女子プロ野球大量退団 選手たちを悩ませた“首領さま”と“女子高生制服撮影会”

文春オンライン / 2019年11月22日 18時0分

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埼玉アストライアの選手たち

「本当は現役を辞めたくありません。続けたいと球団や会社に伝えましたが、『契約しない』と戦力外通告され、クビを切られました」

「週刊文春」にそう訴えた元女子プロ野球のA選手は、暗い表情で肩を落とした――。

 11月1日、日本女子プロ野球リーグは、所属選手71人の半数にあたる36人の退団を発表した。

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 女子プロ野球は、2010年にリーグが発足。度重なるチーム再編を経て、現在は「京都フローラ」、「愛知ディオーネ」、「埼玉アストライア」の3球団に加えて、若手育成に特化した「レイア」の計4球団がある。

「いずれの球団も、『ブルーベリーアイ』でおなじみの健康食品会社『わかさ生活』が一社で運営しています。女子プロ野球は経営難で、1球団あたり毎年約2億円の赤字。売上高144億円(17年)の企業がこれまで約100億円を負担してきたが、今年8月には球団を運営する企業や団体を募集しています。来季は2球団体制でリーグ戦を行う可能性が高い」(スポーツ紙記者)

 退団選手の中には、“美しすぎる野球選手”として絶大な人気を誇る加藤優(24)や女子W杯でMVPを獲得した里綾実(29)なども含まれていた。

退団に至った決定打は「お金」

 選手が退団に至った決定打は「お金」だと、スポーツライターが指摘する。

「これまでは高卒初年度でも240万円プラス出来高で80万円くらい支払っていた。大卒や一般合格者も年俸288万円プラス出来高。住宅手当もあった。実績のある選手は年収500万円以上で、トップの選手は1000万円近い年俸でした」

 選手への契約更改の説明会が行われたのは10月9日。わかさ生活の社員が、選手全員を京都のホテルに集めて、こう言い放った。

「来春から一律月給20万円プラス出場給、成績などに応じた出来高に変わります。20万円だけではないから、年収220万円くらいになる」

 元女子プロ野球のB選手が振り返る。

「これまでは、従業員として雇用され、午前中練習をして午後はわかさで働く。選手の仕事内容は、グッズ作成や遠征先の宿泊施設の手配など球団の運営に関わるものでした。ところが、今回提示された契約はシーズン期間の3月から11月まで。冬のオフシーズンは、月給が支払われない。自分たちで何とかするか、わかさの社員として契約することも提示されました。ただ、社員だと朝の8時45分から夕方5時45分まで働いて、そこから練習すると冬は特にきつい。『バイトしようか……』と私達は悩みました」

 選手たちは、契約更改について1週間猶予が与えられた。10月中旬、わかさ社員や球団のコーチ陣などスタッフと面談を行った。

「契約更改なのに、わかさ側から書面の提示はなく、口頭で契約を続けるか切るか伝えていた。今回退団した36人のうち、約半数は自分から辞めています。でも、残りは『月給20万円でも構いません』、『辞めたくない』と訴えたのですが、クビに。実績を残していた選手でも、年齢が高いと容赦なく切り捨てられた。『来季も契約する』と言われた選手も口約束。来季の所属チームもわからず、頭を抱えていました」(球団運営スタッフ)

こんな事態が起きた原因は“首領さま”

 こんな事態が起きた原因は――。リーグ関係者は「日本女子プロ野球機構の名誉理事を務める、わかさ生活の⻆谷建耀知(けんいち)社長です」と吐き捨てる。

「典型的なワンマンタイプで、周囲が意見するとすぐキレる気分屋なのです」

 今季では、フローラとディオーネが対戦する予定だったが、試合開始の2時間前に社長の意向で、フローラとアストライアの対戦に急遽変更されたという。

「そのくせ、報道を人一倍気にする。以前、スポーツ紙で女子プロ野球選手の年俸が『200万円』と書かれたとき、『誰が言っているんだ! そんなこと言うなら本当にそうするぞ』と激怒していた。今回の更改で月給20万円になったのは、あれが原因じゃないかと選手たちは噂していました」(同前)

 ⻆谷社長の傍若無人ぶりには、前出のスポーツライターもため息をつく。

「選手の移籍も思いのまま。⻆谷社長の意向を受けたスタッフが、突然、理由も説明せずに『あのチームへ移籍してください』と伝えるだけ。⻆谷社長にとって、彼女たちの移籍は、わかさ生活の人事異動に過ぎず、選手や監督、コーチ陣の意向は無視。ファンや選手たちは⻆谷社長を、北朝鮮の独裁体制になぞらえて『首領さま』とあだ名をつけていた」

“首領さま”が、リーグ発足当初から推し進めたのは選手のアイドル路線だった。

「発足3年目の12年に女子プロ野球のアイドルグループ『GPB45』を結成しました。当時はチームが3球団に増えたタイミングで、各球団から15人ずつ選抜され、試合の前後に踊らされていました。グループに所属した全選手にスタイリストやヘアメイクを付けていたが、選手やコーチらスタッフは、野球をしたいのに練習時間を奪われて猛反発。結局、1年で活動は終わりました」(同前)

 こうした路線に拍車をかけたのが、2016年、加藤優の入団だった。

人気選手が女子高生の制服姿になる“撮影会”も

「加藤自身も入団前から『広告塔として使われることは分かっています』と覚悟していた。18年、19年にツイッターで実施したファン投票『美女9総選挙』は2連覇していますが、内心は『これでいいのか』と苦しんでいたのです」(前出・スポーツ紙記者)

 加藤が所属していた埼玉アストライアの関係者も、こう証言する。

「女子プロ野球の宣伝になればと、選手たちは広報活動やイベントにも参加していた。特に加藤は野球以外で全国を飛び回って練習できず、一番野球をする環境を奪われていた。彼女はバッティングセンターへ通って、バットを振っていた」

 選手たちの思いとは裏腹に野球以外の活動はエスカレート。今年2月のバレンタインには、選手たちが、新聞社の記者にチョコを渡すなど、過剰とも言えるサービスが横行していた。

「9月末に江戸川区球場で行われた『女子プロ野球学園』というイベントでは、試合後に、加藤をはじめ、みなみ選手など人気の6選手が女子高生の制服姿になり、『制服写真撮影会』が行われました。結局、加藤も野球ができない環境を抜け出すために辞めたのです」(別のスポーツ紙記者)

選手は「女子プロ野球を心から勧められない」

 実際のところ、選手たちはどんな思いだったのか。

「新聞に取り上げてもらうことが少ないので、わかさ社員の指示でチョコをもって挨拶に行ったんです。制服も着たくないけど、それでファンが喜んで1人でも多く来てくれるなら、という気持ちでした。約10年間、赤字なのにお金を出してもらったことには感謝しています。でも今、野球を頑張っている女の子たちに女子プロ野球を心から勧められない。運営方法とか野球をする環境に問題があったと思う」(前出・元選手B)

 加藤も11月1日、SNSで「次のステージではしっかり胸を張って『女子野球には夢と希望がある』と言えるような環境づくりをしていきたい」と綴った。

 一連の騒動について、わかさ生活に聞いたところ、「弊社でも事実確認に時間が必要」と期日までの回答は得られなかった。

 制服を着せる前に、選手たちの声を聞くべきだった。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年11月14日号)

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