『凪のお暇』クセが強すぎる高橋一生に思わず「お帰りなさい!」と言いたくなる理由

文春オンライン / 2019年8月2日 11時0分

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出演中の『凪のお暇』は視聴熱ランキングで首位を獲得(ザテレビジョン調べ) ©文藝春秋

 最高の材料を使っても調理法がダメだと、とんでもない一皿に仕上がってしまう……料理なら1度の傷で済みますが、3か月続く連続ドラマだとそうもいきません。

 夏ドラマでいえば『アンナチュラル』で爆上げした株を『高嶺の花』に続いてどーんと落とした石原さとみ(『Heaven?~ご苦楽レストラン~』)や、『デート』で見せたコメディセンスをふっ飛ばした杏(『偽装不倫』)が下手な料理人に捕まった予感。が、店やシェフが変わったことで、見違える輝きを見せる俳優もいるワケで。

 そう、TBS金曜ドラマ『凪のお暇』の高橋一生その人です。

「お帰りなさい!」期待に応えた高橋一生

 4月~6月期O.A.『東京独身男子』で彼が演じた銀行マンは正直「コレジャナイ」感が凄かった。夜な夜なタワマンの部屋に男同士で集まって「あえて結婚しない」=「AK」とワイン片手に宣言しつつ「恋愛アジェンダ」をPCに記録する……って男性版『セックス・アンド・ザ・シティ』か。微妙に古いわ。

 当然、「AK男子」も「アジェンダ」も令和の世には受け入れられず、視聴率も振るわぬまま、ドラマは静かに終了。

 主演作で主題歌まで歌った傷は深いかと思いきや、彼はそんなにヤワじゃない。「そうそう、これが観たかった!」という私たちの期待に夏の高橋一生はきっちり応えてくれました。お帰りなさい、待ってたよ!

『凪のお暇』で高橋が演じる我聞慎二は主人公・凪(黒木華)の元彼。職も家もSNSも捨てて立川のボロアパートに引っ越し、人生をリセットしようとする凪への複雑すぎる思いを断ち切れず、彼女の前にたびたび現れ場を引っ掻き回すという役どころ。

 凪を取り巻くふたりの男性、慎二と安良城ゴン。これ、キャラクター的には中村倫也演じるゴンに圧倒的アドバンテージがあるんです。なぜならゴンは“寄り添い系”。人間関係で疲れ切った凪に一番必要な共感と癒しを100%与えてくれる存在だから。

「最低なモラハラ男」で終わらせないのが私たちの高橋一生

 かわって、慎二のこじらせぶりはなかなか手ごわい。私立の一貫校で育ち、「空気は読むものでなく作るもの」が口ぐせのエリートビジネスマン。社内の女子にもモテモテで、後輩からは慕われ、一見コンプレックスなど微塵もない完璧なたたずまい。が、その心の内はかなり面倒です。

 慎二はプライドが高く承認欲求も強いのに、自己肯定感が非常に低い人物。内面に確固たる芯や軸がない分、他人からの評価に振り回されてしまう。だから、自らが支配し、コントロールできる人間=凪を近くに置くことで精神の安定を保とうとして……って、これは臭いますねえ、とんでもないモラハラ臭が。

 

 が、それを「最低なモラハラ男」で終わらせないのが私たちの高橋一生。凪への屈折した想い、大人になりきれない心、素直になれない不器用さ、本当は変わりたいのに変われないもどかしさ等、幾層にも重なった感情のひだを繊細に表す演技で慎二のキャラクターに深みを加え、ゴンのひとり勝ち状態を阻止しています。

キャリア30年弱のベテラン俳優が見出した”職人の道”

 高橋一生という俳優の強み、それは「クセや闇を抱えた人物を魅力的に演じられる」こと。

 一口に“クセが強い”と言ってもそのバージョンは多種多様。『カルテット』では小さなことにとことんこだわるビオラ奏者、『名前をなくした女神』では家族にも心を開けないパワハラ銀行員、『民王』では中身が息子と入れ替わった総理を一見クールにサポートする秘書、『僕のヤバイ妻』では母親レベルの年上女性と“夫婦”として暮らす謎の夫etc……と、クセの強さだけで語っても、その演技バリエーションは計り知れない。「うまい棒」のフレーバー数を軽く抜く豊富さです。

 彼が意識的にその引き出しを増やしたのは多分20代の頃。子役からスタートし、10代後半から20代にかけて、わかりやすいイケメンたちにスポットライトが当たっていく中、自分が活きる道をさまざまな現場で静かに模索し、それを会得していったのでしょう。世の中的に“ブレイク”といわれる現象が起きたのは2015年の『民王』ですが、じつはキャリア30年弱のベテラン俳優。一時は事務所の社長に預けられ『相棒』の米沢役・六角精児らが所属する劇団「扉座」で修行して、劇団の舞台に立っていたことも。子役時代にはミュージカル『レ・ミゼラブル』で革命に散る少年、ガブローシュを演じています。

 クセの強い人間、闇の深い人物をただの“嫌なヤツ”に落とし込まず、そのキャラクターの意外な面やチャーミングな部分まで体現する職人技。圧倒的に芝居が巧いプレイヤーであるがゆえに、中途半端なおしゃれ感満載のドラマでなく、登場人物1人1人の人生がしっかり書き込まれている作品でこそ活き、難しいホンであればあるほど力を発揮する。高橋一生はそういう俳優なのだと思います。

あの役も、この役も……!? 高橋一生ってヤバくて尊い

 そんな私たちの高橋一生がここぞとばかりにクセと闇と純とを混在させた我聞慎二を演じる『凪のお暇』。夏ドラマの中ではかなり遅いスタートでしたが、初回放送の無料見逃し配信数では最高記録を叩きだし、SNSでの評判も上々。特にF1、F2層からは高い支持を得ています。

 個人的には慎二がスナック「バブル」の武田真治ママに「小学3年生レベル」と一刀両断されるシーンと、号泣しながら歩く場面は毎回マストでお願いしたいところ。特に2話で凪にピンタを張られ、渡すはずだった「白い恋人」をボトボト落とし「……ボロボロじゃんかぁ……」と、泣きじゃくってくじらロードを歩くシーンは最高でした。

 

 それにしても、このくじらロード号泣男子と、究極のツンデレを見せて死んでいった『おんな城主 直虎』の政次、ヒロインを王子のように見守り続けた『わろてんか』の栞さま、そしてからあげレモンで騒ぐ『カルテット』の家森さんって全部同じ人が演じているんですよね。あ、あと『池袋ウエストゲートパーク』の逆ひきこもり男・森永も。

 あらためて俳優って、いや、高橋一生ってヤバくて尊いなあ、と思う次第です。

(上村 由紀子)

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