「目黒女児虐待死事件」DVで妻を支配し、娘を衰弱死させた男に下された“懲役13年”は妥当か?

文春オンライン / 2019年10月18日 6時0分

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船戸結愛ちゃんが虐待を受け、死亡したアパート ©共同通信社

 2つの判決の間をどう読んだらよいのか。

 10月15日、東京都目黒区で2018年3月、船戸結愛ちゃん(当時5歳)が虐待死した事件で、保護責任者遺棄致死などの罪に問われた父親の雄大被告(34歳)に対し、東京地裁(守下実裁判長)は懲役13年の実刑判決を下した。

 速報に接した際、私は「軽い」と感じた。なぜならもう1つの判決――同じく保護責任者遺棄致死罪に問われた妻の優里被告(27歳)の量刑が懲役8年だったのと比べると、差がたったの5年に止まったからだ。「2倍ぐらいにはならないのか」と。

 雄大被告への判決は「優里被告が病院に連れて行くことを提案しても受け入れず、主導的で最も重要な役割を果たした」と認めた。にもかかわらず、この量刑判断は正しいのだろうか、と感じたのは私だけではないだろう。

優里被告へのDVを起点としていた事件

 判決によれば雄大被告は香川県にいた2016年4月、結愛ちゃんの母親である8歳年下の優里被告と結婚し、半年ほどして結愛ちゃんに度々暴行するようになった。 

 一家で東京都に転居した18年1月下旬からは食事制限を開始。2月下旬には結愛ちゃんを全裸にして冷水をかけ、顔を多数回、手加減なく殴り、衰弱を悪化させた。2月27日ごろには異常に痩せ食事を受け付けなくなったことを認識したのに病院に連れていかず、3月2日、肺炎による敗血症で死亡させた。

 この間、優里被告は入籍以来、連日のように3時間にも及ぶ説教などを通じて雄大被告の支配下にあった。

 現在発売中の月刊 「文藝春秋」11月号 に掲載した拙稿「結愛ちゃん母『懺悔の肉声』」の中で私は、結愛ちゃんの「虐待死」が雄大被告による優里被告への「DV(ドメスティック・バイオレンス)」を起点とし、これを積み重ねることで、巧妙に仕向けられていったプロセスであることを示した。

 9月17日に下された優里被告への判決は「雄大からの心理的影響を強く受けていた」と認めはしたが、「強固に支配されていたとまではいえ」ないとして、大幅には責任を減じなかった。

雄大被告が「懲役13年」になった理由

 雄大被告への量刑の理由について判決はこう記している(東京新聞・16日付)。

〈検察官は「同種事件でも比類なく重い」事案と位置付け、従来の量刑傾向から踏み出した重い求刑(筆者注・18年)をした。だが同種事案の中で最も重い部類を超えた量刑とすべき根拠は見いだせず、同調できない〉

〈裁判所としては児童虐待事案に対しては(略)最も重い部類と位置付けた〉

 過去の同じような事例の最も重いものと同じだけの量刑にした、というのだ。

 例えば16年、埼玉県のマンションで当時3歳の女児の首に鎖を巻き付けたり、栄養不良のまま風呂で冷水を浴びせかけたりして放置し敗血症で死亡させた母親に対し、さいたま地裁は翌年、求刑通り懲役13年の判決を下した。内縁の夫にも12年6月の判決が下った。

 神奈川県で14年、死後7年経った男児(死亡当時5歳)の白骨化遺体が見つかった事件では、一審の横浜地裁はわずかな水や食事を与えるのみで衰弱死させた行為に殺人罪を適用して懲役19年と判じたが、二審の東京高裁は一審を取り消し、保護責任者遺棄致死罪で懲役12年になった。

 こうした事例に鑑みれば、確かに雄大被告の量刑は過去の「最も重い部類」とほぼ等しい。

「感情としては量刑傾向を少し動かしたくなった」

 だが、そうした事実を知らされた裁判員にも葛藤があったようだ。毎日新聞(16日付)を引用する。

〈裁判員を務めた女性は「どうしても結愛ちゃんに寄ってしまい、量刑傾向で基準が分かった」と振り返り、裁判員を務めた別の女性も「感情としては量刑傾向を少し動かしたくなった」と打ち明けた〉

 結愛ちゃん事件の後も今年1月には千葉で10歳女児の虐待死が明らかになり、さらに6月には札幌で2歳女児、8月には鹿児島で4歳女児がそれぞれ犠牲となった。児童虐待の相談件数はこの10年で3倍に増えた。

 虐待死をどうしたら止められるのか、世間の意識の高まりを反映した裁判員と、過去の判例を重んじる裁判官の間には、量刑に対する感覚にギャップが生じていた可能性もある。

優里被告への「8年」は本当に正当な判決なのか?

 前例との関係だけではない。優里被告とのバランスも引っかかったはずだ。雄大被告に対する13年がほんとうに上限なら、その支配下で苦しんでいた優里被告に8年もの刑は不当に重い判断をしたことになるのではないか。

 優里被告は控訴こそしたが、 「文藝春秋」11月号 の拙稿で示した通り、いまだ「100%自分の責任」と繰り返し、重い刑に服する意思を示している。

 今後、控訴審が開かれることになれば、DVによる支配がどれだけ強固なものであったのか、あらためて審理されるはずだ。雄大被告の洗脳からようやく解かれつつある優里被告がさらに記憶を取り戻せば、DVの影響下にあるとはどういうことなのか、慎重な判断が迫られることになる。

(広野 真嗣/文藝春秋 2019年11月号)

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