元NMB山本彩の歌詞に宿るものは、AKB王国の“掟”への憤りか――近田春夫の考えるヒット

文春オンライン / 2019年10月10日 21時30分

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絵=安斎 肇

『棘』(山本彩)/『Escape』(鈴木愛理)

 今週の二枚は、ともにグループを抜けソロ活動を始めている女の子たちのシングルである。二曲の方向性は全く異なっていたが、根底にはどこか共通するものも感じられた。

 具体的に申せば“アイドルらしからぬ”という印象の強かったことである。別のいい方をすると、作りが決して甘口(その定義についてはまたね!)ではない。

 いずれにせよ、両者とも、グループ在籍時のシングルはまずもって“人気者”が歌うという側面がなにより強調された味つけになっていたのだなぁと。こうしてソロ曲を聴くほどにそんな様子も見えてくるのだけれど、あんまりいつまでも“若見え”でやっていくのもしんどい。大人の女性表現者として、こんなアピールで行きますんでひとつよろしくぅ、みたいなことなんですかね? もうアイドルなんかじゃありませんわ! って宣言してるのかも……音で。

 なかでも山本彩は、アイドルになる前まではバンドでエレキを弾いていたことは有名だし、今回は詞曲とも自身のペンの由。なかなか活発な体質のお嬢さんのようだ。

 なれば、そこはやはり歌詞内容を知りたくなるというのが人情てぇものだろう。コトバからは“心”が透けて見えてくることが多いからね!

 そしたらば『棘』にはなかなか重い世界が待っていた。

 この歌詞、御時世のゆえか、取りようによっては、綴られたコトバのいちいちに、かつて所属していたAKB王国の“掟”への憤りのようなものが込められているかにも思えてしまう? というか、彼女、結局体質が合わなくてやめちゃったのかなぁとか、そんな気にさえもさせられるのだ。

 ま、そのあたりは、色んな解釈も可能だぐらいにお含みおきいただくとして、それにしても山本彩の心のなかに、何か強く渦巻いているもののあるのは確かだろう。そのリアリティ(本当っぽさ)が聴き手の胸には突き刺さってくるのやも知れぬ。

 てな具合に、『棘』が売れているのは歌のなかで彼女の発するメッセージに共感する若者が数多くいる証だ! といい切ってしまうのにはいささか短絡的かも知れず、ためらいもあるが、AKBという“特殊な制約だらけ”にも映る世界でキッチリと仕事をしてきた人間の語るコトバならではの重みが、この歌詞に多大なる説得力を授けているのは間違いないのではないか?

 ところで今回、山本彩で一番の注目は音ではない。CDのジャケット写真だ。パッと見るとまるで“猿の惑星の美女”といった趣で、え! こんな顔だったっけと、私なんかも驚いてしまったのだけど(実はわざとそういう影のつけ方をしている)。下手すりゃ超ブスに誤解されそうな写真をあえて選んだ彼女の表現者としての見識を、私は大いに評価したいですね。だって、この強気のエロさ新しくね?

 鈴木愛理。

 元ネタなんだっけなぁ? ポーラ・アブドゥルでもないし……思い出せないヨォ!

ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト~世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。

(近田 春夫/週刊文春 2019年9月26日号)

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