ルノワールの傑作を観てわかった、誰もが魅かれる「不思議な力」の正体とは

文春オンライン / 2019年10月19日 11時0分

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アンリ・ルソー《婚礼》1905年頃 © RMN-Grand Palais (musée de l'Orangerie) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

 私たちが最も馴染みやすい西洋絵画は何か? 好みはいろいろあろうけれど、19世紀後半の印象派から20世紀初頭のエコール・ド・パリと呼ばれた流派あたりが、人気も高くいちばんしっくりくるんじゃないか。まさにその時代の作品ばかりを集めた展覧会が、横浜美術館で開かれている。「ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」だ。

パリ・オランジュリー美術館から運ばれた作品群

 展名の通り、ルノワールを含む13人の画家の作品で展示は構成されている。これらはすべて、パリ中心部にあるオランジュリー美術館のコレクション。同館の所蔵品は、20世紀初頭のパリで広く活動した画商ポール・ギヨームの集めた絵画が中心を成す。同時代のアーティストを精力的に応援したり見出したりした人物であり、目利きでもあったので、印象派~エコール・ド・パリの優れた作品がここに集まっているのだ。

 会場を巡ると、印象派の画家としてキャリアをスタートさせたオーギュスト・ルノワールの作品を集めた展示室は、やはりハイライトとなる。とりわけ《ピアノを弾く少女たち》の、自由で軽やかな筆致と色合いはどうだろう。少女たちがピアノの前で戯れる快適な室内に居合わせて、話し声や音楽が実際に聴こえてきそうな気分になる。

 そう、描かれている対象について、知らずたいへん親密な気持ちになれるのがルノワール絵画の美質と、改めて気づかされる。広く愛され高い人気を誇るのはそのためだ。

 そう、描かれている対象について、知らずたいへん親密な気持ちになれるのがルノワール絵画の美質と、改めて気づかされる。広く愛され高い人気を誇るのはそのためだ。

すべての絵画が親密で懐かしい

 ルノワールの「親密さ」に触れてから、別の画家たちの作品に目を移していくと、この会場には他にも親密な空気を放散する絵画がたくさん見出せる。

 たとえば印象派の一員たるアルフレッド・シスレーの風景画。パリ郊外の穏やかでのどかな田園風景を多く描いているのだけれど、その飾らず何気ない雰囲気がまたいいのだ。当時のパリ郊外の空気を吸ったことはもちろんないのに、なぜか懐かしさを感じてしまう。

 ポール・セザンヌの静物画《りんごとビスケット》は、どこにでもありそうなりんごやお菓子を描くだけで、ものが存在することの不思議さまでを表現しているようで驚かされる。モディリアーニやアンドレ・ドラン、スーティンらの人物画も印象的だ。目に映るままの姿を写実的に描いているわけじゃないけれど、いずれも画家にとって身近な人たちを、慈しみの情を持ちつつ描いたのであろうことが伝わってくる。

 

 パリの都市風景を描き続けたモーリス・ユトリロの風景画もある。くすんだ白色を基調に描かれる《サン=ピエール教会》は、そこはかとない哀愁を帯びていて、これはユトリロにとって思い出深い地なのだろうと察するとともに、観る側にいる者にも「これは自分にとってもかけがえのない光景だ」と思わせてしまう力がある。

 実際はそうじゃないのに、身近な人や場所にたくさん出逢えたような、不思議な気分に浸れる展覧会だ。

(山内 宏泰)

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