日産・西川社長の不正報酬問題 グレッグ・ケリー前代表取締役が目撃していた“巧妙な手口”

文春オンライン / 2019年9月5日 20時12分

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西川廣人社長 ©AFLO

「差額分は会社に返納する。ご心配おかけして大変申し訳ない」

 9月5日、日産自動車の西川廣人社長は、社内規定に違反して不当に上乗せした報酬の受け取りについて認め、謝罪した。

 突如報じられた西川氏の不正は、カルロス・ゴーン前会長の逮捕以来、「ガバナンスの改善」を掲げてきた日産自動車にとって大きな打撃となった。

 実は、この不正報酬疑惑は、すでに「文藝春秋」7月号「西川廣人さんに日産社長の資格はない」で、日産の前代表取締役であるグレッグ・ケリー氏が明かしていたものだ。

「行使日」をずらして約4700万円を上積み

 西川氏が不正な報酬の受け取りに用いたのは、ストック・アプリシエーション権(SAR)である。これは日産が導入している株価連動型の役員報酬のこと。あらかじめ基準となる株価が決められていて、その価格と、権利行使したときの市場株価との差額を日産から受け取ることができる仕組みだ。

 ケリー氏の証言によれば、西川氏の本来の「行使日」は2013年5月14日だったが、実際に行使されたのは同年5月22日。この約1週間で、行使価格は約120円(約10%)上昇している。

 ケリー氏は「文藝春秋」のインタビューに応じ、こう明かしている。

「5月14日に一度行使したのに、その後に日付だけを変更して『再行使』し、当初の行使のときよりもずいぶん大きな金を儲けた。約4700万円が上積みされ、トータルで約1億5000万円の利益があったと記憶しています。当然、特例中の特例です。私の知る限り日産史上初めて、行使日を後ろにずらしました」

日産社内でも「西川社長はクロ」

 西川氏はゴーン前会長の逮捕以来、「裏でこんな重大な不正行為をしているとは思いもよらなかった」と厳しく批判してきた。

 その西川氏が不正な報酬を受け取っていたとすれば、再建に取り組む日産のガバナンスを根底から覆す重大な問題であることは言うまでもない。

 共同通信など一部をのぞく日本メディアは、ケリー氏が明かした西川氏の不正についてほとんど報じることはなかったが、日産社内には大きな衝撃を与えていた。日産関係者が声を落とす。

「当初、西川社長の周辺は『記事はまったくのデタラメ。提訴も辞さない』と息巻いていたそうです。ただ、社内でも『西川社長はクロ』との見方は根強く、大手新聞社の記者に対し、『SARの件はしっかり調べた方がいい。あれは間違いない』と囁く幹部もいました」

西川氏はSARの問い合わせをケリー氏にしていた

 西川氏は不正な報酬の受け取りを認めたものの、自身の指示は否定した。冒頭のように謝罪した一方で、報道陣に対して次のように語っている。

「(SARについては)グレッグ・ケリー被告ら事務局に一任しており、適切に行われていると認識していた。事務局の運用の仕方に問題があった」

 だが、これはケリー氏の証言とは食い違う。

 西川氏はケリー氏に対し、「自分はSARを何株分持っているのか」と問い合わせをした上で、秘書室に行使日の変更をさせたという。

「(西川氏は)行使日が過ぎた後、株価が上昇したため、行使日を1週間後にずらせば、相当な儲けが出ると考えたのです」(ケリー氏)

「行使」直後に新居を購入した西川氏    

 西川氏はSARを行使した2013年度には1億3500万円もの高額報酬を得ている。不正に手を染めてまでさらなる報酬を得ようとしたのはなぜか。

 実は同じ頃、西川氏は日産に対して「新しい家を購入してほしい」という依頼を行っている。

「2013年の春ごろ、私にアプローチしてきて、『お金が必要なので、なるべく早く報酬を引き上げてほしい』と言ってきたのですが、その時、会社が不動産を買うことは可能かとも聞いてきました。物件を買ってもらって、月々、日産に返済していくけれど、退職した時は自分が残金を払うのでどうかという提案でした」(ケリー氏)

 西川氏の現在の自宅登記簿(渋谷区内、約200平米のマンション)を確認すると、2013年7月に購入している。それまでの自宅は世田谷区の一軒家。つまり、ケリー氏への相談は、渋谷区の新居購入直前に行われたとみられる。

 だが、実際には日産が西川氏のために不動産を購入することはなかった。

「SARによって利益を得た後、『会社に不動産を買ってもらいたい』という提案は取り下げられました」(ケリー氏)

 ケリー氏は、西川氏がSARで得た利益が、不動産購入の原資となったと認識しているという。

 西川氏に日産の再建を担う資格はあるのか。 「文藝春秋」7月号 に掲載した「西川廣人さんに日産社長の資格はない」では、約3時間に及んだケリー氏のインタビューの全文を公開している。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2019年7月号)

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