あおり運転殴打・宮崎容疑者も……「怒りをコントロールできない」のは病気のせいかもしれない

文春オンライン / 2019年9月3日 5時30分

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茨城県警取手署を出る宮崎文夫容疑者 ©共同通信社

 この夏、テレビは「あおり運転」のニュースで持ち切りでした。なかでも常磐道で怒りをあらわにし、あおった相手を5回も殴りつけた宮崎文夫容疑者(43)と、その様子をガラケーで撮影していた喜本奈津子容疑者(51)の異様な姿を捉えた動画は、まだ多くの人の目に焼き付いているのではないでしょうか。

 一連の報道ではあおり運転の危険性だけでなく、宮崎容疑者の特異な性格にも注目が集まりました。宮崎容疑者はいろんなところであおり運転を繰り返していただけでなく、三重県の飲食店で4時間にわたってクレームをつけたり、所有マンションで迷惑行為を繰り返したり、昨年の3月にはタクシー運転手を12時間にわたって「監禁」した疑いで逮捕されるなど、様々な騒ぎを起こしています。

「危ない人たちに狙われている」と語っていた宮崎容疑者

 とくに監禁の事件では、宮崎容疑者は運転手に対して阪神高速道路の環状線をゆっくり走るように指示し、その間、追い抜いていく車のナンバーを1台1台メモしたり、110番に頻繁に電話したりして、「車に囲まれている」「怖いから早よ来て守ってくれ」と話していたと伝えられています。

 また、「新規事業を立ち上げるので相談に乗ってほしい」と言われ、1年半前に再会した大学時代の友人は、宮崎容疑者が「危ない人たちに狙われている」「ホテルに泊まっていても向こう側から狙ってるんだ」などと話し、精神的に参っているように見えたと証言しています。

 こうしたニュースを目にして、宮崎容疑者が覚せい剤など違法薬物に手を染めているのではないか、あるいは何らかの病気を患っているのではないかと思った人も多いのではないでしょうか。今のところ、警察の調べで違法薬物を使っていたという情報は流れていません。ということは、病気の可能性も否定できないでしょう。

どんな病気になると「怒りっぽくなる」のか?

 実際、病気によっては、「怒りっぽくなる」という症状を示すものがあります。厚生労働省の「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」というウェブサイトの「 心理面の症状/怒り 」というページに、「『イライラする・怒りっぽい』状態になるのはどうしてですか」という項目があり、そこに次のような記載があります。

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 易刺激性や易怒性は、ほとんどすべての精神障害においてみられます。 たとえば認知症や脳血管障害、脳腫瘍などの脳器質性精神障害で、急に易怒性を呈することがあります。
 アルコール・薬物依存症では、アルコールや薬物の効果が切れてきた時や、覚せい剤など神経を興奮させる薬物を摂取した後に、易刺激性が強まることがあります。
 統合失調症でも、幻聴や妄想のせいで易怒性が高まることがあります。
 双極性障害の躁状態ではとくに易刺激性が目立ち、患者さんの言うことに反論しようものなら、すぐに怒りだしてしまいます。
 まれですが、うつ状態に対して投与された抗うつ薬の作用で、易刺激性が生み出されることもあります。

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 精神医学では、ささいなことで不機嫌な反応をしてしまうことを「易刺激性」、とくにすぐ怒ることを「易怒性」と呼ぶのですが、上記のような「脳」に関係する様々な病気で、怒りっぽくなる症状が現れることがあるのです。認知症などでもよく、「些細なことで怒りっぽくなった」という症状が、早期発見のポイントの一つに挙げられます。

前頭葉の“ブレーキ”が効かなくなると……

 なぜ、そうした病気で怒りっぽくなってしまうのでしょうか。そもそも人は、誰だって多かれ少なかれ「怒り」の感情を持つことがあります。しかし、頭に来たからといって、通常は危険なあおり運転をしたり、相手を殴ったりはしません。そんなことをしたら、自分が大変な目に遭いかねないことを分かっているからです。

 そうした冷静な判断をして、怒りを抑えているのが、思考や判断など脳の高次機能をつかさどる「前頭葉」という部分です。怒りの感情は、原始脳と呼ばれる「大脳辺縁系」というところで作られるのですが、それがそのまま表情や言動に出ないよう「前頭葉」が抑える役目を果たしているのです。

 ところが、この前頭葉の機能が低下してしまうと、怒りを抑えられなくなります。たとえば、前頭葉が萎縮する代表的な病気の一つに、「前頭側頭型認知症」があります。この病気になると、社会性が欠如して万引きのような軽犯罪を犯したり、抑制が効かなくなって暴力をふるったり、同じことを繰り返したりするようになります( 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「前頭側頭型認知症」 )。

若者相手にすぐキレてしまう高齢者も

 また、こうした症状は認知症のような病気としてだけでなく、実は加齢現象としても起こりえます。たとえば、「駅やコンビニなどで、若者相手にすぐにキレてしまう高齢者が増えている」などと報道されたことがありますが、それには加齢に伴う前頭葉の機能低下が関係していると指摘されています( NHKニュース おはよう日本「高齢者が“キレる”⁉ その実態は」2017年11月17日 )。

 もちろん、前頭葉の萎縮や機能低下は高齢者だけでなく、若年性認知症やアルコール・薬物依存症などでも起こります。宮崎容疑者の、あの異様な言動も、もしかするとこうした病気と無関係ではないかもしれません。

 それで刑事責任が阻却されるべきかどうかは、別の問題です。あれだけの酷いことをしたのですから、刑事だけでなく民事的にも、殴打の被害者や車を貸したディーラーに対して、何らかの責任を負うべきでしょう。ただ、それだけで終わったら、社会に戻った宮崎容疑者はまた怒りを抑えることができず、方々でトラブルを起こしてしまうのではないでしょうか。

「急に怒りっぽくなった」と感じたら医療機関へ

 上記のような病気も視野に入れて、宮崎容疑者には医療機関でぜひ検査を受けてほしいと思います。また、あおり運転を予防するためにも、運転免許の更新の際に、こうした病気をスクリーニングできるテストの開発を真剣に考えるべきではないでしょうか。

 家族やまわりの人が「急に怒りっぽくなった」「以前と人が違うようになった」という場合も病気の可能性がありますので、精神科、ものわすれ外来、神経内科、脳神経外科などのある医療機関に何とか連れていき、受診してみることをおすすめします。

(鳥集 徹)

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