにしているんですね。阪神園芸時代に見ていた鳥谷選手や大和選手はそうでした。高校野球でも、強い学校は守備に就くときに定位置は走らない。弱い学校ほどサードやファーストの守備位置をそのまま突っ切っていきますからね。自分で自分の首を絞めているのに」

 甲子園級のグラウンドで育まれる若鷹たち。たとえば横浜高校から入団2年目の増田珠はプロ入り後に外野から内野手に転向。この筑後第二で泥だらけになって練習を繰り返し、今季は二軍のレギュラー格へと成長した。守備も三塁のほかに二塁も守れる貴重なユーティリティ性を兼ね備えている。増田は「西山さんが阪神園芸で働かれていたのは知っています。第二球場のグラウンドはいつも綺麗で本当にありがたいです」と話す。今年のルーキーでは早実からプロ入りした野村大樹がやはり複数ポジションを守れるようにと毎日必死に頑張っている。彼もまた、このグラウンドによって成長を遂げていくはずだ。

 一般ファンはなかなか立ち入れないが、HAWKSベースボールパーク筑後の「施設内見学ツアー」でグラウンドと同じ土や芝生に触れることが出来るようになっている。今年の8月はヤフオクドームでの一軍戦が7試合だけと少々寂しい日程になっているが、タマスタ筑後では二軍公式戦が13試合に加えて三軍戦も4試合が組まれている。酷暑対策をばっちりして、未来のホークスを背負って立つ若鷹たちの応援に足を運んでみるのはいかがだろうか。

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(田尻 耕太郎)

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