日本の“口利き疑惑”男・上野前厚労政務官を各紙はどう書いたか?

文春オンライン / 2019年9月6日 5時30分

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小泉進次郎氏 ©文藝春秋

“下世話バケツリレー”と名付けている組み合わせがある。「週刊文春」と「東スポ」である。

 文春が報道して東スポが「派手に」後追いする現象。本来バケツリレーは火を消すためのものだが、これはさらに火を大きくしちゃう。

「東スポ」の実名追跡

 最近だと文春が「進次郎が捨てた『女子アナ彼女』滝クリだけではなかった」(8月29日号)と小泉進次郎のアナウンサー好きについて報じた。大きなお世話だどんどんやれ。

 するとその日の東スポは「進次郎氏“捨てた”女子アナ実名追跡」(8月22日付)ときた。冒頭には《そこで本紙が、進次郎氏にチョッカイを出されたとされる女子アナの実名を追跡》。

 お待たせしました、お待たせし過ぎたかもしれませんという声が紙面から聞こえる。

 文春ではイニシャルで書かれていたが、東スポは複数のアナウンサーの写真と名前を載せ「この中に?」と大々的に書いた。すばらしく下世話。

 でもそれって文春の記事に丸乗りじゃん! と思ったあなた、確かにそのツッコミは正しい。

 でも東スポはある時期まではネットの代替機能を果たしていたともいえる。いや、今でも「ネットよりは確実なゴシップ情報」という奇妙な信頼感がある。

 文春は翌週も「進次郎に恨み節 NHK看板アナ『何度会っても彼女になれない』」(9月5日号)と「Aアナ」のことを報じた。すると東スポはすかさず実名と写真を載せた(8月30日付)。

「下世話バケツリレー」には逆パターンも

 この「下世話バケツリレー」は逆パターンもある。今から6年前に文春は大物歌手の薬物中毒疑惑を実名で報道した。しかしその1週間前に《スクープ!! 超大物シンガー 薬物中毒 吸引ビデオで闇社会から脅迫も》(2013年7月24日付)と東スポが報じていたのだ。

 後年、このネタを追っていた文春記者に当時の心境をトークライブで尋ねたら「匿名とはいえ東スポの報道を見て焦った。早く裏付けを取らないとマズいと思った」と語ってくれた。まさにゴシップの切磋琢磨である。

テレビではあまり報じられない「大疑惑」

 さて、文春は政治家についてもスキャンダルを放つ。

 最新はこれ。

「厚労政務官 上野宏史衆院議員 口利き&暴言音声を公開する」(週刊文春8月29日号)

 上野氏が、外国人の在留資格を巡って法務省に口利きをしていたという疑惑。口利きをした人材派遣会社からは1件あたり2万円を受け取ろうとしたとされる。

 上野氏は「技能実習の職種のあり方に関する検討チーム」(厚労省)のトップにあたる人物なので、あっせん利得処罰法違反の疑いもある。事実なら安倍政権の「看板政策」を背景にした大スキャンダルだ。

 しかし不思議なことにテレビではこの「大疑惑」をあまりやっていない。韓国・文政権の「疑惑」ばかりに夢中だ。韓国の玉ねぎ男についてはたくさん教えてくれるのに日本の口利き男は追ってくれない。

 嫌韓というスパイスを下敷きに煽るネタは視聴率も良いのだろう。あと考えられるのは、しつこく報じても韓国政府からクレームは来ないという絶対的な安心感もあるのだろう。国内だと「公正中立」を求められる。なんならすぐに政権党からクレームきそう。過剰な韓国報道はそんな普段の恐怖とセットなのかもしれない。

 しかし、それでも報じるべきは「日本の政権のスキャンダル」ではないか?

新聞や週刊誌がスクープを放つのは当たり前

 そういえば甘利明元経済再生相、片山さつき地方創生相の口利き疑惑も週刊文春がきっかけだった。

 文春が甘利大臣の収賄疑惑を書いたとき、日刊スポーツのコラム「政界地獄耳」は次のように書いた。

《テレビは官邸の圧力に屈してキャスターやコメンテーターを変えて白旗を上げた。新聞も編集幹部らが相変わらず首相との懇談や食事会に馳せ参じている。軽減税導入で厳しい原稿は書けない。そうやってテレビや新聞が骨抜きにされているうちに、その間隙を縫って雑誌が政権を揺るがしている。本来、新聞がやらなければいけないことを、『文春』や『新潮』がやっている。食事会に行くのはいいが、それで腰砕けになってしまうのはいかがなものか。》(2016年1月26日)

 私は「文春砲」という言葉が嫌いだ。新聞や週刊誌がスクープを放つのは当たり前と考えるからである。褒めすぎというか、週刊誌が英雄視されるのはどうなんだという思いもある。下世話ネタの一つですよこれ。

 でも「文春砲」と大仰に言われるのは他がスクープを放っていない証拠でもある。政治家のスキャンダルなんて本来なら新聞案件のはず。

 上野議員は政務官辞任にあたり「法令に反する口利きをした事実はない。報道は大変遺憾だ」「政務官の立場にあることで誤解を招きかねない」とコメントをしただけで済んだ。雲隠れして得したのだ。

朝日、産経社説はどう書いた?

 朝日は社説(8月30日)で、

《この報道以降、上野氏は役所に姿を見せず、報道各社の取材にも応じていない。不誠実極まりなく、国会議員としての資質も疑われる態度と言うほかない。》

 産経の社説(9月2日)は、

《悪質ブローカーによる人身売買まがいの所在不明事件も多い。この是正が上野氏の役割だったはずだ。自ら悪質ブローカーまがいのことをして国民が納得すると思うのか。》

《安倍晋三首相の任命責任は大きい。》

 と書いた。

 見事な切れ味である。やはりこのネタは面白いではないか。それなら社説で説教を垂れるだけでなく、新聞が今すべきは文春からの「バケツリレー」ではないか?

「文春のネタなんて……」というプライドが新聞にはあるかもしれないが、隣国ではなく国内のスキャンダルを追ってほしい。

 玉ねぎ男はもう飽きたのである。

(プチ鹿島)

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