「妹が『お姉ちゃんと私みたいだね』って絵葉書を送ってくれて」上白石萌音がルノワールに惹かれる理由

文春オンライン / 2019年9月20日 17時0分

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(c)深野未季/文藝春秋

 横浜美術館で「 オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち 」展が始まる。音声ガイドのナレーションを担当することとなった上白石萌音さんを、音声の収録現場に訪ねた。

上白石萌音さんが考える、「声優」と「音声ガイド」の違い

 録音ブースから出てきた上白石さん、「本当に楽しかったです」と顔をほころばした。そうして、

「美術館音声ガイドのナビゲーターをするのは夢だったので」

と明かしてくれた。が、ちょっと不思議ではないか。若くして数々の映画やドラマで大役を務める俳優が、音声ガイドに憧れるとは。なぜそこまでのめり込んでいる?

「もともと美術館が大好きで、訪れるといつも音声ガイドも聴くんです。いつか自分も声を届ける側に回れたらいい、それを目標にお仕事がんばろうと考えてきたので、夢が叶ったかたちです。

 作品鑑賞している方々を声でご案内するという行為そのものが、もう、すてきじゃないですか。美術館では、まずは作品とじっくり対面するのが何よりですが、そのとき音声ガイドで聴覚から補足の情報を得られれば、視覚がより研ぎ澄まされたりするんじゃないかとも思います」

 ドキュメンタリーのナレーションや、映画『君の名は』の宮水三葉役をはじめとする声優など、「声の仕事」もこれまで数多く担当してきた。それらと音声ガイドの仕事は、勝手が違っただろうか。

「映像に声をあてるときに気をつけているのは、主役である『映っているもの』にいかに寄り添うかということ。音声ガイドの場合、主役たる絵画は動きません。絵のイメージをより膨らませるのが役割なので、映像のときより主観・感情をやや強めてみたつもりです。

 また音声ガイドは、絵を観ている方の視線を誘導する務めもあるかと思います。無理強いするのではなく、並んで観ながらともに視線を動かして楽しんでいるような感じが、声で表せていたらいいのですが」

フランス語を声に出すと、「テンションがあがりました(笑)」

 念願の音声ガイドの初仕事が、今展だったのも歓びに輪をかけた。というのも、

「私の大好きな時代の作品が集まった展覧会なので! 印象派が大好きなんです。フランスの単語や地名がたくさん登場するので、声に出すたびにテンションがあがりました(笑)」

 そう、今展はパリ・オランジュリー美術館から所蔵作品を運んできたもの。オランジュリーはフランス近現代絵画の殿堂で、とりわけ印象派絵画は手厚い。

「出品作のラインアップには、いつかこの目で見たいと思っていた絵がたくさん並んでいます。いちファンとしても、開幕を心待ちにしているところです。それに、そもそもオランジュリー美術館は以前から憧れの場所です。クロード・モネの『睡蓮』にぐるりと囲まれて鑑賞できる部屋があるんですよね? いつかそこに佇んでみたい」

 出品作のひとつで、展覧会のメインビジュアルにもなっているルノワール《ピアノを弾く少女たち》にも、強い思い入れがあるのだそう。

「母がむかし、ピアノを教えていたので、ピアノは小さいころから身近な楽器でした。私たち姉妹は、ピアノを主題にした『羊と鋼の森』という映画にもそろって出演しています。そういえば妹がパリに行ったときには、今回の出品作そっくりのルノワール作品が載っている絵はがきを送ってくれたこともありました。絵はがきのように、2人で1台のピアノに向かった経験もあるので、『お姉ちゃんと私みたいだね』って」

 妹が送ってくれた絵はがきに載っていたのは、オルセー美術館にあるルノワール《ピアノに寄る少女たち》だった様子。ルノワールは、ピアノと少女をモチーフにした絵画を、複数描いているのだ。

 出品作《ピアノを弾く少女たち》も、まるでピアノを前に姉妹が並んでいるように見えるが、もしこの作品の中の少女たちが上白石姉妹だったとしたら?

「ピアノの前に座っているほうがわたし、その横で『お姉ちゃん、こうしてよ』と指示しているのが妹ですかね」

お名前の由来はひょっとして?

 ときに上白石萌音さんは、ルノワールとともに印象派を牽引したクロード・モネと同じ名を持つ。ひょっとしてモネの存在が名前と関係している?

「名付けの由来のひとつと聞いています。両親とも以前からモネの絵が好きだったことから、私に萌音という名前をつけてくれたそうです。

 そういえば私が小さいころから、家には父が買ってきたモネ作品のレプリカが飾ってありますよ。ひまわりが咲き誇る庭をモネの息子が歩いている《ヴェトゥイユの画家の庭園》です。

 なのでモネには強い親近感を抱いていて、モネの絵を見かけるだけでうれしくなります。学校の授業でモネが紹介されると、勝手に誇らしく感じたりもしていましたね」

インターネットでは、描いた人の息遣いまで感じられない

 音声ガイドを聴いてもらいたいのはもちろんだが、それ以前に、美術館へ足を運ぶ楽しさをさらにたくさんの人に味わってもらえたらと願う。

「いまはインターネットで画像検索すればいくらでもイメージを見ることができますけど、実物を目の前にしたときの感動は何にも勝るものですし、画像を眺めるだけじゃわからない筆致や画材の違いも伝わってきます。描いた人の息遣いまで感じられるのが、美術館のよさだと思います。

 個人的には美術館という場所って、そこにただ身を置いているだけで仕事のこともふだんの自分も忘れて、まっさらな気分になれるのが気に入っています。そのうえで作品に目を移せば、作品世界の中の空気を感じたりしながら、想像をどんどん膨らませていけるのもまた愉しい。

 そんなすてきな場をいっそう味わうための一助に、私の担当した音声ガイドがなれたら何よりですね」

 

 今展会場では、上白石萌音さんの優しい声と感情のこもった解説が、モネやルノワールの名品にさらなる彩りと艶を与えてくれるはずだ。

写真=深野未季/文藝春秋

(山内 宏泰)

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