“過呼吸”の新常識「連鎖する」「ペーパーバッグ法は使わない」ってホント?

文春オンライン / 2019年10月19日 11時0分

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 以前小欄で 「過呼吸」についての記事 を書いた。精神的なストレスが呼び水となって呼吸が浅くなり、パニック状態に陥るもので、医学的には「過換気症候群」や「過呼吸症候群」と呼ぶ。

 ここに来て、この症状に関連する事例が立て続けにニュースになった。全日本テコンドー協会の高橋美穂理事と、神戸の小学校で先輩教員らによるいじめに遭っていた被害者教員だ。

 そこで今回は、過呼吸状態に陥った時に思い出してほしい対処法を、呼吸器内科医に取材した。前回の記事と合わせて参考にしてほしい。

「吸いたいのに吸えない」のパニックで陥る“過呼吸”

 10月8日に開催された全日本テコンドー協会理事会で、金原昇会長らに体制刷新を求めたものの退けられた高橋美穂理事は、理事会途中で気分が悪くなり退室。会議室の外で倒れて救急搬送された。症状は「過呼吸」だったという。

 一方、神戸市須磨区の小学校で起きた教員によるいじめ事件の被害者の一人も、陰湿ないじめの影響で嘔吐や不眠、過呼吸などの症状に苦しめられているという。

 さらに、これとは別に9月10日には東京都板橋区内の中学校で、生徒15人が集団で過呼吸症状を訴えて、救急車10台が駆け付けたという報道もある。

「いずれも強い精神的なストレスが関与していると考えられます」

 と語るのは、東京都豊島区にある池袋大谷クリニック院長で呼吸器内科医の大谷義夫医師。詳しく解説してもらおう。

「私たちは普段、1分間に12~20回の呼吸をしています。通常は約1秒で吸って2秒程度をかけて吐く――というサイクルが平均的ですが、過度な緊張状態に陥ると、この比率が崩れてくる。1秒で吸って1.5秒で吐く、1秒で吸って1秒で吐く――と、“吸う”と“吐く”の比率が近づくほど、息苦しくなっていきます」

 本来の呼吸は、「吐き切ってから吸う」のが自然なのだが、「吐き切らないうちに吸う」ことを繰り返すことで「吸いたいのに吸えない」という意識が湧き上がり、パニックに陥る。このパニックがさらに呼吸を浅くする、という悪循環だ。

「自律神経のうち副交感神経が優位になるとリラックスし、交感神経が優位になると体は活発化します。過呼吸が起きるのは、交感神経が過度に活発化した時。激怒する、興奮する、極度に緊張したり不安を感じるなどの状態は、明らかに交感神経が優位になっているので、過呼吸になるリスクは高まります」(大谷医師、以下同)

子どもや若者に多い「過呼吸は連鎖する」

 若い年代の過呼吸は、周囲に連鎖することがある。先に触れた板橋の中学校の事例がまさにそれだ。

 一人が何らかの要因で過呼吸状態に陥ると、その苦しんでいる姿を見た周囲の人たちも強い不安を覚え、呼吸が浅くなって過呼吸に至るのだ。“過呼吸が集団に連鎖する”という現象は、子どもや若者に多い。その理由を大谷医師は「心がピュアだから」と説明する。

「年齢を重ねて色々な経験を積むにしたがって“驚く”とか“共感する”という能力が低下していくと、連鎖もしなくなっていくようです」

「最悪の場合に死に至る」ペーパーバッグ法は推奨されていない

 過呼吸状態が続くと体内の二酸化炭素量が低下し、体の電解質のバランスが崩れてさらに苦しくなる。手足にしびれが起きたり、手が固まって動かなくなることもある。

 そのため、以前は紙袋で口と鼻を覆い、吐いた二酸化炭素をまた吸い込むことで低下した二酸化炭素量を高める「ペーパーバッグ法」が行われていたが、現在は推奨されていない。

「この方法では血液中の酸素濃度が低くなりすぎたり、二酸化炭素濃度が過度に上昇したりする危険性があります。心不全や肺塞栓など、本当に呼吸困難を引き起こす病気がある人がこれを行うと、最悪の場合死に至る危険性があるのです」

 大谷医師によると、他にも心筋梗塞、喘息発作、肺炎、肺水腫などの基礎疾患がある人が、病態悪化によって過呼吸になることはあるという。そんな時にペーパーバッグ法を行うのは危険なので、過呼吸状態で救急搬送された人は、まずこれらの病気がないかどうかを調べて、すべてが否定されたら安定剤などを使って落ち着かせる処置が取られることが多い。

苦しくなったらまず息を吐くことから

 前回にも書いた通り、「過呼吸」という症状だけで死ぬことはない。もし過呼吸に陥ったら、とにかく「落ち着くこと」を心がける。

 落ち着くためにすべきことは、呼吸を整えること。

 呼吸を整えるためにすべきことは、息を吐く時間を長くすること。

 息を長く吐くには、口をすぼめて細く吐く――。

「苦しくなったらまず息を吐くことから始めます。先に吸おうとすると苦しくなるので、最初は吐くことから始めます。そのあとで2秒かけて鼻から息を吸い、6秒かけて口から吐く。また鼻から2秒かけて吸い込んだら、今度は8秒かけてゆっくり吐く。この時、口の先をすぼめて、呼気が一気に出て行かないようにして、少しずつ吐くのがコツです。人間の体は息を吐く時間が長くなると副交感神経が優位になり、リラックスしていくようにできています。 鼻から2秒吸って、口をすぼめて8秒吐く、を繰り返すことで、過呼吸は自然に治まっていきます」

“口すぼめ呼吸”と“2秒吸って8秒吐く”

 この「口すぼめ呼吸」は、じつは慢性閉塞性肺疾患(COPD)のリハビリの一つ。COPDは気道が虚脱して塞がる傾向になるため呼吸が苦しくなる。そんな時に「口すぼめ呼吸」を行うと気道に圧がかかって気道が開くので呼吸がしやすくなる。そんな呼吸法が、過呼吸状態の人にも役に立つのだ。

「この“口すぼめ呼吸”と“2秒吸って8秒吐く”のセットは、過呼吸以外にも、緊張状態を和らげる作用があります。プレゼン前の緊張状態の時などに試してください」

 繰り返すが、過呼吸状態での“口すぼめ呼吸”は、まず“吐き切る”ことから始めることが重要だ。過呼吸に陥った人はどうしても「吸おう」としてしまいがちだが、先に吸ってしまうと余計苦しくなってパニックを増幅しかねない。

 ただでさえ苦しい時に、息を吐くのは勇気のいることなのだが、その「ひと吐き」がラクになる近道であることは、ぜひ覚えておいてほしい。

 日頃深呼吸をするときも、いきなり吸い込むのではなく、「まず吐く」から始めることを意識しておくといいでしょう。

(長田 昭二)

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