【韓国ジャーナリストが緊急寄稿】文在寅が国民に見限られ始めた「3つの理由」

文春オンライン / 2019年11月3日 13時0分

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韓国国会で演説する文在寅大統領。いま窮地に立たされている(10月22日) ©共同通信社

 文在寅政権が支持率低下に喘いでいる。韓国国内では10月31日、文大統領の腹心、曺国(チョ・グク)前法務部長官の弟が、妻や親族の男性に続き逮捕され、身内のスキャンダルが収まらない。外交に目を転じても、11月16日からチリで開催予定だったアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の中止を受け、安倍首相との首脳会談の可能性も消え、「反日外交」の清算に手間取っている。

 ただ、就任時に8割を誇った支持率が半減した文政権の窮地は、目先のスキャンダルや外交関係の行き詰まりによるものではない。5年任期の折り返し地点を迎えて、ここまでの政権運営の矛盾や限界が露呈した結果なのだ。韓国国民が失望した文在寅政権の「3つの裏切り」をレポートしたい。

雇用統計が急激に改善した「残念な理由」

 まず、経済をめぐる「裏切り」だ。文政権最大の課題とされた経済戦略は、最低賃金の引き上げなどを行って所得格差を是正し、成長を目指すという政策だった。象徴的だったのは、9月16日の青瓦台首席・補佐官会議での文在寅大統領の発言だ。

「韓国の経済は正しい方向に向かっている」

 この発言は、9月に統計庁が発表した8月雇用動向統計を根拠とした見解である。統計によると、8月の就業者数は前年同時期に比べ45万2000人増加し、雇用率も統計開始以降、歴代最高を記録したという。

 だが、大統領の発言に頷く韓国人はほとんどいなかったにちがいない。一般国民が肌で感じている就業・雇用状況は、大統領の認識とはかけ離れたものだからだ。ではなぜ、国民が景気好転の空気を感じられずにいるのに、「数字」だけは過去最高という極端な好成績を示しているのだろうか。

 この数字の「内訳」を詳細に確認していくと、その理由が見えてくる。例えば、前年同時期(2018年8月)の就業者増加数はわずか3000人。ここから45万2000人までに大きく数字を伸ばしたのだが、その内訳は60歳以上の就業者数が39万人と大部分を占めた。働き盛りと言われる世代、30~40代の就職者数は23カ月連続で減少している。

 実は韓国政府は「公共勤労」という形態で高齢者たちを超短時間勤労者(1週間当たり1~17時間)として雇用し、賃金を支給している。いいかえれば、税金で雇用人員数を“買う”のだ。1日あたり2~3時間の労働で1ヵ月に2~3万円を受給する高齢者を、政府や自治体が税金で雇用し、「就業率が上昇した」と宣言しているのである。

 高齢者の「公共勤労」のための政府予算は9220億ウォン(約850億円)。来年度にも1兆2000億ウォン(約1100億円)を計上している。就業率の改善は錯覚に過ぎないことは明白だ。この雇用統計をはじめ、経済をめぐる文政権の苦しい抗弁は、国民に見破られようとしている。

日本でおなじみの政権幹部にも「疑惑」

 2つ目の「裏切り」は、国民が文大統領に期待していた「朴槿恵・前大統領にはないクリーンさ」を実現できていないことだ。

 文大統領は、政権発足当時の挨拶の中で、次に示す5つのうちのいずれかに該当する人物は公職に任命しない方針を表明した。

「1・兵役逃れをしている人物」「2・不法ギリギリの不動産投機で私財を肥やす人物」「3・脱税をする人物」「4・名門校の学区に偽装転入して子どもを入学させる人物」「5・論文を剽窃する人物」の5タイプである。朴槿恵政権をはじめ、これまで韓国の政治家や高級官僚の間でこういった行為が蔓延していた実情を踏まえ、そこから距離を置く政権であることをアピールしたのである。

 ところが、この指針は当初から守られることはなかった。内閣の要職についている人々について、この5つの条件に該当しているという疑惑が次々と浮かび上がってきたのだ。

 例えば、日本でおなじみの人物でも、「即位礼正殿の儀」に参列するため来日して10月24日に安倍首相と会談した李洛淵首相は「4・偽装転入」、日本との外交交渉に最前線で当たる康京和・外交部長官は「2・不動産投機」「4・偽装転入」に加え、子どもの二重国籍などの疑惑を抱えている。疑惑が持たれている人物は長官級だけをみても10名を超えるが、それでも大統領は指名を強行した。自ら打ち立てた指針を自ら破り捨ててしまったのである。

 もちろん、先日辞任した曺国氏も同様だ。前代未聞の5回もの入隊延期をしたという息子の兵役問題、妻の不審な不動産取引、偽装転入疑惑、税金滞納および論文剽窃疑惑など、大統領が就任当初に掲げた「任命しない条件5項目」の全てに当てはまっていた。それにもかかわらず任命を強行し、結局は不名誉な辞任劇となった。

 文大統領の人事をめぐる「約束不履行」はこれだけに留まらない。政権の目玉政策である検察改革をめぐっても、尹錫悅・現検察総長を任命する際にも「生きた権力(現政権)に遠慮するな」と注文し、国民は大統領のこの言葉を支持した。ところが、曺国前長官の疑惑が次々と明るみに出た9月28日、文大統領は「検察改革を求める声が高まっているという現実を検察は自省して欲しい」と捜査への警告ともとれる発言をし、続く30日にも「検察総長に指示する」という露骨な表現でその捜査に注文を付けた。曺国前長官のスキャンダルそのものだけでなく、この「手のひら返し」にも多くの国民は落胆していたのだ。

「まともな思考と精神が麻痺した者の奇怪な醜態」

 最後の「裏切り」は北朝鮮との関係だ。優先課題に挙げられながら、南北関係は一向に改善していない。文大統領が折に触れて友好を訴えても、北朝鮮のミサイル実験が止まらないどころか、今年に入ってからは、北朝鮮政府系メディアから文大統領に対しての激しい罵倒が続いている。文大統領の思いとは裏腹に、北朝鮮に足下を見られてしまっているのだ。

 6月28日、北朝鮮の対南宣伝サイト「わが民族同士」は、韓国に対して「(朝米対話の)仲介など必要ない」とした上で、文政権の対応について、「まともな思考と精神が麻痺した者の奇怪な醜態と言わざるを得ない」と、文大統領に“出しゃばってくるな”とばかりに批判を続けた。

 さらには、8月15日の光復節での文在寅大統領の演説について、北朝鮮の対南機構である祖国平和統一委員会の報道官は、北朝鮮メディアに次のように語った。

「部下らが書いてくれたものをそのまま読み下す南朝鮮当局者」
「北から狩りの銃声が聞こえただけでも便を漏らすくせに」

 痛烈だったのは、文大統領が満を持して演説の中で掲げた南北統一しての経済成長を目指すというシナリオについて、「ゆでた牛の頭も天を仰いで大笑い(仰天大笑)する」と一刀両断したことだ。「ゆでた牛の頭も笑う」というのは、韓国の誰もが不愉快になる馬鹿にした表現だ。仮に日本の政治家が発言していれば、ソウルの街中が反日デモで埋め尽くされるほどの大問題になっていただろう。

 その後も、10月にはアメリカの武器を購入した韓国に対して、次のようにこき下ろした。

「『支持』と『協力』を物乞いするのに余念がない、南朝鮮当局の非常に窮屈な醜態は実に恥ずかしいこと極まりない」(10月28日、対南宣伝サイト「わが民族同士」)

 青瓦台も与党も、北朝鮮からの“罵倒”に沈黙するばかりか、「我々とは使う言語が違う」「文大統領が名指しされたわけではない」として北朝鮮の肩を持ってきた。文政権に南北関係の改善を願っていた国民も、さすがに「どこかおかしい」と思わざるを得ない状況になっている。

「親文在寅」新聞社内の反乱

 これだけの「裏切り」にもかかわらず、支持率が大幅に低下したとはいえ、なぜ国民の4割が未だに文在寅大統領を支持し続けているのか。その理由は、韓国メディアと政権の距離にあると私は考えている。メディアには、文在寅大統領とともに朴槿恵弾劾事件を煽り立て、この政権を誕生させてしまった後ろめたさがあり、左派メディアを中心にまともな批判ができないのである。

 だが、この“蜜月関係”も限界が近づいている。曺前長官の不正疑惑で騒いでいた9月初旬。韓国の代表的なリベラル紙「ハンギョレ新聞」の記者たちが、編集局の幹部たちを批判する声明を発表し、幹部たちの退陣を求める「事件」が起きた。声明に名前を載せたのは約30人の若手記者だ。彼らは、当時法務長官候補だった曺氏を批判するコラムが編集局長の指示で出稿後に削除されたとして、「現政権に対する批判報道の封殺だ」と抗議したのだ。

 ハンギョレは反朴槿恵の先鋒で、文政権の誕生に最も貢献したメディアと言っても過言ではない。ハンギョレの創立には当時人権派弁護士として鳴らしていた文在寅大統領も株主として参加し、創刊委員も務めていた。その縁は深い。

広報秘書官も、駐大阪総領事も元ハンギョレ記者

 そのため、政権発足後には、ハンギョレの幹部記者たちが政権内でも重用された。たとえば、論説委員を務めていた余峴鎬記者は青瓦台国政広報秘書官に就任。論説委員の中でも上位に立つ選任記者を務めていた金宜謙記者は、政権のスポークスマンである青瓦台代弁人になった(その後、不動産投機疑惑で辞任)。論説委員室長を務めた呉泰奎記者は駐大阪韓国総領事館総領事を務めている。

 中でも、余・国政広報秘書官はハンギョレの記者時代、韓国文化放送(MBC)幹部が朴槿恵政権でポストを得た際に、「権力の過ちを批判すべき言論人が権力の中心へ移ったのは極めて悪い行動だ。MBCの信頼に致命的である」と厳しく批判した人である。

 どの国のメディアにも、時の政権と近い記者はいるだろう。しかし、新聞社内でこのような“反乱”が起きたのは、その関係が度を超えて、現場の記者たちのジャーナリストとしてのプライドを傷つけたからだろう。文政権は、対メディア戦略という側面でも綻びがみえてきた。

 国内状況で追い詰められ、これまで味方だった国内メディアの助けにも限界が見える中で、文政権は来年4月の総選挙までに政権を立て直せるのか。徴用工問題の資産現金化が目前に迫るなど、日韓関係をめぐる重大な政策に判断を下す時期だけに、日本にとっても他人事ではない。

(崔 碩栄/週刊文春デジタル)

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