たいふうのよるに――台風19号が関東上陸した夜に再認識した、プロ野球ファンにとって一番大切なこと。

文春オンライン / 2019年10月14日 11時0分

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 台風19号の風の音を聞きながらこれを書いています。文春野球コラムの入稿締め切りは公開日前日の午前0時。この記事の公開はクライマックスシリーズの最終日となる予定であった14日。書いているのは12日の夜。公開される2日前に書き上げなさいよ、前日は公開の準備をしますよ、そういうスケジュールです。

 文春横浜DeNAベイスターズの西澤千央監督は、テーマ「乙坂智」などの予告だけを打って公開当日の朝に入稿していたりするようですが、一応ダメなんですよ。「チヒロは締め切りをわかっているか――」、午前中に慌てて公開の準備をする担当のMさん、いつもお疲れ様です。そう言えば今年は、ベイスターズおじさんの当日ぶっちぎり公開遅れなんて事件もありましたね。やれやれ、ベイスターズは。

〈謎の覆面コラムニスト、ベイスターズおじさんの文春野球コラム配信遅れのお知らせ〉


 コミッショナーに上申して、ベイスターズおじさんに厳しい処分を科してもらうしかない……!

台風により「野球の様子を見に行く」のは取り止めとなりました。

 12日は関東・東海地方に台風19号が上陸しており、僕の部屋の外でも激しい風と雨の音がしています。プロ野球のクライマックスシリーズファイナルステージはセ・パともに中止となりました。我が埼玉西武ライオンズは「まずニールで2勝やろ……」「アドバンテージで1勝やろ……」「間違って1勝やろ……」という計算が初戦で崩壊し、すでに日本シリーズ進出は風前の灯。今夜は嵐の前の静けさか、すでに船は沈んだあとか。まぁ、とにかく試合はありません。

 僕はCSファイナルステージ第4戦と第6戦のチケットを持っていました。第5戦となる13日はライオンズがCS進出を決める前にラグビーワールドカップの日本VSスコットランド戦のチケットを取ってしまったので見送りました。そして、第4戦のチケットはこの台風で無効となりました。当然です。安全に優先するエンターテインメントはありません。被害が少しでも少なく済むこと、一日も早い復旧を祈ります。

 大きな影響は受けなかったものの、ちょっと僕自身も困っていました。この日は球場に行く予定だったので、その体験を元にしてこの原稿も書こうと思っていたのです。ライオンズが一矢報いていたならその興奮を。ライオンズが敗れ去っていたなら……仕方ないので短期決戦下手糞球団反省の弁を。それが試合中止になったことでライブ感をともなうテーマはなくなりました。

 もしも今日、野球が間違って開催されていたら――。

 想像力の翼を広げたとき、まぶたに浮かぶのはメットライフドームの隙間から吹き込む強烈な風、木の葉、避難してくる虫と野鳥、舞い上がる旧・若獅子寮から出た廃棄物。ドーム球場なのにレインコートを着ている観衆。斜面を掘り下げて作ったスタジアムの外周を滝のように流れる雨水。水もしたたる名物ファン・ミラクルゲームニキ。ドーム球場なのに強風による落球が連発するグラウンド。ドーム球場なのにぬかるんだダイヤモンド。ドーム球場なのに雨天コールドを検討し始める舞台裏。球場外の生ぬるい風を球場内に送り込むための巨大扇風機はリアル台風の強風を受けてクルクルまわり、金子侑司が飛ばした野球帽は多摩湖まで飛んでいく……。

 うん、やっぱり無理だ、台風は傘ではしのげない――。

 安全に優先するエンターテインメントはありません。野球、そしてエンターテインメントというものは、いろんな条件が万事整ったなかで、ようやく楽しめる幸せの上澄みのようなものだなと思います。動けるくらいには元気で、時間とお金がそれなりにあって、天気と平和に恵まれたとき……そんな幸せなタイミングでこそ楽しめるものなのだなと。早くそのタイミングがみんなに戻ってくるよう、風の音の中で祈ります。

でも、僕のチケットはまだ生きている、まだ「試合がある」!

 中止ということで、僕が持っていた第4戦のチケットは払い戻しに。12日の試合は中止し、13日に改めて第4戦、14日に改めて第5戦という日程になります。僕が持っている本来第6戦だったはずのチケットは、ライオンズがあと1つ勝つことができれば「第5戦」として生きることに。勝つにせよ負けるにせよ、6戦目まではもつれないかもしれないなと思っていましたが、チケットはいまだ死なず。台風で1試合が飛びましたが、そのぶんもう1試合は近づいてきました。

 もしも僕が巨人ファンであったなら、僕は全部のチケットをこの台風で失っていました。セ・リーグは12日の試合を中止して予備日に再開催するのではなく、日本シリーズのような方式で一日ずつスライドさせていく仕組みだそうです。つまり、12日のチケットは13日に有効になり、13日のチケットは14日に有効となる。その場合、僕の持っていた12日のチケットは、スライドしてラグビーワールドカップとバッティングします。これは当然ラグビーに行きますので(!)、チケットは無駄になります。そして、14日のチケットは週明けの15日にスライドしますので、今度は会社勤務とバッティングします。夜型の会社なので、観戦はちょっと難しかったかもしれません。2枚とも無駄になり、しかも払い戻しはない。

「セ・リーグの仕組みよりパ・リーグの仕組みがいいね」と思いました。それは僕の事情にマッチして「試合を見られる」仕組みだからです。「行ける日」のチケットがそのまま有効ですし、ひとつ中止を挟んだぶん「チケットの有効試合」まで決着がもつれる可能性が高まりました。台風でひとつ試合がなくなったことはとても残念です。でも、台風の日だけでなく、ほかの試合もなくなったり行けなくなったらもっと残念です。勝ち負けはともかく試合を見たいし、負け試合でもいいから試合があったほうがいい。

 負け試合でもいいから見たい。それが心の根っこからの願い。

 ラグビーワールドカップでは台風の影響を受ける12日の2試合を中止しました。順延でも再試合でもなく、引き分け扱いとする「取り止め」だそうです。ニュージーランド代表「オールブラックス」のワールドカップ連勝記録は対戦相手ではなく台風によって止められました。もしもオールブラックスに勝てればベスト8に進めたイタリア代表「アズーリ」は、勝ち抜けのチャンスを失い、敗退が決まりました。代表キャップ142試合のレジェンドであるセルジョ・パリッセ主将は、この大会を自身の花道と定めており、オールブラックスはそれにふさわしい相手でした。しかし、試合はなくなりました。

 イタリア代表が訴えた「試合をしたら勝っただろうと言っているのではない。でも、ピッチで結果を出したかった」「試合ができればどこでもよかった。公園でやってもよかった」という無念の言葉。

 僕はその声に、開催国のスポーツファンとして申し訳ない気持ちになりました。

 もちろん、試合中止の決定を下したのはワールドラグビーと組織委員会であり、こういう仕組みであることは全チームが承知していたことです。開催国として日本が責を負うものではありません。ただ、台風が来るかもしれないことは自明の時期ですし、万一に備える気持ちがあれば、もっとずっと前から「万一試合の開催が不可能な場合は、予選プールも代替地での再開催を実施する」という取り決めをすることもできたかもしれないなと思いました。

 イタリアとオールブラックスのチカラ関係で言えば、イタリアはまず負けるでしょう。圧倒的に負けるでしょう。やってもやらなくても結果は同じかもしれないし、むしろ「引き分け扱い」で勝点2を取れてよかったねという話かもしれません。

 でも、そんな終わり方、納得できないですよね。

 絶対に、絶対に、納得できないですよね。

 日本が南アフリカやアイルランドに勝ったように、試合はやってみなければわかりません。「必敗」とまで評された南アフリカ戦で日本は勝ったのです。人生は何が起きるかわかりません。何かを起こすために、前評判を覆すために人生をかけて準備してきたのに、試合がなければそれを披露するチャンスもありません。試合をやれば起こったかもしれない奇跡は、試合がなくなったことで絶対に起こらなくなりました。それは負けることよりも痛ましい。

「結果」という言葉は、最近では「勝利」と混同されていますが、勝ちも負けも含めて自分の努力や人生がどういう形になるのかを見届けることこそが「結果」です。もちろん勝ちたいけれど、負けてもいいのです。負けたとしても、それは自分の人生の一部になるのです。その「結果」が雲のように風のようにつかめないものになってどこかに消えた。今まで費やした時間は何だったのかと、悔しくて無念でたまらないはずです。

「試合がある」

 それ以上の喜びはないと僕は思うのです。負ければ悔しいし、苛立つこともありますが、試合がないこととは天地ほどの差があります。試合がないよりは無残に負けたい。ともすれば試合があるのは当たり前で、「勝ち」と「負け」だけが評価の分かれ目になってしまいがちですが、「負けられる」のはとても幸せなことだと僕は思います。だって「グラウンドで結果を出せる」のですから。努力の、我慢の、祈りの、人生の、行く末を見届けられるのですから。

「晴れがましい負け」はあっても、「晴れがましい試合取り止め」なんて、ないよ。

ライバルたちよ2019年もありがとう、2020年もまた野球の「試合」を楽しみましょう。

「あらしのよるに」という物語があります。ある嵐の夜、暗闇のなかでそれとは知らずに出会ったオオカミとヤギが、秘密の友情を育み、種族を越えて通じ合う物語です。本来は敵である両者が、嵐に怯えるなかで肩寄せ合う仲間にもなる。ときに恐れたり、ときに嫌ったりしながらも、やっぱりそばに友だちがいることが尊い。そんな物語です。

 同じように、試合がない台風の夜は、ことさらにライバルたちが恋しくなります。負ければ腹も立ちますし、勝てば鼻高々に見下ろすこともありますが、ライバルはやっぱり必要だし大切です。自分ひとりではできない試合を、懸命にやってくれるライバルがいる。コチラが勝ったら本気で悔しがり、コチラが負けたら胸を張って勝ち誇っている、そんな相手あってこそのプロ野球です。

 あぁ、早く会いたい。

「試合」をしたい、「試合」を見たい。

 オリックスは今季も早々にごく薄ーい優勝の可能性が消え、CS進出の薄ーい可能性も消えましたが、きっちり143試合を戦いました。ボーナスステージはないけれど、143試合も戦いました。もしもオリックスファンのなかに「失われし近鉄バファローズ」の幻影を抱いて見守っている人がいるなら、試合があることの喜びがいかばかりか、きっとご理解されているでしょう。

 東北楽天ゴールデンイーグルスが誕生したとき、それはもう惨敗のシーズンではありましたが、スタンドは喜びで満ちていたはずです。そして、2011年に「野球の底力」を信じ、2013年に「野球の底力」によって励まされ、さらに喜びは大きくなったはずです。プロ野球がある、試合があることはこんなにも尊いことなのかと。たとえ、西武とヤクルトの寄せ集めのような陣容になろうとも、決済手段が楽天ペイに限られようとも、応援歌の歌詞がほぼ「GO」と「カズキ」のみという語彙力であろうとも、「試合がある」ことは尊いのです。

 クライマックスシリーズに進出した各球団はもちろん、2019年を戦い、たぶん2020年も「試合がある」各球団のファンは、それだけで十二分に幸せなのです。ライオンズファンは惨敗つづきにちょっと荒れ模様ですが、143試合のほかにまだ試合を見られるなんて、文句なしで楽しいじゃないですか。最低でも「4試合」も見られるんですから。そして、上手くいけばまだ10試合くらい見られるかもしれないんですから。自分のチームがあって、ライバルのチームがあって、試合がある。勝ったり負けたりできる。こんなに素晴らしいことはない!

 巨人さん、セ・リーグ優勝おめでとうございます。CSも好調ですね。最後まで試合をお楽しみください。

 横浜さん、本拠地でのCS開催おめでとうございます。自分の球場でCSができてよかったですね。

 阪神さん、最後のほうは「生きてるだけで儲けもの」の試合でしたね。奇跡の勝ち上がり大興奮です。

 広島さん、會澤翼選手の残留おめでとうございます。居心地のよい、離れがたい球団なんでしょうね。

 中日さん、審判と戦うのは止めましょう。審判ではなく相手球団と戦うならば全力でお相手します。

 ヤクルトさん、村上覚醒おめでとうございます。村上おめでとうございます。村上おめでとう。祝村上。

 ソフトバンクさん、負ける前提でのメッセージとなりますが、今年も打倒セを期待しています。「西武じゃない、ウチのソフバンがやる」の精神で。このCSが事実上の決勝戦だったと言えるような強さを見せてください。

 楽天さん、西武の手持ちのコマがなくなってきました。しばらくの間、お買い物はヤクルトあたりからお願いします。山田哲人、そろそろですよ。

 ロッテさん、最後まで優勝争いお付き合いいただきありがとうございます。来年は「西武1位、ソフバン2位、ロッテ3位」で、ロッテさんにソフバンさんを先に倒してもらえるようアシストできればと思います。ともに戦いましょう。

 日本ハムさん、現実球団は戦いを終えていますが、文春野球コラムでの打倒セを期待しています。チームプレーで頑張ってください。

 感謝、感謝、すべてのライバルたちに感謝です。

 さぁ、この原稿が入稿されたあと、我が埼玉西武ライオンズはシーズン最後の戦いに臨みます。文春野球西武チームはすでに敗色濃厚となっておりますので、おそらくはこの原稿が西武チーム最後の記事となるでしょう。しかし、現実野球はまだ何かが起きる可能性があります。

 かつての黄金時代には日本シリーズで1分3敗からピッチャー工藤公康のサヨナラタイムリーをきっかけに4連勝した球団です。「延長12回サヨナラのチャンスでピッチャー工藤をそのまま打席に送る」という、その試合を落としていればSNSでクソオブクソと連呼されそうな采配でしたが、その1本のタイムリーでガラリと流れは変わりました。今のライオンズにもそういう瞬間があるかもしれません。勝つにせよ、負けるにせよ、ライオンズらしい野球で「見に来てよかったね」と思ってもらえるような試合を最後までやりましょう。台風のようにバットをぶん回して三振の山を築け!

 この原稿を入稿するまで現実西武が敗退しなかったことは、本当によかったです。もしも予定通りの日程で4連敗でもしていようものなら、やっぱりその話をしないとヘンですよね。反省とか敗因とか。「優勝したけど辻監督解任論(※辻は1点しんにょう)」「投手コーチが無能説VS投手が無能説VS両方説」「ソフバンがちゃんと優勝しないのが悪い」などの愚痴っぽい記事になったに違いありません。でも、まだ「試合がある」のですから、この原稿を送るときは希望だけを見ていればいい。

 この記事が公開された頃、僕は「14日のチケット」を持って球場に向かっていられるでしょうか。負けるんだろうなぁと思いつつも、最後まで何かが起きるかもしれない「試合」を見守るために。そして、案の定負けたなら「次の試合がある」と来年のことを思うのでしょうか。今度こそ日本一だと闘志を燃やして。「試合がある」のならば何だって起きるかもしれません。今年は終わっても、また来年があります。希望は少し時間が空くだけでまだつづきます。何も終わったりはしないのです。

 台風によって試合がなくなった日。

 改めて「試合がある」ことの喜びを感じた日。

 風の音はさらに強まってきていますが、この台風が過ぎたあと、また野球が見られることを祈ります。文春野球をご愛読のプロ野球ファンのみなさん、どうぞ「試合がある」ことの喜びを噛み締めてください。他球団の試合は興味ないかもしれませんが、ないよりはマシだと思って「試合」を楽しみましょう。来年もまた現実野球で戦えることを楽しみにしております。

 さぁ、「試合」に行くぞ。

 野球最高! それじゃあ、行ってきます!!

 See you baseball freak……

※編集部注:埼玉西武ライオンズはこの原稿が入稿されたあとの13日にクライマックスシリーズ敗退が決まったため、本原稿が公開された14日の試合はありません。

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(フモフモ編集長)

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