「カジノはシノギになる」と幹部は不敵な笑み “経済ヤクザ”高山が仕切る山口組「次の一手」

文春オンライン / 2020年1月27日 6時0分

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山口組弘道会傘下の組事務所に入る高山清司若頭(左端) ©時事通信社

“武闘派ヤクザ”高山若頭の支配力――山口組が大きく揺れ始めた「2007年のある殺人事件」とは? から続く

 国内最大の指定暴力団「6代目山口組」の機関紙「山口組新報」の2019年12月1日号は、「高山若頭 社会復帰を祝う」との見出しの記事を1面に掲載した。

 高山とは、5年以上にわたり恐喝事件で服役していた山口組ナンバー2の若頭、高山清司のことだ。本文記事の書き出しは、「若頭長い御務め御苦労さんでした。お帰りなさい」と出所について山口組をあげての祝意が表されている。

 山口組は高山が服役中の2015年8月に、「山健組」など傘下の一部有力グループが離脱し「神戸山口組」を結成、分裂が明らかになった。それ以降は拳銃を使った殺人事件や事務所への車両の突入など対立抗争事件が約120件発生、9人が死亡している。高山が2019年10月18日、刑期満了で出所すると各地で神戸山口組との間で対立抗争事件が続発、さらに凶悪化している。

「山口組新報」では、高山の出所を慶事としている一方、名指しはしていないが、「(高山の)不在を狙って修行の厳しさに音を上げた不心得者らが逆縁、謀反を企てた」と神戸山口組を批判。勝利宣言とも受け止められるような「正道から外れた者達の自滅は明白となった」との記述もある。今後の山口組としては、「驕ることなく終わりなき侠道を親分、若頭と共に邁進していこうではないか」と記事を締めくくっている。

 高山の出所で勢いが加速している山口組だが、暴力団業界全体をみれば、相次ぐ法規制や警察当局の取り締まり強化などで全国的に縮小傾向にあるのが実情だ。

 近年の暴力団に対する法規制で大きな効力を発揮しているのは、東京都と沖縄県で施行されたことで2011年10月までに全国の自治体で整備された「暴力団排除条例」だ。

 暴力団対策法(1992年3月施行)は暴力団側を規制する法律だったが、暴排条例は一般市民に暴力団への利益供与が禁じられた点での影響は大きく、条例施行以降は全国の暴力団の減少傾向に拍車がかかっている。

「刑務所を出たら風景が変わっていた」

「お務め(刑務所)に長期間にわたり行っていて久々に出てきたら、環境が大きく変わって驚いた。目に映る街の景色、風景まで変わってしまったようだ」

 対立抗争事件で逮捕され、10年近くの刑期を終えた指定暴力団住吉会系幹部が刑務所を出所したのは、暴排条例施行後のことだった。事件を引き起こす前にシノギ(資金獲得活動)で付き合いのあった一般市民のほとんどが「今後の付き合いを絶ちたい」と申し入れてきたという。

 暴対法は繁華街などの飲食店などから、みかじめ料(用心棒代)を徴収することを禁じるなど、主に暴力団側の活動を規制する内容となっている。対して暴排条例は、一般市民や企業などが暴力団との交際や資金提供、暴力団が開く会合などでの会場提供など様々な利益供与を禁じることが規定されている。

 違反した場合は各県の公安委員会が勧告を出すほか、悪質なケースには中止命令を出す。場合によっては、個人名や企業名が公表されることもある。暴力団との交際が公表されれば、事業者の場合はマーケットから締め出されることとなり死活問題だ。

 さらに警察当局は社会全体での暴排を進めようと、銀行などの金融機関で新規に口座を開設する際に、顧客との間で「暴力団などの反社会的勢力には属していない」ことを誓約する約款を交わすことを求める対策を進めた。

 この結果、多くの暴力団構成員は新たに銀行口座を開設できず、約款に違反した場合は、金銭的な価値は数百円程度のプラスチック製のキャッシュカードと通帳を銀行からだまし取ったとする詐欺容疑で逮捕されるケースも続発した。

 前出の長期間服役していた住吉会系幹部も、「刑務所から出てきたら、銀行口座すら作れず、これも驚いた。古くなったキャッシュカードを交換してくれるかどうかわからず、自分名義で維持していた銀行口座のカードを大切に使い続けている」と環境の様変わりの実情を語った。

最大のタブー「上納金」に捜査のメスが

 暴排条例が全国で施行される先駆けとなったのは、福岡県だった。山口組が分裂して神戸山口組が結成されたのと同様に、福岡県内では2006年、指定暴力団道仁会で内部対立が起きて一部のグループが離脱し九州誠道会(現・浪川会)を結成。対立の構図が鮮明となった。

 その後は福岡、佐賀、長崎、熊本の九州4県で対立抗争事件が相次ぎ双方の幹部が銃撃されるなど40件以上の事件が発生、14人が死亡した。相次ぐ事件の過程で、2007年には佐賀県の病院で一般市民が九州誠道会の関係者と間違われて射殺されてしまう許しがたい事件も発生した。

 九州北部では一般市民をも巻き込んだ発砲事件が相次いだため暴力団排除の住民運動が盛り上がり、福岡県で2010年4月、暴排条例が全国に先駆けて施行された。

 暴力団排除の決め手として大きな期待が寄せられた暴排条例だったが、当初は暴力団側の強い反発が一般市民へと向けられ、被害は大きかった。北九州市を中心に九州北部に広く勢力を持つ指定暴力団工藤会構成員らによって、用心棒代などの支払いを拒否した飲食店経営者らへの襲撃事件が続発。一般市民へも容赦なく暴力の牙をむく凶暴さがむき出しになった。

 繁華街のスナック経営の女性を切りつける傷害事件や店舗の放火事件、さらに多くの飲食店には「次はお前だ」などと脅迫電話が相次いだ。福岡県公安委員会などは工藤会について、用心棒代などを要求すれば、中止命令を経ずに直ちに逮捕できる「特定危険指定暴力団」に指定。現在も指定は延長されている。

 工藤会については、元漁協組合長射殺(1998年)、建設会社会長射殺(2011年)、福岡県警元捜査員銃撃(12年)など、数々の凶悪事件を引き起こしたとして、総裁の野村悟らが相次いで逮捕された。捜査の過程で、上納金をめぐって野村の脱税も発覚。約3憶2000万円を脱税していたとして、所得税法違反(脱税)容疑でも逮捕された。

 暴力団最大のタブーとも言うべき上納金(会費)について、暴力団トップに捜査のメスが入ったのは異例中の異例だった。

「辞めてカタギに」激減する暴力団員

 警察庁の記録によると、1963(昭和38)年には全国の暴力団構成員は約10万2600人が確認されていた。準構成員などの周辺者は約8万1500人。合わせると約18万人に上っていた。

 しかし、その後の相次ぐ取り締まりなどで暴力団構成員は減少し、60年代後半には8万人台。70年代には5万人台へと減少。昭和の終わりの1980年代後半にはバブル景気の恩恵もあり、6万人台へと増加したが、平成に入ると1992年に暴対法が施行された影響で6万人を切った。全国で暴排条例が施行された2011年は約3万2700人だったが、最新データとなる2018年は約1万5600人にまで減少している。

 巨大組織、山口組も例外ではない。分裂前年の2014年には山口組だけで約1万300人とされたが、翌15年には山口組は約6000人、神戸山口組が約2800人で、双方合わせた元々の山口組系と捉えると約8800人となり1万人を割った。

 山口組は16年には5200人、17年4700人、最新データの18年は4400人。同年の神戸山口組は1700人となっている。分裂による減少を差し引いても全体数が縮小しているのは間違いない。山口組幹部は、「辞めてカタギになった者も非常に多い」と実情を話す。

「カジノはシノギになる」

 ともあれ、山口組にとって2019年は10月に高山出所という“慶事”があり、年末を迎えた。ところが、2020年は新たな試練が待ち構えている。

 警察当局は、ある山口組最高幹部について詐欺容疑の逮捕に向けて着々と捜査を進めているのだ。その詐欺事件に関与していた山口組系の組員数人をすでに逮捕しており、中には巨額資金を管理している幹部もいて、カネの流れを追っているという。

 複数の警察庁幹部は、「分裂により多くの情報が漏れてくる。ひとつずつ地道に捜査して、最高幹部クラスを摘発して弱体化、さらには資金源を遮断して壊滅へと取り締まりを強化したい。分裂は警察にとってチャンスだ」と語気を強めた。

 しかし、それでも世の中の動きの先を読んで様々なシノギを見つけ出すのが暴力団、中でも経済ヤクザと称される人物たちだ。

 5代目山口組時代に若頭を務め、武闘派とともに経済ヤクザとしても知られた宅見勝は、「日経新聞を読んでいれば、シノギのヒントが見つかる」と常々、周囲に語っていたという。

 今後の大きな経済の動きとしては、オリンピックによる景気浮揚、その先は数年後のカジノが挙げられよう。2020年1月7日には政府にカジノ管理委員会が設立され、検察OBや元警視総監らが就任した。

 ある山口組幹部は、「反社会的勢力を徹底的に排除するという触れ込みで数年後にはカジノが始まる。しかし、カジノにはいくらでもシノギが転がっている。カジノはシノギになる」と不敵な笑みを見せた。

(敬称略)

(尾島 正洋/週刊文春デジタル)

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