GSOMIA失効を前に……日韓首相の10分の対話を過剰に持ち上げる、韓国側の“焦り”とは

文春オンライン / 2019年11月8日 11時0分

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RCEP首脳会合の記念撮影にて。左からスコット・モリソン豪首相、安倍晋三首相、文在寅・韓国大統領 ©共同通信社

 4日、安倍首相と文在寅大統領がソファに並んだ、ASEAN+3首脳会議での一コマ。

 韓国の青瓦台(大統領府)は、13カ月ぶりの、この10分ほどのやりとりを「日韓歓談」と表現した。

「電撃的歓談」と持ち上げる、文政権に近い韓国紙

「歓談」は、韓国語でも、「打ち解けた話し合い」という意味。その日のプライムニュースではトップ扱いとなり、翌朝の新聞も一斉に伝えた。ただし、各社の間には温度差が。

 進歩、中道系の新聞は社説で取り上げた。政権にもっとも近いといわれるハンギョレ新聞は、「韓日首脳 電撃的歓談 固く閉ざされた“対話の門”を開くか」(11月5日、以下同)とし、「両国首脳は直ちに葛藤解消のために実践的な行動に乗り出すべきだ」と訴えた。

 京郷新聞は、「韓日葛藤以降、初めて会った文大統領と安倍総理」という社説で「両国の説明を総合するとこの日の短い話し合いが韓日関係の改善突破になる可能性は高くないようだ」としながらも文大統領が安倍首相に会うために積極的に動いたことを評価し、「過去史の解決策の準備に続いて日本の輸出規制撤回とGSOMIAの延長を互いに認める妥協が現在としては最善」と日本も動くべしとした。

保守系新聞は日韓の温度差に焦点

 一方、保守系では東亜日報が6日の社説で取り上げたが、他紙は記事中で触れたのみ。

 中央日報は「青瓦台とあまりにも違う日本のブリーフィング 歓談の雰囲気友好的? 韓国に聞いてくれ」というタイトルをつけ、東京特派員が取材した日本での記者会見の一問一答を掲載。日本メディアは「安倍首相が『1965年の日韓請求権協定によりすべて解決済みとした』ことを強調し、文大統領が(延長期限が迫る)GSOMIA(を延長するか否か)で焦っている」と報じたと伝えた。進歩系が今回の短い話し合いを評価したのに対し、日本との温度差に焦点を当てた格好だ。

 社説で取り上げるかどうか、意見がまっぷたつに分かれたと話すのは中道系紙の論説委員だ。

「徴用工問題解決への一歩として取り上げるべきという意見と、日本側が『1965年の日韓請求権協定を遵守してくれ』と原則論を貫いた点を考えれば次の段階は厳しい見通しなので、文政権にもう一歩先を要求するためにも冷静に淡々と報じたほうがいいという意見が拮抗しました」

 そもそも日本と韓国の発表内容も異なった。

 時間も韓国が「11分」としたのに対し、日本は「約10分」とし、韓国では、「安倍首相の発言の中にはすべての可能性のある方法を通して解決案を模索するように努力しましょうという趣旨のものがあった」と伝えられたが、日本は、「総理は従来のように外交当局間で懸案を解決したいという趣旨を述べた」としている。

文在寅が日本への誠意を見せた裏では……

 先の論説委員は、「進歩系紙がすわ、解決へ動くかのように報道をしたのにはワケがある」とこう指摘する。

「23日0時が期限のGSOMIAを延長するか否かという選択が迫る中、米国からの圧力も高まっています。しかし、青瓦台は、日本が輸出規制を解除しなければ延長はしないという雰囲気。

 米国からも(GSOMIA)延長に圧力がかけられていますから、日本から輸出規制解除をひきだすために、まず、一連の問題の発端となった徴用工問題の葛藤を解消する意志があることを示すことが急務とされた。文大統領が安倍首相とのやりとりを求めて、韓国側も努力しているという姿を見せることが必要だった。

 進歩陣営がこぞって好意的に報じたのは、支持層に、文大統領自ら、日本に誠意を見せたことを強調するため。それにより輸出規制が解除されれば、GSOMIAも安全保障のために延長したと納得させられます。さらに、“曺国事態”後に進歩陣営内部で葛藤が深まっている(進歩)陣営の士気を高める意味もあったのではないでしょうか」

「曺国事態」は「曺国対戦」とも

 文大統領の支持率は11月に入り、わずかに回復したが、それでも不支持が支持を上回る低空飛行が続いている(支持率44%、不支持率47%。韓国ギャラップ、11月1日)。

「曺国事態」により進歩陣営内部で生まれた葛藤と亀裂は深刻とされており、進歩系メディアは最近この問題を大きく取り上げている。ハンギョレ新聞は、「曺国事態が触発した進歩陣営分化……社会改革、新しい空間が必要」(11月1日)という記事で、市民団体に所属する40代の活動家のこんなコメントを紹介している。

「初めは(曺国前法相へ)さまざまな疑惑が提起されても、改革を拒否する側の抵抗によるものだと思っていた。ところが、時間が経てば経つほど混乱は大きくなった、他でもない曺国がこんなことをしてはいけないというところまで考えが及んで、メンタルが崩壊した」

 中道系紙の記者は言う。

「曺国事態は進歩派の矛盾をさらけ出した格好となりました。

 公正、公平を標榜した文政権が、それを自ら破ってしまった。20代の支持者、特に男性支持者の文政権離れは顕著になっていて、与党・共に民主党には刷新の声もあがりますが、かけ声だけ。

 対する野党がだらしないため、与党はまだあぐらをかいている状態です」

 進歩がこれだけ揺らいでいるにもかかわらず、野党第1党の「自由韓国党」は党別の支持率でも再び大きく引き離されている(17ポイント)。

徴用工問題、韓国国会議長が打ち上げた法案

 さて、徴用工問題。

 5日には訪日していた文喜相・韓国国会議長が早稲田大学での講演で、「日本企業+韓国企業+日韓両国民の寄付」という新しい形の法案化を進めていることを明らかにした。

 5日の中央日報は「第3の徴用解法を見つける 政府・被害者・企業間の和解の手続き検討」と報じ「日韓政府または企業の合意下で『和解の手続き』を行い」、これにより、「日本企業が資金を出したとしても『損害賠償金』ではなく他の名目にすることができる」と伝えている。ただ、いずれも被害者との話し合いは行われておらず、文議長の発言に対しては被害者から、「望んでいるのは(日本からの)謝罪だ」という反発の声が上がっている。

 韓国から徴用工問題の解決法について次々と新しい案が出ている背景には、韓国でも「GSOMIA延長」への名分(日本からの輸出規制解除)ほしさがあるという見方が大勢だ。もし、その“名分”を得られずGSOMIAを延長すれば、「それこそ進歩派の分裂は加速する」(同前)といわれている。

 さて、韓国の選択はいかに。

(菅野 朋子)

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