世界を発情させた「死の天使」は大のポケモンファン──“南米のディカプリオ”ロレンソ・フェロインタビュー

文春オンライン / 2019年8月22日 11時0分

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ロレンソ・フェロ

 1971年、天使の顔をした17歳の連続殺人犯に世界は発情した──。

 実際の事件をもとにし、2018年アルゼンチンでNO.1ヒットを記録した映画『永遠に僕のもの』が公開中だ。中でもSNSなどで人気沸騰中なのが、主人公を演じた“南米のディカプリオ”ロレンソ・フェロである。

「アルゼンチンに実在した凶悪犯だと、頭では何度も反芻しながらも、心はロレンソ・フェロ演じる“黒い天使”の猛毒(フェロ・モン)に引き寄せられ、ついには魅了されてしまう」(小島秀夫/ゲームクリエイター)、「少年の顔は、1度見たら忘れられない」(鈴木敏夫/スタジオジブリプロデューサー)と映画界の大御所たちもその魅力に太鼓判を押す。

『永遠に僕のもの』は第71回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」へ正式出品され、第91回アカデミー賞外国語映画賞アルゼンチン代表作品にも選出されたが、ラップシンガーとして活躍していたフェロはこれが初主演作。

 実は、フェロはインスタグラムのアイコンをポケモンのミュウツーにするほどゲームが大好き。来日時には自前のマリオTシャツを持参し、根っからのアーティスト気質なのか、インタビューの合間も隙あらば紙にイラストを落書きしていた(これがまた上手い!)。そんなフェロに話を聞いた。

◆ ◆ ◆

「息をするように殺人を犯すカルリートスは、まるで火星人みたいでした」

──あなたが演じたカルリートスのモデルとなったカルロス・エドゥアルド・ロブレド・プッチは「ブラック・エンジェル」「死の天使」と呼ばれ、アルゼンチン犯罪史で最も有名な連続殺人犯と言われています。彼のことは知っていましたか?

フェロ いえ、実は知りませんでした。Googleで検索しました(笑)。

──プッチは1971年から72年に逮捕されるまで11人の殺人を犯しましたが、カルリートスを演じてみて、なぜ彼はこのような行動をとったのだと思いましたか。

フェロ 人がドラッグにハマるのと一緒で、日常に飽きて刺激を求めていたんだと思います。きっと群れの中の1頭の家畜でいることに飽き飽きしていたんじゃないかな。人を殺すというのは、退屈していた彼にとっては「新しいこと」だったのかも。淡々と、ごく自然に、息をするように殺人を犯すカルリートスは、まるで火星人みたいでした。

 それに、この犯罪が起きた70年代は、銀行強盗のような犯罪映画が流行していたから、その影響もあるんじゃないかな。僕も子どもの頃、ヒーロー映画を見ると階段から飛び降りたりしてたし(笑)。

観客を魅了したダンスは「踊りというより、体を解き放つという感じ」

──映画を見た人の多くが絶賛するのが、映画の冒頭とラストで踊られるあなたのダンスです。見たことのない振り付けで、1度見ると忘れられません。あれは誰かコリオグラファー(振付師)がいたのでしょうか。

フェロ いえ、振り付けではなくて、僕のオリジナルです。踊りというより、体を解き放つという感じかな。普通は、男はこう踊って、女はこう踊るというのがあるでしょ。でも、そうじゃなくて、その人の体が欲する動きや踊りっていうのがあると思うんです。僕は、家で音楽をかけて、鏡の前で練習して、どれがカルリートスの踊りにふさわしいか、幾通りも試してみました。そのうち「これだ!」というのが見つかって、翌日、監督のルイス(ルイス・オルテガ監督)の前でやってみたら、ダメだと言われちゃって……。でも、それでもめげずに踊ってみせていたら、まわりで見ていた人がいいと言ってくれて、それで監督を黙らせたんです(笑)。

──映画の中で印象的なのが、70年代の音楽やファッションです。フェロさんは98年生まれですが、映画の舞台となった70年代をどのように感じましたか?

フェロ 70年代の美的センスは最高だと思います! 車も、ファッションも、色が鮮やかで、華やかで、音楽も情熱的。今のようにスマホもAIもない時代だけど、70年代を自分の目で見てみたかったなと思いますね。

──撮影中、心に残ったエピソードはありますか?

フェロ これはとても大切なシーンなんだけど……親友で共犯者のラモン役のチノ・ダリンと車に乗るシーンがあります。そこで僕は彼の口に指を入れるんです。監督のルイスが「カット!」って言うたびに手を洗いにいかなくちゃいけなくて……というのは、チノが毎回「手は洗ったのか?」って聞くから(笑)。人生で一番衛生的な時間でした(笑)。チノはちょっと神経質なところはあるけど、いい人です。

──初主演作というプレッシャーはありませんでしたか?

フェロ 大スクリーンでたくさんの人が見るし、この映画のバックには大金が動いているし(笑)、何も経験がないのに、みんなが僕の演技を見ていると思ってしまうと、うまくやるのは難しいと思いました。自分ができることを最大限に出すにはどうしたらよいかと考えて、責任感というものをいったん忘れることにしました。そして、この高速のジェットコースターに飛び乗ったんです。

「十分すぎるほど持っているのに、もっと欲しいと思ってしまうのはみんな同じ」

──アルゼンチンでNO.1ヒットを記録し爆発的な人気が出て、生活は変わりましたか?

フェロ 実際、映画に出て人生は変わりました。周囲の人々がプレッシャーになるのは事実だし、それは正直言って、ナイト・メア(悪夢)ですね。名声が欲しかったわけじゃないけれど、映画に出たことでいろいろな扉が開いたとも思っています。周りのことを考えずに自分のやることに集中したい。……カルリートスが「みんなどうかしてる。もっと自由に生きられるのに」と言っていたけれど、それは本当かもしれないな。

──映画の終盤、カルリートスは衝撃的な行動に出ます。カルリートスの中には自分や相手を滅ぼしてしまうほどの強烈な欲望があります。彼に共感しますか?

フェロ 誰もみな100%満足することはありえないと思うんです。もう既にたくさん持っていても、もっと欲しい。僕も十分すぎるほど持っているのに、もっと欲しいと思ってしまう。きっといつも同じものじゃ飽きてしまうんじゃないかな。それはみんな誰もが同じだけど、カルリートスの場合は、それが極端に、自分に正直に出てしまうのでしょう。

──今回の映画のタイトルは『永遠に僕のもの』(原題は『EL ANGEL』)です。カルリートスのラモンへの思いは、はっきりとは描かれませんが、どのように捉えて演じていましたか。

フェロ 恋という言葉なのかわかりませんが、誰でもそういう強烈な気持ちになることはあると思います。カルリートスの場合はそれがラモンだったというだけ。僕は彼の気持ちが理解できます。

「日本は近未来みたい」

──初めての日本だそうですが、日本の印象は?

フェロ 日本はすごい先進国ですね! 近未来みたいだと思いました。テクノロジーの面ではアルゼンチンの10年くらい先でしょうね。人々はとても礼儀正しくて、別世界みたい。何か新種の乗り物に乗って未来に来てしまったような感じです。

──フェロさんは日本のゲームがお好きだと聞きました。

フェロ はい、ゲームボーイやポケモンを小さいときからずっとやってました。最近マリオカートも始めました。友だちがニンテンドー64を持っていて、先週末に12回対戦して、11回僕が勝ちました。でも、友だちは自分が勝った1回をインスタに載せていたけど(笑)。大好きな日本で大勢の人にこの映画を見てもらえたら嬉しいです。

INFORMATION

『永遠に僕のもの』
渋谷シネクイント、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他全国順次ロードショー中
https://gaga.ne.jp/eiennibokunomono/

(「週刊文春」編集部)

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