「おっさんずラブ」に学ぶ、社会的に失敗しない職場での「純愛」

文春オンライン / 2019年10月15日 5時30分

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「劇場版 おっさんずラブ〜LOVE or DEAD〜」の舞台あいさつに登場した(左から)林遣都、田中圭、吉田鋼太郎 ©時事通信社

 大変遅ればせながら、先日、テレビ朝日の連続ドラマ「おっさんずラブ」を見ました。元々テレビドラマ自体あまり見ないのですが、Amazonプライムビデオで配信していたのを「お試し」のつもりで1話だけ見て、まんまと沼にハマってしまったわけです。牧くんは正義。

 特に女性たちから圧倒的な支持を集めている「おっさんずラブ」ですが、実際に見てから感じたのは、「これはおじさんたちにもぜひ見てほしい作品だ」ということです。

「おっさん」同士がキュンとする演出

「おっさんずラブ」を見ていない人のために簡単にあらすじを説明すると、田中圭が演じるモテない会社員・春田がある日、「ヒロイン」兼上司・黒澤部長(吉田鋼太郎)から愛を告白され、「部長のことは尊敬しているけど、部長は結婚してるし、男だし……」と困惑するところから物語がスタート。そんな中、本社からイケメンの後輩・牧(林遣都)が異動してきて、主人公である春田、いや、はるたんを巡る熾烈な恋愛バトルが、ドラマ全体としてコミカルに描かれた作品です。

 これが非常に面白くて、意図せず手と手が触れ合って「おっさん」同士がキュン、とするような「少女漫画の定番」感あふれる演出があったり、恋敵の登場に焦るあまりついつい強引になってしまうなど、恋愛ドラマとしての要素がこれでもか、というほどに詰め込まれているんですよね。

 また、ありふれた恋愛ドラマかと思いきや、キャラクターひとりひとりの「人生の選択の重み」までしっかり描かれていて思わずホロリと泣かされてしまうなど、作り手のみなさんには敬意を表さずにはいられません。牧くんが可愛い。

あれ、これ普通に怖くない?

 そんな「おっさんずラブ」、初めは普通に笑っていたのですが、次第に「あれ、これ普通に怖くない?」と思う場面が増え、途中からは何とも言い難い、複雑な気持ちで見ることになりました。

 私が戦々恐々としたのはいずれも、黒澤部長が戸惑うはるたんに対して、全力でアプローチをかけているシーン。仕事中、はるたんの体をさわさわと触る黒澤部長。はるたんの提出した日報にだけ長文コメントを書き、食事に誘う黒澤部長。はるたんを隠し撮りしたり、はるたんのキャラ弁を作ってきたり、はるたんのプライベート用のスマートフォンに何度も連絡をしてしまったりする黒澤部長。

「怖いなあ、何か既視感があるなあ」と思っていたら、こういうおじさん、今まで勤めた会社で何人か見たことあったんですよ。だいたい50歳前後で、会社内でそこそこの立場にいる男性上司が、新入社員の若い女性にアプローチする姿、そのものだったんですよね。吉田鋼太郎の鬼気迫る演技がそのリアルさをより一層引き立たせていて、思わず恐怖すら覚えてしまったのでした。

 さすがに隠し撮りとかキャラ弁はあんまりないだろうけど、己の恋愛感情や下心を抑えきれず、体を触ったり、何かと理由をつけて2人きりになろうとしたり、深夜にプライベートな連絡をしつこくしてきたりする人は、会社を変えようが、堅い仕事であろうが、どこにでもいたわけです。

おじさんだけではなく女性の上司も……

 私は女性なので相手がたまたま「おじさん」であるケースが多かったというだけで、男性でも、たとえば女性の上司からこうした性的なアプローチを受けたことがある人はいるだろうし、実際に男性の友人からの相談に乗ったこともあります。「そもそも部長を恋愛対象として見ていなかった」はるたんが、「怖い」「俺はそんなつもりじゃない」と拒絶反応を示すシーンは、コメディ調ではあるものの、作品内で何度も描かれています。

 黒澤部長のアプローチを見て「アハハ~怖いな~」と笑い飛ばせる人と「えっ、こわい……」と感じてしまう人の違いは、おそらく、過去にそういう上司に遭遇したことがあるか、ないかの体験の差であって、どちらが正しいとか優れているとか、作品が良いか悪いかみたいな話ではないと思うんです。

 ただ、黒澤部長が暴走した結果、大好きなはるたんを困惑させてしまったように、「逆らえない立場にある人に対して私的な感情をぶつけること」の危険性は、人間関係を築く上で、必ず心得ておく必要があるでしょう。

 そういう意味で「おっさんずラブ」は、仕事上、誰かの上に立つ人にほど見てほしいし、これ以上ないくらいの「教科書」的ドラマだったんじゃないかなと。

いくら純粋な恋愛感情のつもりでも

 部下に対して抱いているのがたとえどれだけ純粋な恋心だとしても、好意を向けられている本人にとっては「上司」なわけで、会社でこれからも関係が続く以上、気まずくなるのは避けたいし、強く拒絶ができないのです。それを「相手が『嫌』と言ってないから向こうもその気なんだろう」とか、「食事の誘いにも応じてくれるから脈アリだ」と安易に解釈して暴走してしまうのは、あまりにも楽観的すぎるなあと感じます。

 ニュースでもよく見るような「自分の優位な立場を利用して、相手にセクハラ行為を繰り返した悪い奴」に我々が絶対にならない、という保証はどこにもありません。「好きな人に近づきたい」といった純粋な恋心であろうとなんだろうと、場合によっては相手を困らせてしまう可能性があることを、これからは胸に刻んでおかねばならないと強く思います。

 はるたんの「純粋な上司と部下の関係に戻りたい」というセリフには、ついつい「そうそう、そうなんだよなあ」と首がもげるほど深く頷いてしまったのですが、別に相手のことが嫌いだとかそういうことではなくて、ただ「恋愛対象として見ていない」だけなんですよね。そういう相手にアプローチをかけられても温度感の違いに戸惑ってしまうし、無下にすることもできないし、変な気まずさが生まれるので、非常に居心地が悪くてつらい思いをしてしまう。

「恋愛対象ではない相手」という意味では、はるたんが牧くん(可愛い)からのアプローチに強く拒否反応を示した根本の部分は同じだし、ただ牧くんが「後輩」だから、黒澤部長に対してよりも、はるたんが自分の正直な気持ちを伝えやすかったというだけで。

「嫌そうじゃないんだけど、脈アリだと思う?」

 最近、なぜか既婚のおじさんから「会社に可愛い子がいてさあ、食事に行ったこともあるし連絡も取ってるんだけど、脈アリだと思う?」と相談されることが増えました。色々ツッコミどころはあるのですがそれは一旦置いといて、これまでは「誘いを断りづらかったり、連絡を無視しづらいだけの可能性もあるよ」と説明しても、「そうかな~? 全然嫌そうじゃないんだけどなあ」と言われるだけでまったく腑に落ちない様子だったのですが、

「『おっさんずラブ』見ました? 黒澤部長のこと、最初どう思いました?」

「グイグイきて怖かった(即答)」

「でしょ? 今、相手にとってはそういう状態かもしれませんよ」

 という会話を交わすと、すんなり腹落ちしてくれるようになりました。奥さんを大事にしてあげてください。

 何気なく見始めた「おっさんずラブ」が、こんなにも教訓として胸に残るものだとは思いませんでした。職場での甘酸っぱい恋のつもりが、ある日突然「セクハラだ!」と言われてしまわないためにも、恋愛には今まで以上に慎重にならなくてはいけないなと、自戒を込めてこの文章を記します。

(吉川 ばんび)

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