雑誌ジャーナリズム大賞「ベッキー禁断愛」はいかにして生まれたのか? #4

文春オンライン / 2017年3月23日 11時0分

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「週刊文春」取材の裏側を、解説と再現ドキュメントで公開する『文春砲 スクープはいかにして生まれるのか?』(角川新書)が刊行されました。発売を記念し、「Scoop1 “スキャンダル処女”ベッキー禁断愛の場合」の章を公開します。“文春砲”という言葉が広く知られるきっかけとなり、第23回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム大賞」を受賞したスクープ。その舞台裏にあったものとは――。(全4回)

◆ ◆ ◆

ベッキーに直撃!

 午後九時、長崎ではまさかの事態が起きた。

 ベッキーと川谷が、マンションから連れ立って出てきたのだ。

 川谷はマスクにニット帽。ベッキーもマスクをしているうえにキャスケットを目深に被(かぶ)り、顔全体を隠すようにストールを巻いていた。それだけの警戒をしていたとはいえ、二人で一緒に出てくるのは期待の範囲を超えたことだった。

 川谷は手に缶ビールが二本入ったビニール袋を提げていた。親との対面を済ませて、少し息抜きをしたかったということかもしれない。夜景が見える高台があり、そこに向かって歩きだしたのだ。

 大山とカメラマンは停めていた車から急いで飛び出した。とにかくまずはベッキーに直撃した。

「週刊文春です。川谷さんとのご関係をお聞きしたいんですが、ここは実家ですよね」


直撃にベッキーは絶句 ©文藝春秋

 瞬時にベッキーの顔が引きつった。

 顔を伏せたベッキーは何も答えない。大山から逃れるように踵(きびす)を返し、マンションのほうへと戻りはじめた。

 川谷の傍(そば)を離れてツーショットの写真を撮られないようにしたかったのだろう。取材を振り切るためにはマンションに戻るしかない状況でもあった。

「どういうご関係なんですか?」

「……ごめんなさい」

 ようやく言葉が返ってきた。

「川谷さんが結婚されているのはご存知ですよね?」

「…………」

 また黙ってしまった。あまりにも動揺していたからか、はあはあとベッキーの呼吸は荒くなった。

「交際をされて……」

「ないです。事務所を通してもらえますか」

 そこだけはきっぱりとした口調だった。

 さらに大山は質問を投げかけたが、それにはやはり答えてくれず、ベッキーはふらふらとした足取りでマンションの階段を上がっていった。

嘘をつく川谷


川谷は結婚の事実を否定 ©文藝春秋

 大山が振り返ると、川谷は呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしていた。

 突然、週刊文春と名乗る記者が現れ、どうしていいかわからなかったに違いない。坂本が、川谷をブロックするように立ち、「週刊文春です」とひと言ふた言話しかけながら引き留めていたので、大山も近寄っていった。安心させようと思い、笑顔をつくりながら、できるだけやさしい声で話しかけた。

「週刊文春の大山と申します」

 名刺を渡すと、川谷は受け取った。

「今日、ご実家まで連れて来られたベッキーさんとの関係について伺いたいんです。元日から今朝まで、二人で○△ホテルに泊まられていましたが、どういうご関係ですか?」

「僕からはなんとも……」

 明らかに動揺しており、目が泳いでいた。

「川谷さんはご結婚されてますよね」

「……いえ」

 この回答を聞いたとき、大山はこれだけで記事のインパクトが強くなったことを確信した。はっきりと川谷は嘘をついたのだ。

「A子さんという女性と結婚されてないんですか?」

「はい」

「A子さんをご存知ないですか?」

「……ノーコメントで」

「本当にA子さんを知らないんですか?」

 このことに関して大山はしっかりと念押しをした。すると、さすがに川谷も、知らないとまでは言えなくなった。

「名前は知っています。友達です」

 また嘘をついた。

「クリスマスイブにはベッキーさんと幕張のホテルに泊まりましたよね?」

「はい」

「不倫関係ですか?」

「いや、それはないです」

「男女の関係ではないと?」

「はい」

「どういう存在ですか?」

「ホント、親しい友人です」

 こうしてしばらくは受け答えをした川谷も、「すいません、ちょっと一度、上へ」と言ってエレベーターのほうへと消えていった。

安堵と後悔

 ミッション・クリアだ。川谷の前で喜びをあらわすことはなかったが、大山は車に戻って、「よしっ」と小さくガッツポーズをした。

 二人に直撃した際のやり取りはICレコーダーで録(と)ってある。それを文字に起こして、早急に棚橋にメールをしなければならない。

 カメラマンのほうでも成果を編集部に送る作業をして、その後に遅い夕食をとった。ファミレスのような居酒屋にみんなで集まったのだ。夜の十一時頃になってようやく任務から解放された。

 やることはやった。

 そう安堵(あんど)しながらも、実は大山はかなりの悔いを残していた。

 ベッキーと川谷はビールを持ってマンションから歩いて出てきた。あのとき、慌てて直撃するのではなく、しばらく様子を見ていたら……。二人が高台に行き、いいムードで並んでビールを飲んでいたら……。最高のツーショットが撮れていた可能性があった。

 それでもとにかく大山たちから送られてきたデータによって、東京の棚橋と渡邉で記事をつくり、タイムリミット前に入稿できたのだ。


2016年1月14日号の中吊り広告。第1弾のスクープは、左トップに

センテンススプリングの衝撃

 記事への反響は予想以上に大きかった。

 最初は一度だけのスクープの予定だったが、そういうわけにはいかなくなった。この号の発売前日、ベッキーが会見をひらいたのだ。その会見では正月に川谷の実家に行ったことを認めながらも、「お付き合いということはなく、友人関係であることは間違いありません」とベッキーは話した。

 LINEのやり取りやホテルでの密会については言及しなかった。質疑応答もなく、一方的に打ち切られた会見だった。

 川谷もまた、その会見直後にマスコミに対して釈明のファクスを送っている。

 そこでもベッキーのことは〈親しい友人〉と書くにとどめていた。それでいながら〈昨年の夏に一般女性の方と入籍〉していることは認めるなど、直撃の際の回答とは矛盾した文面になっていた。

 週刊文春は発売前に「事実誤認である」と本人たちから突きつけられた恰好(かっこう)になった。そうなれば真相をはっきりさせないわけにはいかない。

 第二弾特集では、川谷の妻にもう一度、当たった。このときは女性記者もいたほうが話しやすいのではないかという考えから、棚橋と大山の二人で訪ねている。

 家の近くで声をかけ、付近の公園まで行って、一時間近く話を聞くことができた。

「結婚していないとか、私のことは友達だとか、本当に夫がそんなことを言ったのでしょうか」

 A子さんは憔悴(しょうすい)しきった様子だったが、彼女としても真実を知りたかったのだろう。自分の胸の内にあるものを誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。疑問の言葉を口にしたあと、思いのほか、多くの真実を話してくれた。川谷からどのようにプロポーズされたのかということや離婚をしたいと切りだされていることも彼女の口から語られた。

 そして第三弾特集では、ベッキーの会見前日に、ベッキーと川谷がやり取りしたLINEの会話を掲載している。

 ベッキー〈友達で押し通す予定!笑〉
 川谷〈逆に堂々とできるキッカケになるかも〉
 ベッキー〈私はそう思ってるよ!〉
 川谷〈ありがとう文春!〉
 ベッキー〈センテンス スプリング!〉

 二人は全てを認め、開き直ることを宣言していた。このやり取りは、さまざまなメディアで二次紹介されながら爆発的に広がった。特に「センテンススプリング」は同年末の流行語大賞にもノミネートされた。

 編集部としては、川谷の妻の話を深く聞けた第二弾の反響が大きいと予想していた。第二弾よりも第三弾への反響が圧倒的に大きかったのは意外だった。


反響の大きかった第3弾では、謝罪会見前日に2人がやりとりしたLINE画像を掲載。(2016年1月28日号)

 その後、何度か状況や事実を伝える記事を載せたあと、五月五日・十二日ゴールデンウィーク特大号では、ベッキーから届いた手紙を掲載している。インタビューを依頼していたが、それに応じるまでは踏み切れなかったようで、手紙が届いたのだ。

〈何よりもまず、川谷さんの奥様へ謝罪したいというのが今の一番の気持ちです〉

〈川谷さんへの気持ちはもうありません〉

〈記者会見についてですが、私は気持ちの整理もつかないまま会見の場に立ちました。離婚が成立するまでは、友達のままでいようという約束がありましたので“友人関係である”という言葉を選んでしまいました。しかし私の行動を考えると恋愛関係だったと言うべきでした〉

 などと書かれていた。

 一連の取材と報道について、大山は振り返る。

「今回の取材に限らず、人を傷つけているという自覚はありますけど、それに対して記者は、すいません、申し訳ありませんって言ってはいけないんだと思っています。ただ、こういう記事に関わったことで、自分は不倫をしてはいけない人間になったんだとも思いました。いままで一回も不倫をしたことはないですけど、こういう記事をつくった以上、しちゃいけない人間になっちゃったなって。自分がそれをしていたら、人のことを言っちゃいけないし、説得力がなくなってしまいますからね。何かの記事をつくるたびにそうして背負うものが増えている気はします」

 本書の再現ドキュメントの元になったのは、株式会社ドワンゴが取材・制作した「ドキュメンタリードラマ『直撃せよ!~2016年文春砲の裏側~』」。ニコニコ動画で公開中。

※こちらは予告編です。 

(「週刊文春」編集部)

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