文在寅は「即位の礼」に誰を派遣するのか? 各国参列者の顔触れに見る“皇室外交”

文春オンライン / 2019年10月4日 5時30分

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天皇皇后両陛下 ©AFLO

 天皇陛下が即位を国内外に正式に示す「即位の礼」が10月22日に行われる。当日は世界から160国を超える国と国際機関の元首や祝賀使節、代表が参列する。その顔触れには、現在の国際社会における日本の「地位」と「力の所在」とともに、皇室外交の蓄積が映し出される。

 これまで発表された顔触れは、米国のペンス副大統領、中国の王岐山副主席、トルコのエルドアン大統領、トーゴのニャシンベ大統領、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相といった首脳のほか、英国のチャールズ皇太子、オランダのウィレム・アレクサンダー国王、ベルギーのフィリップ国王など、皇室が交流をもってきた各王室の国王、王族たちだ。このうちチャールズ英皇太子とニャシンベ大統領は前回の「即位の礼」(1990年11月)にも列席していて、2回連続の参加となる。

 

昭和天皇の「大喪の礼」にオランダが王族を参列させなかった理由

 この顔触れの中で、オランダのウィレム・アレクサンダー国王とマキシマ王妃の列席には感慨深いものがある。昭和天皇の「大喪の礼」(1989年2月)のとき、オランダ政府はファン・デン・ブルック外相を参列させたからだ。欧州の王室で、王族を参列させなかったのはオランダだけだった。

 これにはオランダの厳しい対日世論があった。大戦中、日本軍は緒戦で蘭領インドネシアを占領し、オランダの婦女子を含む約9万人の民間人と、約4万人の戦争捕虜と軍属を強制収容所に入れた。占領中、食料不足や風土病で約2万2000人が亡くなった。死亡率は約17%に上り、これはシベリア抑留で亡くなった日本人捕虜の死亡率(約10%)より高かった。

 大戦後、オランダ植民者は一切合切を失って引き揚げた。しかしオランダ政府は、本国のユダヤ人住民やロマが大戦中にドイツから受けた被害は手厚く補償したが、引き揚げ者には何の補償もしなかった。これは引き揚げ者の間に「政府から冷たい仕打ちを受けた」との鬱屈した感情を植え付け、日本への恨みをより深いものにした。そのため、「大喪の礼」の時には、日本に使節を送らないよう求めるデモまで起きた。

「両国のためには出ない方がいいと判断しました」

 その一方で、皇室とオランダ王室は親密な関係にあった。外相を参列させる際、ベアトリックス女王(当時)は明仁天皇、美智子皇后に電話で「私は列席したいが、両国のためには出ない方がいいと判断しました」と伝えた。オランダの反日抗議行動が、日本世論を刺激し、双方の国民感情の悪化に繋がることを懸念したのだ。翌90年の「即位の礼」には自分の名代で現国王のウィレム・アレクサンダー皇太子を参列させたが、やはり女王自身は参列を控えた。

 その後、91年に同女王が国賓で来日し、2000年には明仁天皇、美智子皇后が国賓でオランダを訪問。この中で、両国政府のイニシアチブでさまざまな施策が打ち出され、オランダの対日世論は大きく改善した。幾つかある中から2つ紹介しよう。

オランダ人の元慰安婦に対する「償い事業」

 1つは、オランダの戦争被害者やその家族を日本に招く「平和友好交流計画」だ。この施策は地味ながら、戦争被害者の心を解きほぐす上で大きな効果があった。

 2つ目は、オランダ人の元慰安婦に対する償い事業だ。インドネシアではオランダ人約200人が日本軍によって慰安婦にされていた。駐オランダ日本大使を務めていた池田維氏は、同国もアジア女性基金の「償い事業」の対象に含めるよう本省に要請し、認められた。 

 最終的に元慰安婦と認定された79人に、「アジア女性基金」から1人当たり年間、約300万円の医療・福祉支援が行われた。元慰安婦問題では韓国の例が専ら取り上げられるが、日蘭の間ではすでに区切りがつけられたことはもっと知られていい。

 これらの施策は00年の両陛下の訪蘭に向けて前向きの雰囲気を醸成し、オランダ世論へのインパクトとなったことは間違いないだろう。ウィレム・アレクサンダー国王の参列はこうしたオランダ世論の大きな変化を物語っている。

ベルギーからはフィリップ国王が参列

 また、ベルギーのフィリップ国王の列席も、皇室との深い交流の証だ。「大喪の礼」と90年の「即位の礼」では同国からいずれもボードワン一世国王とファビオラ王妃が列席した。同国王、王妃夫妻は71年にベルギーを訪問した昭和天皇を手厚くもてなしているほか、明仁天皇、美智子皇后とも交流が長い。日本は長期在位にある同国王を、いずれの式典でも最重要の席に就けた。

日本への不満を鎮めた国王のことば

「大喪の礼」終了後のエピソードがある。新天皇、皇后にあいさつをするため、外国の賓客の長い列ができた。あいさつも短くは終わらないから、賓客は立ったまま長く待たせられることになった。すると列のなかから「日本の仕切りが悪い」と不満の声が出た。この時、ボードワン一世国王が「新天皇、皇后は誠実に対応されている。ここはゆっくり待ちましょう」「皇室の文化をじっくりと鑑賞できるのもこういう時間があるからです」と周りに聞こえるように語った。

 最長老格の同国王の言葉に不満は鎮まった。そして国王は宮中の広間のしつらえや、調度品一つ一つについて、周りの外国の賓客に説明した。皇室との交流の中で学んで知識を深めたのだろう、皇室文化への深い造詣をのぞかせた。「あの時の国王の落ち着いた君主としての風格には、心から尊敬の念を抱きました」と、近くで接遇を受け持った外務省OBは語っている。

互いに戦争の“傷”を引き受けて……

 実は、同国王と明仁天皇は似たような境遇にあった。国王の父、レオポルド三世は大戦中、ナチスドイツに無条件降伏し、ドイツの捕虜となった。このことに戦後、国民から批判が起きたのだ。このためレオポルド三世国王は51年に退位し、息子のボードワンに王位を譲った。そして明仁天皇も、昭和天皇が戦争を止められなかったことの重荷を引き受けてきた。同世代で、似たような境遇、そして互いへの敬意が、皇室とベルギー王室の関係を緊密なものにしてきた。

「即位の礼」の2年後、ボードワン一世国王が心不全で逝去したとき、明仁天皇、美智子皇后は葬儀に参列。14年にファビオラ王妃が亡くなったときは、美智子皇后が参列した。

 今回参列するフィリップ国王はボードワン一世国王の甥で、今上天皇、皇后も国王が皇太子だったときの結婚式(99年)に揃って出席している。皇室とベルギー王室の世代を超えた交流の深さを、同国王の参列は示している。

日本重視が鮮明な“大国”

 中国の王岐山副主席の出席は、日中関係の改善の脈絡で説明されている。王副主席は共産党政治局常務委員の経験者で、前回の「即位の礼」に出席した呉学謙副首相は党政治局員だった。これから見ても確かに王副主席の方が格上だ。しかし政治関係だけが中国側の判断根拠ではないように思われる。

 中国外務省の耿爽(こうそう)副報道局長は17年12月、明仁天皇の退位日が決まったことに絡み、92年10月の天皇訪中について「中日関係を発展させるために前向きの貢献をされた」と述べた。これは天皇訪中に対する初めてのコメントで、中国政府の公式結論と言えるだろう。これから窺えるのは、両国関係に皇室が果たした役割、さらには「慰霊の旅」に象徴される皇室の平和志向への評価が王副主席の列席を後押ししたのだろう、ということだ。

 米国はトランプ大統領が5月に国賓で来日しており、大統領に続くペンス副大統領の参列は日本重視以外の何ものでもない。89年の「大喪の礼」のときはブッシュ大統領(父)が、翌年の「即位の礼」にはクエール副大統領が参列しており、これと同じパターンである。

韓国・文在寅大統領は誰を派遣するか?

 さて、韓国はまだ誰を参列させるか発表してない。前の「即位の礼」には姜英勲首相を参列させている。すると順当なところでは李洛淵首相だが、文在寅大統領が昨今の日韓関係冷却化の中でどう判断するか次第だ。閣僚、もしくは韓日議連の姜昌一会長などとなれば大きな格落ちで、ほんの形だけの使節派遣ということになる。

「大喪の礼」のとき、こういうことがあった。ソ連(当時)は儀典上第2位ながら、日本では全く無名のルキヤノフ最高会議幹部会第一副議長を派遣した。ソ連と同じ社会主義だった他の東欧諸国も、右倣えでナンバー2の使節を送ってきた。相互に相談したことは明らかだった。しかし大喪終了後、ブルガリアの使節のタンチェフ国家評議会第一副議長は「これだけの盛儀には元首たるジフコフ議長が訪日すべきだった」と日本側に感想を漏らしたという。以上は、「大喪の礼」を現場で指揮した外務次官の村田良平氏が、その著『回顧する日本外交』で明かしている。

韓国は天皇を政治利用するマイナス面も知っている

 これからすると、韓国は他国がどのようなレベルの祝賀使節を派遣するか見ていて、ぎりぎりまで誰を派遣するか通告してこない可能性もある。米欧、アジア、アフリカなど多くの国が元首、首脳といった高いレベルの祝賀使節を列席させれば、格落ちの使節を派遣した韓国は埋没する。特に米国との関係において、「韓国は日本との折角の関係改善の機会を自分から捨てている」と見られるのは得策ではないだろう。

 また韓国は天皇を過度に政治利用するマイナス面も知っている。李明博大統領(08年~13年)は政権末期に天皇への謝罪を要求して、日本世論の猛反発を受けた。さらに韓国では皇室が韓国に対して親近感を抱いていることを好感する意見もある。明仁天皇は01年の誕生日の記者会見で「桓武天皇の生母が百済の武寧王の子孫であると、続日本紀に記されていることに、韓国とのゆかりを感じています」と述べ、これは韓国でも大きく取り上げられた。格落ちの使節を送った場合、韓国内から批判が起こる可能性もある。文大統領がどう判断するか注目されるのである。

(西川 恵)

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