文在寅大統領ら韓国の「進歩派」に敵意むき出し――澤田克己が語る「反日種族主義」

文春オンライン / 2019年12月31日 6時0分

写真

澤田克己氏(毎日新聞元ソウル支局長)

単なる反韓・嫌韓本ではなく、現在の韓国を憂えて記した“憂国の書”――石破茂「反日種族主義」を語る から続く

 竹島、徴用工や慰安婦問題など韓国で通説となっている歴史認識を検証した『反日種族主義』。今夏刊行された韓国では曺国前法相が批判するなど物議を醸し11万部超、11月発売の日本版は36万部に。日韓で賛否両論、波紋を呼ぶ本書を識者が論じる。

◆◆◆

 本書は政治闘争のための本だと言えるでしょう。

 書かれている内容は、既存の研究で明らかにされてきたものが大半です。

 日本が「朝鮮民族の精気を抹殺する」ために鉄杭を打ち込んだという荒唐無稽な主張や、朝鮮総督府の建物を解体した金泳三政権の倒錯した姿勢、「反日ならなんでもあり」の小説家や政治家への批判……。これらは世宗大学の朴裕河教授が2000年に上梓した、『誰が日本を歪曲するのか』(邦訳は『反日ナショナリズムを超えて』)で言及しています。目新しい歴史的発見は、本書には記されていません。

「進歩派」を攻撃するための一手

 ではなぜ著者の李栄薫氏らはこの本を出したのか。

 それは文在寅大統領ら進歩派を攻撃するためでしょう。文大統領は「積弊清算」を掲げ、保守政権時代に権力中枢にいた多くの実力者を拘束、裁判にかけました。その強権的姿勢に反発が出るのは当然です。

 ただ保守派は現実政治で進歩派に太刀打ちできない。いわばリングのコーナーに追い詰められた保守派の弱小勢力からの文政権への反撃の一手、それがこの『反日種族主義』なのです。

 そのため、本書は敵意むき出しの言葉であふれています。「韓国人は嘘つき」に始まり、文政権を「韓国経済の実態と特質を理解できないアマチュア執権勢力」呼ばわり。あるインタビューで李氏は「韓国の民族主義にはアフリカの部族中心主義に似た種族的特徴がある」とこきおろしています。この「韓国人」は進歩派を指し、保守派は含まれていません。

身内に甘く、史料の読み方にも疑問

 一方、身内には甘い。代表的なのが李承晩大統領について。李大統領は1954年のサッカーW杯予選で日韓が戦った時には、「負けたらそのまま玄界灘に身を投げろ」と言い放ったこともあり、反日教育の推進などを行った。しかし著者の李氏はいま李承晩学堂の校長であるからか、李大統領の反日政策にはほとんど言及していないのです。

 また、史料の読み方にも疑問が残ります。

 たとえば、安秉直ソウル大名誉教授が発見したビルマ(現ミャンマー)やシンガポールで慰安所の従業員として働いていた朴治根の日記。本書では「慰安婦とはいえ奴隷状態ではなかった」ことの裏づけとして使われています。

 確かに比較的平穏なシンガポールでは、慰安婦への待遇もそこまで悪くなかった。ただ最前線地域のミャンマーは違う。待遇は劣悪なことが多く、引退していた慰安婦を軍の命令で慰安所に戻したという記述もある。ある地域の慰安婦が、他の地域よりも恵まれた待遇を受けていた事実をもって、すべての慰安婦がそうだとは言えません。このような一面的な解釈が散見されるのです。

『反日種族主義』には韓国国内の政治的意味合いが強く込められている。この本を読む時に気を付けるべきポイントです。

韓国人には珍しい自己批判の本――鄭大均が語る「反日種族主義」 へ続く

(澤田 克己/週刊文春 2019年12月19日号)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング