なぜアマゾンは社内プレゼンで「パワポ」の使用を禁止しているのか

文春オンライン / 2019年11月12日 6時0分

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 いまやプレゼンの必須ツールとなっている「パワーポイント」だが、アマゾンでは禁止されているらしい。アマゾンの「普通」は、他の会社の「普通」とは異なることが多々ある。ではアマゾンの「普通の基準」とは何なのだろうか。アマゾンジャパン元経営メンバーが解き明かす。【「 amazonの絶対思考 」(扶桑社)から一部抜粋】

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 アマゾンでの社内プレゼンテーションで、パワーポイントの使用が禁止されているのは、かなり有名な話になってきた。「パワポ禁止令」を発令したのは、他ならぬジェフ・ベゾスだ。

 ベゾスがパワポを禁止した理由については、社内でもさまざまな逸話が語り継がれている。なかでも、私がさもありなんと思っているのが、外部コンサルティング会社にまつわるエピソードだ。

 アマゾンがスタートした当初、サービスの骨格を固めるためにベゾスは外部のコンサル会社に提案を依頼した。彼らは当然気合いを入れたパワポの資料を作成してプレゼンテーションを行ったのだが、手の込んだ紙芝居のようなビジュアルに惑わされるばかりで具体性がなく、何を提案したいのかよくわからないとベゾスが激怒したというものだ。

 実際、パワポのプレゼン資料は要点だけを箇条書きにして詳細は口頭だけで説明したり、見栄えのいい、そして都合のいいグラフなどを多用して提案のメリットや効果を強調することが多い。また、アニメーションなどを使い、みてくれに時間をかけることがある。

 でも、後から資料を見返しても肝心なことが口頭説明だけで書かれておらず、“なんだかよくわからない”ということになりがちだ。ベゾスはもちろん、ヒエラルキーが明確で多くの案件のスピーディな決断を求められているアマゾンのリーダーにとって、面倒なことこの上ない。

 作成者の主観が過剰に入り込むという理由で、グラフの使用も好まれない。シンプルな棒グラフひとつでも、軸のスケールや幅を変えるだけで印象が大きく変わってしまう。対象を比較しづらい円グラフはほとんど使用されることがないし、無意味な装飾を施した3Dのグラフなど言語同断である。

ビジネスドキュメントは「1ページャー」と「6ページャー」で

 アマゾン社内のビジネスドキュメントは、「Narrative」(ナラティブ=物語)と呼ばれるA4で1ページの「1ページャー」、もしくは6ページの「6ページャー」のメモのどちらかにまとめることになっている。

 報告書など社内で提出するほとんどのドキュメントは1ページで簡潔にまとめる。年度ごとの予算であったり、大きなプロジェクト提案などは6ページにまとめるのが基本的なルールだ。ドキュメントの内容はどんなトピック(論ずるテーマ)かを示す見出しと、トピックを説明する文章のみ。詳細な数字や、補足情報が必要な場合は別途 「Appendix」(添付資料)として、枚数にはカウントしない。

 6ページャーが提案される会議では、冒頭のおよそ15~20分間、まずは全員がドキュメントを読むための時間にあてられる。静まったミーティングルームで参加者が黙々とドキュメントを読む雰囲気はかなり緊張感が漂っている。

 その後、基本的にはページごとにドキュメントの提案者であるオーナーが出席者からの質問に答えながら、さまざまなフィードバック、アドバイスを通して議論を重ねていく。

 当然「Dive deep」(深掘り)の質問が相次ぐことがほとんどなので、提案者にはどんな質問にも理論的な回答ができるようにプロジェクトの細部まで把握、理解をするのと同時に、提案内容に共感を得るための説明能力や説得力が求められることになる。

 この「1ページャー」「6ページャー」ルールが社内で徹底されるようになった2009年頃の当初は、A4で6ページのドキュメントはそれなりの文章量とはなるが、大がかりな予算案やプロジェクト提案をまとめるには少々ページ数が足りないと感じることがあった。まして1ページにまとめるためには、余計なエピソードや言い逃れが入り込む余地はない。導入当初は姑息にも文字サイズを小さくしたり、行間をせまくしたりしてスペースを稼いだものだ。

 でも、ルールに則ったドキュメント作成が習慣になってくるにつれ、定められたフォーマットに従って論旨を構築する作業には、無駄を削ぎ落とし自らの思考を整理する効果があることを実感できた。

社内ドキュメント、その5つの目的とは

 なぜ、多くの場面でそのようなメモを作成し、議論するプロセスをアマゾンは取り入れているのか、それには目的がある。

(1)効率化:事前に全員がドキュメントを読んで必要な情報を得ることにより、すぐにディスカッションを開始することができる。ミーティングの時間短縮にもなり、より良い結論が出ることになる。

(2)質の高い質問とディスカッション:全員が同じ情報を持つことにより、質問の内容が深くなるし、示唆に富んだものになり、ディスカッションがより的確なものになる。

(3)場の公平性:社内で目立つのは声が大きくて積極的な人であったり、ダイナミックなスライドを使用する場合が多い。メモであれば、全ての参加者が公平に自分の考えを説明することができ、そのアイデアや戦略が理解しやすい。

(4)戦略的な思考:メモを書くことによって、メンバーがデータや事実に基づいて考えることができる。パワーポイントは、表面的な事実、基本的なデータどまりになってしまうことが多いが、メモであれば深く細かい内容の説明が可能で、ナラティブ、ストーリーによって結論まで到達することができる。

(5)過去のアイデアや決定事項の記録:ミーティングを欠席せざるを得なかったメンバーに対してもこのメモで内容を説明することができて、置いてけぼりになることはない。決定事項の背景などについて、将来的に再度、確認する時にはメモが活用できるし、そのために検索可能なように保存する。

 ただし、実際には大量のドキュメントが整理されて活用しやすく保存されているとは言いがたく、同じようなドキュメントを何度も作ってしまう無駄があることもある。

ジェフ・ベゾスが要求する文章力の高いハードル

 ジェフ・ベゾスがワードで作成された文章による社内ドキュメントを求めるのは、ドキュメント内容の本質をわかりやすく提示して、会議の参加者やドキュメント閲覧者からより具体的で意義ある質問やフィードバックを引き出すためだ。6ページャーのドキュメントについて、ベゾス自身が語った言葉がある。原文とともに紹介しておこう。

Full Sentences are harder to write. They have verbs. The Paragraphs have topic sentences. There is no way to write a six-page, narratively structured memo and not have clear thinking

 文章を書くのは難しい。それぞれの文中には(適切な)動詞があり、それぞれの段落にはトピックがある。明確でクリアな思考がないとストーリーとして構築された6ページャーのメモを書くことは不可能だ。

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星 健一 (ほし けんいち) 1967年横浜生まれ。1989年に縫製機器、産業装置メーカーであるJUKI株式会社に入社し、2005年まで旧ソ連から始まり、インド、シンガポール、フランス、ルーマニアと一貫して海外でキャリアを磨く。フランス、ルーマニアではそれぞれ現地法人の社長を務め、企業再生の失敗も経験。2005年に金型標準部品などの商社である株式会社ミスミに入社し、タイ法人の社長を務める。これらの海外でのトップとしての経験が現在の経営的視点の礎となる。2008年にアマゾンジャパンに入社。1年半後、ディレクター、リーダーシップチームメンバーに昇進後は、ハードライン事業本部、セラーサービス事業本部、アマゾンビジネス事業本部の事業本部長を歴任し、創世期から成長期の経営層として活躍。2018年、アマゾン退社後は、その経験を基に日本の会社に貢献すべく、セミナー講師、コンサルティングを手掛ける。

(星 健一)

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