韓国の怒り「パラ五輪メダルが旭日旗を連想」論争が抱える“3つの危うさ”

文春オンライン / 2019年9月12日 5時30分

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自衛隊の観閲式で旭日旗を持って行進する海上自衛隊員 ©共同通信社

 韓国の障害者スポーツ団体・大韓障害者体育会は今年8月、東京パラリンピックのメダルのデザインが旭日旗を連想させるとして、国際オリンピック委員会と大会組織委員会に抗議すると発表した。

 これはたいへん危うい動きである。そもそも旭日旗には明確な定義がない。その上に「連想」といってしまうと、「あれもこれも旭日旗だ」と切りがなくなり、不毛な言い争いにつながるだろう。

旭日旗を明確に定義すべき

 辞書を確認してみよう。旭日旗は、「旭日=朝日を模様化・図案化した旗」などと実に簡単に定義されている。そこには、太陽から出ている光線の数も、太陽の位置も、色使いも、なにも定められていない。

 これでは、旧日本軍の連隊旗や軍艦旗だけではなく、大漁旗や朝日新聞の社旗、それに類似したデザインの旗だって旭日旗になりかねない。

 事実、日本の外務省は、今年5月に公開した 広報資料 で、北マケドニア共和国国旗、アリゾナ州旗、ベネズエラ・ララ州旗、ベラルーシ空軍旗なども「旭日のデザイン」の例としてあげている。

 旭日のデザインは世界的に使われているのに、日本のそれだけ批判・禁止するのはナンセンスではないか――。日本政府はこう言いたいのだろう。

 こうした反論に対応するためにも、旭日旗を批判するものは、そのデザインなどを明確に定義すべきである。連想云々の妥当性は、それから議論しても遅くはない(もっとも、このメダルのデザインが旭日旗に似ているかはかなり疑問だが)。

「戦犯旗」と名指しされる旭日旗はいつ復活したのか?

 もちろん、韓国で「日本の軍国主義・帝国主義・植民地支配の象徴」=「戦犯旗」として名指される旭日旗は、多くの場合、旧日本軍の連隊旗や軍艦旗だろう。多少デザインは異なるが、日の丸から16本の光線が出ているものがそれだ。

 その歴史は、1870年にさかのぼる。明治新政府はこの年、太政官布告で商船用国旗、陸軍用国旗、海軍用国旗の3つを定めた。このうち、商船用と海軍用は日の丸で、陸軍用は旭日旗だった。海軍用国旗は1889年に改訂され、旭日旗となった。これにより、「国旗は日の丸、軍旗は旭日旗」の使い分けが成立した。

 その後、長らく旭日旗は日本軍の象徴だったが、アジア太平洋戦争の敗戦によってお蔵入りになった。復活したのは、ようやく1954年のことだった。自衛隊の発足時に、海自が旧軍艦旗を自衛艦旗として採用したからである。

 なお陸自は自衛隊旗として、「日の丸から8本の光線を放つ旗」を採用した。旧海軍で使われた大将旗のデザインに近い。これも旭日旗と呼ぶか、あるいは「戦犯旗」と捉えるかは、定義と解釈の問題だろう。

「旭日旗=ハーケンクロイツ」は無理筋

 韓国では、この旭日旗を「戦犯旗」と呼ぶだけではなく、ナチ党旗のハーケンクロイツと同一視する動きもあるという。しかし、歴史的な経緯を踏まえると無理があるといわざるをえない。

 ハーケンクロイツは、いわゆる逆卍のデザインである。ドイツでは19世紀より愛国的な運動で使われていたが、1920年、ナチ党のシンボルに正式採用された。そしてヒトラーが政権を握ってのちの1935年、帝国国旗法により唯一の国家シンボルに定められた。このようにハーケンクロイツはナチの象徴となったため、ナチ政権の崩壊後は排除・禁止された。

 以上をみてもわかるとおり、軍旗としての旭日旗と、政党旗・国旗としてのハーケンクロイツは、その背景がまったく異なっている。

 なるほど、韓国にとって旭日旗はそれでも「日本の軍国主義・帝国主義・植民地支配の象徴」なのかもしれない。しかしそれならば、なぜ日の丸は問題にならないのだろうか。

日の丸も旭日旗以上に侵略の象徴と目されていた

 日本統治下の朝鮮でおきた日章旗抹消事件を思い出されたい。1936年、ベルリン五輪のマラソン競技で、朝鮮出身の孫基禎が日本人選手として出場し、みごと優勝を果たした。『東亜日報』は、そのことを報じる際に、孫の写真から胸の日章旗マークを故意に抹消した。このため、同紙は9カ月の停刊処分となった。

 つまり、日の丸も旭日旗以上に侵略の象徴と目されていたのである。場合によっては、菊の御紋や桐紋だってそれが当てはまるかもしれない。

わかりやすく訴えかけ、動員するためのスローガン

 それなのに近年、旭日旗だけ狙い撃ちされるのは政治運動的な臭いがする。「旭日旗=ハーケンクロイツ」は、民衆や第三国に向けて、わかりやすく訴えかけ、動員するためのスローガンなのだ。

 たしかに、政治運動の観点では、歴史的な経緯などは無視して、敵を明確に絞り、「白か黒か」の図式に当てはめたほうがわかりやすい。ヒトラーも『わが闘争』で同様のことをいっている。

 だが、誰もがそのような図式に乗る必要はない。煩雑さを厭わず、旭日旗を問題にするならば、以下の2点しかない。

もし旭日旗を問題にするならば……

 すなわち、(1)旭日旗だけではなく、植民地統治に使われた日の丸なども侵略の象徴だと批判する。(2)もしくは、軍隊ではないとされる自衛隊が、なぜ軍旗だった旭日旗をそっくりそのまま継承しているのかと追及する。

「旭日旗=ハーケンクロイツ」よりも、こちらのほうがまだ理屈としては通っている。

 いずれにせよ、政治運動のロジックには警戒しなければならない。運動家は、われわれの感情をたくみに刺激して、みずからの運動を盛り上げようとする。

 それは、日本でも同じだ。先月の韓国国会で、東京大会における「旭日旗の持ち込み・使用禁止」を求める決議が行われたが(大会組織委は禁止せず)、こんどは日本で「これに対抗せよ」とあえて旭日旗を持ち込もうとする動きが起こっている。これでは、旭日旗は敵と味方を分ける記号でしかない。

 あれだけ後生大事にしていた日の丸はどこに行ったのか。だいたい五輪なんぞは、利権にまみれたスポーツ貴族の茶番とさんざん批判されていたはずだ。そんなもので熱くなってどうすると言ってみたくもなるのである。

※本文の注釈に木村幹・神戸大学大学院国際協力研究科教授の論文を掲載していましたが、正確な引用ではなかったため、削除しました。お詫びして訂正いたします。(9/12 12:00)

(辻田 真佐憲)

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