「誰に対しても平等に、最高のものを」美智子さまから雅子さまに受け継がれた“おもてなし”とは?

文春オンライン / 2019年8月17日 5時30分

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トランプ大統領夫妻を接遇される天皇皇后両陛下 ©JMPA

 トランプ米大統領が新天皇、皇后の最初の賓客として来日した時、私は幾つかのメディアから同じような内容の取材をうけた。「両陛下はどのような特別な料理でもてなすのでしょう」と。これに対する私の答えは「特別な料理は出しません。いつも国賓に出しているものと同じです」というものだった。

 取材者は「米大統領だからといって特別な料理を出さないのですか?」と拍子抜けの体だった。「どの賓客に対しても等しく、最高のものを出すのが皇室のルールです。トランプ大統領だからといってこれまでとは違ったものを出すことはあり得ません」と、私は続けて答えた。

どの国も区別せず、平等に、最高の内容で遇する

 どの国も差別しないという皇室のもてなしの原則は、先の天皇、皇后、さらに昭和天皇、香淳皇后の時から堅持されてきた。これは新天皇、皇后にも引き継がれている。

 どの国も区別せず、平等に、最高の内容で遇するという姿勢は外交の世界では稀有なことである。米ホワイトハウス、英バッキンガム宮殿、はたまた仏エリゼ宮といった元首の館の晩餐会では、国の大小や、自国と賓客の国との関係性によって、もてなしを変えるのはふつうのことだ。自国にとって重要な国であればもてなしのレベルを高くし、さほど重要でなければそこそこのもてなしですますのである。

 だが、国によって区別しない皇室はこうした外交、政治の論理から一線を引いている。「皇室は政治とは関わらないとの姿勢は、このもてなしをとっても明らかです」と宮内庁の関係者は語る。

宮中の晩餐会や午餐会ではフランス料理が振る舞われる

 外国の賓客を迎えた宮中の晩餐会や午餐会は、フランス料理にフランスワインと決まっており、こういう構成になっている。〈スープ〉〈魚料理〉〈肉料理〉〈サラダ〉〈富士山型アイスクリーム〉〈果物〉。

 スープは清羹と呼ばれるコンソメ。魚料理はムニエル(魚を小麦粉でまぶし、バターで焼いた一品)が多い。主菜の肉料理は仔羊を焼いたものが多いが、牛肉のこともある。トランプ大統領はビーフステーキが好物とあって牛肉だった。富士山型アイスクリームも定番のデザートである。

 ワインは魚料理に合わせ、仏ブルゴーニュ地方の最高級の白が出される。肉料理には仏ボルドー地方の赤、これも最高級と決まっている。そして乾杯用のシャンパンだ。

国の大小に限らず最高級ワインを出すのは日本の皇室だけ

 バッキンガム宮殿でも提供されるのはフランス料理にフランスワインと決まっているが、最高級ワインを出すのはほんの限られた国賓に対してだけで、英国との関係性に合わせて二番手、三番手のワインとなることがふつう。国の大小に限らず最高級ワインを出すのは世界広しといえど日本の皇室だけだ。 

 先の天皇の時の2005年、モロッコの国王が国賓で来日し、宮中晩餐会が持たれた。モロッコ側は事前に「我々はイスラム教国でアルコールは飲まない。日本側出席者がワインを飲まれることはまったく構わないが、我々には注がないでほしい」と日本側に頼んだ。このため当日には、日本側招待者だけが最高級ワインを堪能することになった。 

 私の知り合いの駐日モロッコ大使も晩餐会に出席したが、「メニューを見てフランスの最高級ワインが出されているのに驚いた。相手側が飲まなくても最高級ワインを出すのはすごいことだ。本当は飲みたかったが、国王が飲まない以上それに倣うしかなかった」と残念そうに語った。私が「国の大小にかかわらず最高級のフランスワインを出すのは天皇の意思」と言うと、信じられないというように頭を振った。

皇室は賓客の訪問形式によっても差をつけない

 皇室は国を区別しないだけではない。賓客の訪問形式によっても差をつけない。外国の賓客の訪問形式には最高レベルの国賓をトップに、公賓、公式実務訪問賓客と続く。

 新天皇、皇后は6月、公式実務訪問賓客で来日したマクロン仏大統領夫妻を午餐会に招いた。そのメニューが私の手元にあるが、〈スープ〉〈魚料理〉〈肉料理〉〈サラダ〉〈富士山型アイスクリーム〉〈果物〉と、品数・構成はトランプ大統領とまったく同じだ。

 もちろん内容は異なり、魚料理は真鯛の洋酒蒸し、肉料理は仔羊だったが、国賓とまったく遜色ない。これは飲み物を見れば一目瞭然だ。銘柄は異なるが、白ワインは仏ブルゴーニュ地方の最高級、赤は仏ボルドー地方の最高級。「公式実務訪問賓客」は、訪問形式としては三番手のレベルだが、もてなしは国賓と同レベルだ。

天皇、皇后両陛下のお気持ちが凝縮された接遇

 外国の賓客は国の大小、訪問形式のいかんによらず、平等に最高のもてなしをする。天皇、皇后両陛下のお気持ちがこの接遇に凝縮している。

 また、美智子上皇后から雅子皇后へ受け継がれた「おもてなし」もある。

花束に直筆の言葉を添えて……

 美智子上皇后が皇太子妃、皇后だったとき、来日した外国の国賓の滞在先には、必ず皇太子妃(皇后)の名前でバラの花束が贈られた。バラは「プリンセス・ミチコ」。皇太子妃時代の1966年、英国のディクソン社から贈られたバラで、日本の園芸家によって育て、増やされてきた。芯は黄色で、軽くウエーブが入った上品な朱色の花びらが半八重咲きになる。季節外れの時期にも、その温室ものが贈られた。

 花束には、日本の滞在が楽しいものになるようにとの思いを込めた直筆の温かい言葉を記したカードが添えられ、これは賓客を「ここまで心遣いをしてくれている」との思いにさせたようだ。フランスの故ミッテラン大統領は1994年に先の天皇、皇后両陛下が国賓で訪仏した折りの歓迎晩餐会で、「私が訪日する度に皇后がお示しになった温かいお心遣いは忘れることができません」とわざわざスピーチで述べている。

 このもてなしは令和になってから雅子皇后に受け継がれた。5月下旬、トランプ米大統領夫妻が来日した時は、皇后の名前で宿泊先のパレスホテルのスイートルームに、言葉を添えた花束が贈られた。もちろん「プリンセス・ミチコ」とはいかないから、何種類かの花がアレンジされた。

美智子さまの接遇を引き継いだ雅子さま

 6月末に大阪で持たれたG20首脳会議に合わせて開かれた、女性の活躍について議論する首脳特別イベントにオランダのマキシマ王妃が出席した際も、滞在先のホテルの部屋に、やはり皇后から花束が贈られた。王妃は公賓での来日で国賓ではなかったが、皇室とオランダ王室の親密な交流を考慮したものと思われる。マキシマ王妃はこの心遣いに喜ばれたのだろう、電話でお礼を述べると共に、天皇、皇后と近況について言葉を交わした。

 美智子さまの接遇を引き継いだ雅子さま。そのうち「エンプレス(皇后)・マサコ」という新種のバラが園芸家から贈られるかもしれない。
 

(西川 恵)

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