開業まで3カ月、いま「高輪ゲートウェイ」駅周辺で何が起きているのか

文春オンライン / 2019年12月29日 6時0分

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工事中の高輪ゲートウェイ駅

 高輪ゲートウェイ駅の開業日が決まった。2020年3月14日。JR各社のダイヤ改正日に合わせた形だ。本格開業は周辺の開発に合わせて2024年度の予定だけれど、東京オリンピック・パラリンピックの開催前に暫定開業という目標は達成する。

 1980年代後半の噂から品川新駅設置の正式発表、駅名公募の騒動などもあった。いずれにしてもずいぶん先の話だと思っていたら、もう暫定開業まであと3カ月を切っている。

写真を撮る人をよく見かけるという

 12月某日の夕方、建設中の高輪ゲートウェイ駅周辺を歩いた。国道から工事現場のフェンス越しに駅舎が見える。白い屋根、ガラス張りの奥でいくつもの照明が灯っていた。内装工事も大詰めだろう。

 この国道は旧東海道で、行き交うクルマたちは先を急いで走り去る。しかし歩道はこの付近に住む人、働く人が歩く。彼らにとっては我が町に駅ができるわけだ。駅舎の形が見えてくると期待も大きくなるだろう。工事現場の警備員さんに話しかけたら、その場所から写真を撮る人をよく見かけるという。

 新駅開業の3カ月前だ。周辺は盛り上がっているに違いない、とネタを探しに来てみたけれど、意外にも静かで開業ムードはなかった。品川駅の高輪口から田町方面へ歩いてみると、今までと変わらぬ風景が続く。駅前のパチンコ屋があり、雑居ビル群が続く。線路側は京急第○ビルという建物が多い。まずは京急第10ビル。まだ動きはないけれど、将来は取り壊されて、ここに京急品川駅が作られる。

北品川駅から品川駅までの高架事業が行われる

 京急品川駅は、現在の高架駅から地上駅に建て替えられる。品川駅西口駅前広場を整備する計画があり、JRの階上駅コンコースを駅前広場まで延伸し、ペデストリアンデッキを作るためだ。京急電鉄は同時に北品川駅から品川駅までの高架事業を進め、交通量が多く、開かずの踏切となっている八ツ山橋踏切などを立体交差にする。北品川駅を高架化して、品川駅を地上に降ろす。そのために長い勾配が必要となり、品川駅は北へ移動する。

 さらに北へ歩いて行く。線路側の変化は、品川バスターミナルを通り過ぎたあたりから。ビルが取り壊されて工事現場になった敷地が目立ってくる。

 品川バスターミナルは、京急バスの高速路線バス用として1989年に開設された。主に京急バスと共同運行するバスが発着している。かつては東京・新宿・池袋に次ぐバスの拠点だったけれど、東京駅グランルーフや鍛冶橋駐車場、バスタ新宿などの整備によって長距離バスの廃止、転出が続いている。

 品川駅から徒歩だと約500メートル。他の停留所よりちょっと不便という印象だ。今後についての発表はないけれど、京急品川駅リニューアルで駅近くに移転するか、高輪ゲートウェイ駅に隣接したバスターミナルが作られるか。

 JR東日本が2018年9月に発表した「品川開発プロジェクト(第1期)に係る都市計画について」によると、高輪ゲートウェイ駅の正面に交通広場が作られる。ただし地域路線バスとタクシー乗場のみ。長距離バス利用者に向けた設備はなさそうだ。

田町~品川間の広大な鉄道車両基地が「もったいない」

 そもそも、高輪ゲートウェイ駅がなぜ作られたかといえば、田町~品川間の広大な鉄道車両基地が「もったいない」からだった。東海道本線の始発駅、東京駅のそばに車両基地があれば都合がいい。しかし、都心の一等地を電車置き場にしていいのか。国鉄が分割民営化され、汐留貨物駅が移転して跡地の再開発が決まった。田町の車両基地も同様に、電車の車庫を移動すれば広大な開発用地が生まれる。駅も作られるに違いない。

 こうして、東海道線の上下線の間にあった車庫を縮小し、東海道線上り線路を移転。高輪ゲートエーウェイ駅の敷地を確保し、建設工事の進捗に合わせて京浜東北線の南行き線路を切り替えた。次に、11月16日から17日にかけて、山手線と京浜東北線の北行き線路を高輪ゲートエーウェイ駅経由に切り替えた。いままで使っていた古い線路を撤去すると、広大な敷地が生まれた。ここに新しい街「グローバルゲートウェイ品川」ができる。

「グローバルゲートウェイ品川」は、田町側駅側から品川駅側まで6つの区域が設定されて、第1期開発は田町駅寄りの第1街区から、高輪ゲートウェイ駅前の第4街区まで。第1街区は45階建ての高層マンション1棟、第2街区は地上6階にとどめて文化創造施設、第3街区は31階建てのオフィスビル1棟、第4街区は都市の中心として、オフィス、ショップ、ホテル、コンベンションホールなどを含む30階建ての複合ビルが2棟。4区域合わせて、自動車駐車場4580台、自動二輪駐車場230台、自転車駐輪場6290台の規模だ。しかし、いまはまだ線路が撤去されたばかりの更地だ。そのおかげで国道側から高輪ゲートウェイ駅が見渡せる。

「グローバルゲートウェイ品川」の対象区域に隣接する場所も再開発の対象となる。その「周辺再開発区域」の象徴的な建物が旧京急本社ビルだ。京急電鉄は品川再開発を機に、グループ会社含む11社が横浜のみなとみらい21中央地区に順次移転した。

変化が少ない理由は泉岳寺エリアだから

 この旧京急本社ビルの北側、泉岳寺駅に隣接するビル群一帯は泉岳寺駅前地区再開発用地に指定されている。この中には厨房機器で有名なホシザキ高輪ビルがあり、電車がよく見える会社として、テレビ番組「タモリ倶楽部」でも紹介されていた。このビルは平成10年に竣工し、まだ20年ほどしか経っていないけれど、ホシザキの本社機能は2019年5月に大崎ガーデンタワーへ移転済みだ。

 国道の東側は古いビルが残り、あるいは取り壊し工事が進んでいる。対照的に、国道の西側はほとんど変化がない。それも道理で、もともと泉岳寺駅の周辺エリアとして開発が落ち着いた地域である。JRの駅ができれば便利だけど、もともと泉岳寺駅前として便利だったところで、いまさら盛り上がろうという機運はなさそう。国道沿いの商店も少ない。目立つ建物と言えば、2015年に開業したアパホテル品川泉岳寺駅前がある。高輪ゲートウェイ駅開業を見越した出店だろう。

 ちなみに、国道から工事現場越しの高輪ゲートウェイ駅の夜景がいい。駅舎の向こうにレインボーブリッジがあり、並んで見える。令和を象徴するような景色だと思うけれども、開発が完了したら、この景色を見る場所が残っているだろうか。

「ちょうちんごろし」は消えても道は残る

 泉岳寺駅の北にタクシードライバーのあいだで「ちょうちんごろし」として有名な地下通路がある。正式名称は、東京都港区区道241号線の一部「高輪橋架道橋下区道」だ。JRの線路をくぐり抜ける道路で、高輪側から芝浦側へ一方通行の車道、そして歩道が作られている。「ちょうちんごろし」の由来は地上高が低いから。最低地上高1.5メートル。セダンタイプの乗用車は通れるけれども、タクシーの屋根上にある社名表示灯、通称「提灯」が当たって壊れてしまう。だから「ちょうちんごろし(提灯殺し)」だ。

 この道路は、品川開発プロジェクトにともなって閉鎖されるという噂もあった。しかし、JR東日本の資料によると「他事業で整備予定」となっている。区道だから港区が整備するようだ。整備するからには拡幅や高さ改良も実施されるだろう。道は残るが「ちょうちんごろし」の異名は過去のものになりそうだ。

 歩いてみると、自動車も歩行者も多い。歩行者は少し前屈み。自転車に乗った人は上半身を伏せるか、首をかしげつつ走っていく。区道の東側は浄水場と公園だけだと思っていたけれど、その北側にある芝浦橋を渡るとマンションやオフィスビルが建ち並ぶ。田町駅より泉岳寺駅の方が近い地域だ。

駅構内では掃除や案内にロボットを多用

 ちなみに、東京無線タクシーは東京タワータイプの提灯を載せているけれど、このエリアを通りそうなクルマには、東京タワーのてっぺんの尖った部分を省略した提灯を載せていた。いま通っていくクルマはどれも小型の提灯を乗せていた。最近導入が進んでいるトヨタ製「ジャパンタクシー」は通れないから、道路の改良が待たれる。

 なお、高輪ゲートウェイ駅の南側にも東西連絡の歩行者専用道路が作られるし、さらに南側には環状4号線延伸部が通る予定になっている。

 ここまで、駅周辺の開発工事のほかは期待を持たせる景色はなかった。JR東日本もそれを見越して、高輪ゲートウェイ駅そのものを盛り上げようとしている。たとえば駅構内は掃除や案内にロボットを多用し、デジタルサイネージを楽しく演出する。AIを活用した未来の駅をデモンストレーションして、その様子は3階のスターバックスから眺められる。駅前広場では開業から半年にわたって「Takanawa Gateway Fest」を開催し、アート、テクノロジー、食のイベントを開催する。

高輪ゲートウェイを冠した店ができていた

 しかし、いまのところは寂しい。そこでGoogle Mapで周辺を探してみると、ひとつだけ、駅名を付けた店を見つけた。「コル高輪ゲートウェイホステル カフェ&バー」だ。どんなところだろう。さっそく行ってみた。高輪2丁目交差点から、線路を背にして桂坂を上っていく。信号のある交差点を右折して、すぐ左折。閑静な住宅街。日が暮れて、ちょっと寂しい景色の中に、ほんのりと明るい店がある。

 地図にカフェ&バーと書いてあったから、今日の散歩の締めくくりに何か一杯、と思ったら「12月より3カ月間、カフェバーが冬眠に入ります」の貼り紙がある。残念だなあと、窓から覗き込むと誰かいる。図々しく扉を開けてお話を伺った。応対していただいた方は店長の間正観月(ましょう みづき)さん。

「品川新駅を見越して、2018年に『Koru Takanawa Hostel Cafe & Bar』として開業しました。駅名発表と同時に店名を変更して『Koru Takanawa Gateway Hostel Cafe & Bar』にしました。2月いっぱいまでゲストハウスのみ営業です。お客様の8割くらいは外国の方ですね。オーナーの意気込みがすごいので、ぜひ聞いてみてください」

日本でいちばん高輪ゲートウェイ駅に詳しい一般人

 後日、オーナーの南祐貴(みなみ ゆうき)氏のお話も伺えた。

 大手広告代理店に勤務時代、海外旅行の大自然とゲストハウスの出会いに感動し、脱サラして開業した。「Koru」はニュージーランド先住民のマオリ語で「シダの新芽」。民族が集まる目印だという。新駅開業を見越して物件探し。3年前に築30年以上の店舗物件を1億円以上で購入した。もと鰻屋の改造費用はクラウドファンディングで調達。シダの芽に仲間が集まるように、みんなで作った店だ。

「どんな駅名になろうとも、店名に駅名を入れると決めていました。だから一番先に『Takanawa Gateway』を名づけた店です。2024年に向けた開発についてもかなり調べて、ぼく達は日本でいちばん高輪ゲートウェイ駅に詳しい一般人だと自負しています。JR東日本の高輪ゲートウェイ駅スタッフの皆さんとも仲良しで、お店に飲みに来てくれますよ」

 高輪ゲートウェイ駅の開業は3月14日に決まった。

「僕らの勝負の1週間だと思っています。3月1日から冬眠明けのCafe & Barを再開しますよ」

 新駅開業にしては周辺の盛り上がりに欠けると思っていたけれど、元気な活動が始まっていた。開業まで、そして開業してから。「泉岳寺駅前」は「高輪ゲートウェイ駅前」へ、少しずつ若いパワーが芽生えていくのかもしれない。

写真=杉山秀樹/文藝春秋

(杉山 淳一)

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