安倍首相のSNS歴 戦闘的だったフェイスブックからなぜ「イメージ重視」のインスタ、ツイッターへ?

文春オンライン / 2019年12月30日 6時0分

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12月9日、臨時国会が閉会し、記者会見で質問に答える安倍晋三首相 ©時事通信社

 2019年の名言は「安倍政権と情報発信」から考えたい。とにかく上手だと感じたからです。ここに論点も詰まっていると思う。

 まずこちらの言葉に注目してほしい。

《本日の会見は、インスタグラムやツイッターで生中継をされていますが、今の若い世代の皆さんは、こうしたSNSなどの新しいツールを見事に使いこなすことで、どんどん新しい文化をつくり上げています。ニコニコ動画も既存メディアの発想にとらわれることなく、若者たちならではの柔軟さで多様な番組を生み出して、リアルタイムで個人がコメントを発信できる、新しいメディアの姿を形づくられたと、こう思っています。こうした若い世代の新しいムーブメントは、確実にこれまでの政治や社会のありように大きな変化をもたらしつつあります。》

 これは4月1日、新元号「令和」時におこなわれた安倍首相会見での言葉だ。12月9日の記者会見でもほぼ同じことを言っていた。

《今の若い世代の皆さんはですね、こうしたSNSなど、新しいツールを使いこなし、自らの意見を発信し、あるいは今までの通常のメディアからだけではなくて、ネットを通じて世界中のですね、様々な出来事を自分自身の情報収集力によってですね、自分の頭で考え、判断をしている、そういう世代がいよいよ台頭してきたと、こう思っています。》

若者を「イメージ重視」で取り込みたい

 実はこの日の会見は違う意味で注目されていた。臨時国会が閉幕した夜だったからだ。「桜を見る会」について自民党幹部が「逃げ切った」と言うほど(西日本新聞)に説明を避けていたが、終わりにしたい思いがあったのだろう。会見を開いた。

 そのなかでニコニコ動画記者の「若者の投票率の低下を総理はどう思われているのか」「令和の時代の政治への参加意識の向上策の必要性」という質問に上記のように答えたのである。

 そういえば「自民党と若者」については興味深い記事が今年はいくつもあった。たとえば参院選前に出たこれ。

「若者狙う、首相のSNS術」(朝日新聞7月3日)

《安倍晋三首相が、芸能人とSNSでの「共演」を重ねている。自身のツイッターや首相官邸のインスタグラムに記念写真を積極的にアップ。「イメージ重視」の発信で、参院選の公示を4日に控えて若年層へのアプローチを意識しているのは明らかだ。》

力を入れるのは政策より「好感度」

 参院選前に芸能人との写真をよく公開していた。最近では嵐のライブ後に面会した様子を投稿。

《官邸のSNS運営は、民間企業からの出向も含む内閣広報室の20代、30代の若手職員約10人らが担う。首相や官邸がSNSに力を入れるのは、支持層固めを意識するためだ。》(朝日7月3日)

 官邸が若者対策に力を入れていることがわかる。

 しかもそれは政策ではなく「好感度」。

 この手法は自民党の発信にも同じ匂いがする。たとえば「#自民党2019」と名付け、10代のアーティストやダンサーを起用したPR動画をネットで流したり、人気イラストレーターが首相をイメージして描いた侍の絵も話題になった。これらは別に全面的に共感されなくてもよいのだ。少しでも目に触れたり、親近感をふわっと抱いてもらえれば成功なのだから。

 先述した記事では政府関係者がとても大切なことを漏らしている。

「首相は新聞を読まない層を重視している。SNSで自分でつかみ取った情報は『真実だ』と信じる傾向にある」

 この言葉、じっくりと味わいたい。首相会見の言葉と答え合わせができるではないか。

スキャンダルが発生してもふんわりとSNS発信

 つまり首相は単に若者とネットを称賛しているだけではなく「今までのメディア、とくに新聞なんてもういらない」と思っているのではないか。会見の言葉からは首相の心の声、ワクワク感を行間から感じる。裏テーマは「打倒、新聞」か。

 そう考えると昨年こんな発言が政権幹部からあった。

「麻生太郎副総理『新聞読まない人は全部自民党支持だ』 政権批判に不満?」(産経ニュース2018年6月24日)

 麻生太郎氏は2017年秋の衆院選は、“若い有権者層で自民党の得票率が高かった”とした上で、

「一番新聞を読まない世代だ。読まない人は全部自民党(の支持)だ」

 記事では「安倍晋三政権への批判が目立つ新聞報道への不満を漏らした発言とみられる」とある。

 現政権は新聞への不満が高いことがうかがえる。麻生氏は「新聞(の購読者増)に協力なんかしない方がいいよ」とも言っていた。

 この本音を頭に入れておくと「官邸発ネット発信」の意味がなおさら重く感じないだろうか。

 政策よりもイメージ重視。スキャンダルが発生してもふんわりとした話題をSNSで発信すればいい。そんな戦略。

「ネットで元気」だった安倍首相

 私は過去に安倍首相についてフェイスブックの利用の仕方に注目していた。以下、2014年に書いたものを拙著から引用する。

《安倍氏はフェイスブックでは、なんかいつもとキャラが違うのだ。2012年秋に『みのもんたの朝ズバッ!』(TBS)でNHKアナの痴漢逮捕事件を報じた時に、誤って安倍氏の顔を映してしまったことがあった。これに対し安倍氏はフェイスブックで怒りを露わにし、その結果、番組側は謝罪した。安倍氏のフェイスブックを見た人たちからの抗議も多かったようだ。「ネガティブキャンペーン」「悪質なサブリミナル効果を使った世論操作」「私は皆さんと共に戦います」......。フェイスブックに投稿された安倍氏の文言を読んでみると、その戦闘的なツッコミモードは「ネットで元気な人」の言いっぷりにそっくりなことがわかる。》(『 教養としてのプロレス 』)

《「フェイスブックを使う」という事実は、確かに斬新に見えるが、実は古典的な「どぶ板選挙」と同じかもしれない。田んぼの中に背広で入って握手する田中角栄的な「どぶ板」をネット空間でやっているのだ。コメント欄に熱い声があるところなんか、いわばデジタル版の陳情。今のところ安倍氏はその層を取り込むことに成功している。》(同)

 そして現在、遂にこのネット戦略は完成に近づいていると言えまいか。

 読売新聞の最近の連載「自民党研究」第1回は「60秒動画 若者に『刺さる』 広報戦略 主戦場はネット」(12月17日)であった。

 しかし。

 情報発信の巧みさはよしとしても、現政権で目立つのは「堂々と議論しない」ことでもある。これすらも戦略だとするとどういう効果を生むか? 「答えない」という手法が日常になると、残るのはふわっとした民意へのアピールだけとなる。

 ここにこそ、政治に対する無関心が生まれると思う。そしてその無関心は政権側には最大の利益なのである。

「桜を見る会」にはここ数年のさまざまな論点が入っていた。公私混同、公選法抵触疑惑、公文書廃棄問題などキリがない。しかしほぼ説明せず、せっせと好感度営業。

 この巧妙な情報発信は大きな論点とみて、2020年もウオッチしていきたい。

(プチ鹿島)

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