元徴用工問題「現金化」はどうなる? 文大統領「新年の辞」4つのキーワードが示唆すること

文春オンライン / 2020年1月10日 11時0分

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ソウルの韓国大統領府で新年の辞を発表する文在寅大統領 ©時事通信社

 1月7日、「新年の辞」を発表した文在寅大統領は終始、硬い表情だった。内容の3分の2は国内の経済分野について言及し、その後、外交分野では南北関係が半分、続いて米中日露の順で駆け抜けるようにそれぞれわずかに触れた。中道系記者が言う。

「4月の総選挙をにらんで国内で不満が高まっている経済分野に時間を割いた格好でしたが、今年、外交分野においてはさらに厳しい局面が予想されていて、文大統領は内心、暗澹たる気持ちだったのではないでしょうか」

 厳しい局面とは果たして?

 2020年、外交分野から韓国を読み解くキーワードを拾った。

徴用工問題の行方はいまだ不透明

 まず、「新年の辞」で「協力関係をさらに未来志向的に高める」とした日本には、「輸出規制」の解除を求めると話した。徴用工問題については言及がなかったが、「韓日関係は『輸出規制解除』の通商と『徴用工問題』の外交の2つの当局間協議が最大課題」(前出記者)といわれ、なかでも今もっとも懸念されているのは、被告となっている日本企業の韓国内資産の「現金化」だ。早ければ今春にも現金化されるという見方もあり、その前に解決へ向けての動きが出てきているのは周知のとおり。

 昨秋にわかに浮上した「文喜相国会議長案」(「1+1+α(日韓企業+日韓の個人募金)」)は昨年12月に韓国国会で発議され、現在は所管の行政安全委員会にて審理待ちだ。今期国会で立法化までこぎ着けられるかどうかが焦点となるが、「道は険しい」と言うのは前出の記者だ。

「294人いる国会議員の中で発議者に名を連ねたのは文国会議長を含めたわずか14名でした。今年の4月に行われる総選挙への影響を怖れてみな及び腰。今期国会では案件が山積みですし、正直その中での議長案の優先度は低い。総選挙の政局絡みで今国会で可決されなければ、そのまま自動破棄となる可能性は否定できません」

 そもそも、12月の日韓首脳会談を見ても分かるとおり、日本に謝罪と賠償を求め、原告となっている被害者の同意なくしては協議を進めないという「被害者ファースト」と「司法の判断尊重」を強調する文大統領と「韓国の責任」とする安倍首相の間に妥協点はみられない。

 さらに、文議長案に反対を表明していた被害者を支援する弁護団は1月6日、日韓同時に記者会見を行い、徴用工問題を考える「日韓両国の協議体の創設」を提案した。協同体には日韓双方の弁護士、被害者を支援する市民団体をはじめ、学者、政治家なども参加して解決に向けて話し合いを行っていくというものだ。

 しかし、その被害者側も、弁護士や市民団体が支援する側と被害者家族などで構成される側で対立中。両者間で話し合いが持たれるのかどうかは未定だ。また、前出の日韓両国の協議体の創設」案については、「外交当局間の協議を無視した形で非現実的」(前出記者)という見方もある。

 日韓、さらに韓国内でも複雑に絡まっていて、解決への「神業」は見当たらない。

ロシアとのINFを破棄した米国の真の狙いとは

 そして、昨年からちらりちらりと顔をのぞかせ始めているのが、米国による「中距離ミサイルの配置問題」だ。別の中道系紙記者が言う。

「日本が韓国をホワイト国(輸出優遇国)から除外するとした8月初め、米国はロシアと結んでいた中距離核戦力全廃条約(INF)を破棄しました。これは、米ロで核弾頭を装着できる中距離弾道ミサイルなどを破棄する軍縮条約ですが、米国は表向きにはロシアの違反を理由に破棄した。しかし、実際は米国が条約に縛られている間に中距離ミサイルなどの開発や配備を進めている中国を牽制したことは明らかです。

 この翌日にはエスパー国防長官が中距離ミサイルをアジアに配置することをほのめかした。今年に入ってから北朝鮮が新たな戦略武器に言及すると、米国の専門家らは中距離ミサイルを韓国へ配置することを再度持ち出しています。

 米国から提案された従来の5倍ほどといわれる駐韓米軍の防衛費の負担を軽減する代わりに配置案が出ているという話が昨年暮れ頃から出回っていて、この話が本格化すれば世論が紛糾するのは必至です」

 米国のアジアへの中距離ミサイル配置は北東アジアの安保に大きな変化をもたらすことになり、日本にとっても他人事ではない。

「中距離ミサイルの配置問題」で韓国はまたも米中との板挟みに

 韓国では、朴槿恵前大統領時代の2016年7月、北朝鮮のミサイル防御を目的とした高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国内での配置が正式に発表されると、韓国世論は猛反発。揉めに揉めたが、現在、レーダー1個、発射台6基が韓国南部の慶尚北道星州に配置されている。

 THAAD配置により影響を受けたのは国内世論だけではない。一気に冷え込んだのが中国との関係だった。

 その中国とは、今年上半期に習近平国家主席の訪韓が調整中といわれ、韓国にかけられた「限韓令」が解かれるか否かに関心が注がれている。前出・中道系記者の話。

「昨年12月23日、中国・成都で開かれた韓中日首脳会談で、習国家主席と首脳会談を行った文大統領は中国との関係改善に意欲を示しました。

 THAAD配置当時、中国では韓国製品の不買運動が起き、中国に進出していたロッテマートの多くは営業停止から閉鎖に追い込まれました。『限韓令』では中国からの団体旅行が制限され、韓流コンテンツが中国国内から閉め出された。K-POPなどの芸能人の中国での活動(コンサートなど)はビザ発給が制限されて不可能となり、韓国産ゲーム販売権も停止。韓国のコンテンツの放送なども中止されたままです。

 これが解かれるのではないかという希望的観測が出ていますが、米国の中距離ミサイル配置が公に議論されれば、韓国はまた米中との板挟みとなる」

米朝関係に関する一歩踏み込んだ発言も

 その中国は昨年12月、ロシアと共に北朝鮮に科せられている経済制裁の一部の解除を求める決議案を国連安全保障理事会に提出しており、韓国でも与党議員60人あまりがこれを支持する共同声明を発表。文大統領も対北制裁の一部解除を公言しているが、「新年の辞」で注目されたのは「金正恩朝鮮労働党委員長の訪韓」に再度、触れたことだ。

 米朝間では昨年6月のトランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長のサプライズ対談から動きはなく、北朝鮮の金委員長は元旦の「新年の辞」で「新たな戦略兵器を目撃する」と表明。これに対し、5日、トランプ米大統領は同行した記者団に「彼が約束を破るとは思わないが、破るかもしれない」と話し、韓国でも不穏な兆候として報じられた。ソウルにいる身としては北朝鮮のICBMが再び発射実験される悪夢を思うとため息が出るが、日本でもまたサイレンが鳴る日が来るかもしれない。

 文大統領は「新年の辞」ではまた「米朝対話の膠着の中で南北協力をいっそう増進させていく現実的な方案を模索する必要性がさらに切実になった」と一歩踏み込んだ発言もしている。「任期が2年あまりとなり時間がなくなっている今、総選挙で与党が勝利すれば対北政策において米国の頭越しに韓国独自で動く道を探ることを示唆している」(別の記者)という見方も出ている。 

 今年は2000年6月に初めて南北首脳会談を行ってから20周年。何かしらの動きがあるかもしれない。

(菅野 朋子)

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