なぜ人は「不倫」をやめられないのか、なぜ「芸能人の不倫」に関心が集まるのか?

文春オンライン / 2020年3月3日 21時0分

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 3人の子に恵まれ、「おしどり夫婦」で知られた“理想の旦那”の裏切りは、女性たちを怒らせた――。なぜ「不倫」はかくも我々日本人の心を揺さぶるのか。する阿呆に騒ぐ阿呆、そのまた報じる阿呆……。「週刊文春」で「男と女のちがい」を連載してきた橘玲氏が考察する。

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 東出昌大(32)、鈴木杏樹(50)の「不倫」が世間を騒がせている。東出はCMを降板し、お相手の唐田えりか(22)はドラマを降板するなど、大バッシングに晒されている。

「人はなぜ不倫するのか?」

「不倫した人が糾弾されるのはどうしてか?」

「男と女はどれくらいちがう?」について連載してきた橘玲氏に聞いてみた――。

「ひとはなぜ不倫するのか?」のもっともシンプルな説明は、「人間の本性が婚姻制度に合っていないから」でしょう。自然界の一夫一妻の例に挙げられるのはオシドリやプレイリーハタネズミで、近縁であるゴリラやチンパンジーは一夫多妻か乱婚ですから、わずか数百万年で人類が完全な一夫一妻に進化したと考えるのは無理があります。

 すべての生き物と同様にヒトも生存と生殖に最適化されており、そこから男女の性戦略が決まります。

 男にとっては、妻に子どもを育てさせながら、他の女とも子どもをつくれば、より多くの子孫を残すことができます。そんな男の見果てぬ夢がハーレムで、遺伝人類学では、モンゴルを中心に世界の1600万人が巨大なハーレムをつくったチンギス・ハンの「直系の子孫」だとされています。

 それに対して女は妊娠から出産まで9カ月かかり、生まれた赤ちゃんを手厚く世話しなければならないので、母子が生き延びるには男からの支援が不可欠です。そのため、浮気するような男をパートナーの選択から排除するように進化してきたはずです。

 男は本性として不倫しようとし、女は本性として不倫に不寛容なのです。

 近年の心理学は、パーソナリティのちがいが行動に大きな影響を与えることを明らかにしています。そのなかでも性経験(パートナーの数)を予測するもっとも強力な指標が「外向性」です。

 外向性というと「社交的」「明るい」などのイメージでしょうが、車にたとえるなら「エンジンの出力が大きい」ことです。外向的なひとは、異性の獲得だけでなく社会的・経済的な成功でも、強い欲望と、それを実現しようとする大きなモチベーションをもっています。

外向性スコアの高いひとたちが集まる政界と芸能界

 外向的か内向的かは、生理学的には「覚醒度」のちがいで説明できます。脳は一定の覚醒レベルを快適と感じるので、生得的に覚醒度が低いと、強い刺激によって覚醒度を上げようとします。逆に生得的に覚醒度が高いと、強い刺激を避けて覚醒度が上がらないようにします。わかりやすいのは“パーティ好きかどうか”で、大音量のダンスミュージック、賑やかな空間、たくさんのひとから話しかけられる機会を好むのは外向性が高いタイプで、恋愛にも積極的です。

 外向性スコアの高いひとたちが集まる場所の典型が政界と芸能界です。“政界失楽園”は一部の例外ではなく、そこらじゅうで起きているはずです。それに加えて芸能界は、魅力的な男女を狭い空間に押し込めるというきわめて特殊な環境です。そう考えれば、不倫が問題なのではなく、「なぜ不倫しないのか」の方が不思議です。

 その理由は、ヒトにはエンジンだけでなくブレーキも備わっているからです。これが「堅実性」で、一般には「自己コントロール力」と呼ばれる“社会的なブレーキ”です。

 知識社会において、知能(IQ)と並んで重要とされるのが自己コントロール力です。5教科7科目以上の大量の勉強を強いられる難関国立大学の試験は、知能と同時に堅実性の高い人材を選別するシステムに他なりません。

 堅実性スコアが低いと「女/男にだらしない」のですが、同時に時間や約束を守るとか、決められたことをちゃんとやるとかができなくなります。これではたちまち、きびしい芸能界から放り出されてしまうでしょう。大量の台本を覚え、ドラマにバラエティにと過密スケジュールをこなす「成功した芸能人」が高い自己コントロール力をもっていることは間違いありません。

 現代社会で成功する(人気者になる)条件は、高い外向性と高い堅実性です。出力の大きなエンジンだけでブレーキがなければ、芸能界はたちまち酒池肉林の乱交状態になるでしょう。

 でもこれは、芸能人がみんな道徳的ということではありません。堅実性は多くの場合、「面倒な相手とは恋愛しない」とか、「バレないように遊ぶ」とかに使われるでしょうから。

 男女の性愛の研究では、女は「性的な浮気」より「感情的な浮気」にきびしく、男は逆に「感情的な浮気」は気にしなくても「性的な浮気」は許せないことがわかっています。

不倫に怒っている男たちがたくさんいる理由

 男にとって最大のリスクは、女の浮気によって他の男の子どもを知らずに育てさせられることです。それに対して、子育てに男の支援を必要とする環境では、女にとっての最大の脅威は、パートナーの男が他の女と深い関係になって、自分と子どもへの援助を断ち切ることです。今回の不倫騒動でも、一度きりの「性的な浮気」ではなく、「無垢な若い女に心を奪われた」ように見えたことが、世の女性たちの怒りの火に油を注いだのではないでしょうか。

 それより興味深いのは、不倫に怒っている男たちがたくさんいることです。そもそも不倫は男の「本性」のはずなのに……。

 その理由を私は、自由恋愛によって男の「モテ」と「非モテ」の格差が拡大しているからだと考えています。生殖機能のちがいから、男は「競争する性」、女は「選択する性」として進化してきました。「非モテ」とは、端的にいうなら「異性獲得競争の“敗者”」のことですが、その怒りはなぜか、複数の女と恋愛する「モテ」の男ではなく、「自分を選択しなかった」女に向かうのです。これがミソジニー(女性嫌悪)で、日本だけでなく世界じゅうで同じような現象が起きています。

芸能人の不倫になぜ多くの人が関心を寄せるのか

「芸能人の不倫になぜ多くの人が関心を寄せるのか」ですか? それはヒトがゴシップに夢中になるように進化してきたからでしょう。

 徹底的に社会的な動物であるヒトにとって、共同体から排除されることは死を意味しました。男にとっても女にとっても、「自分はどう思われているか」「相手はなにを考えているか」を知ることは文字どおり死活問題だったのです。

 そのときもっとも有益なのがゴシップで、狩猟採集時代の人類は150人ほどの集団で、ずっと噂話をして過ごしていたはずです。この集団内の権謀術数によって脳が巨大化し、極端なまでに知能が発達したというのが、現代の進化論の標準的な考え方です。

 さらに女にとっては、つねに「男の暴力」が大きな脅威でしたから、関心のある男についてのゴシップの交換(恋バナ)は重要な役割を果たしたはずです。こうして、女性の方がコミュ力(言語的知能)が高くなったと考えられています。

 ヒトの脳は旧石器時代につくられ、現代までほとんど変わっていません。私たちにとっての「世界」は、いまだに150人程度の集団なのです。

芸能人を“身近な知り合い”と思い込んでしまう

 その結果ひとびとは、自分とはなんの関係もない芸能人の情報に日常的に接するうちに、いつの間にか「身近な知り合いや隣人(杏ちゃんのだんなさん)」だと思い込んでしまいます。芸能人はその“勘違い”を利用して人気を獲得しますが、その代償として時に激しいバッシング(杏ちゃんがかわいそう)を受けることになるのです。

 それに加えて脳科学では、ルールに違反した相手を罰することで脳の快感中枢が刺激され、神経伝達物質のドーパミンが放出されることがわかっています。ドラッグやアルコールへの依存と同様に、私たちはみんな「正義依存症」なのです。「週刊文春」が売れるのも、“正義は最大の娯楽”であり、“不倫報道は最上のエンタメ”だからですね。

 その一方で、身近な不倫に私たちは寛容です。友だちから不倫を打ち明けられて、「バレたら大変だからやめなよ」と忠告することはあっても、「不道徳だ」と非難するひとはいないでしょう。私たちは、ヒトが不倫する生き物であることを本音では受け入れています。

 世界がゆたかで平和になり、ひとびとがますます自由になると、これまで社会的・文化的に抑圧されてきた人間の本性が前面に出てくるようになります。同時に、経済的に自立した女性が増えれば、子育てにおいて男の支援は不可欠ではなくなるでしょう。

「愛は4年で終わる」といった女性人類学者のヘレン・フィッシャーは、浮気したい男だけでなく、女にとってもその方が都合がいいと述べています。なぜなら、遺伝的によく似た子どもを産みつづけるのはリスキーだから。

 人類はずっと病原菌の脅威にさらされてきましたが、医学のない時代には、子どもを感染から守るもっとも効果的な方法は「遺伝的多様性」を増やすことでした。だとすれば、“純愛”は子育てに必要な3〜4年でじゅうぶんで、それが終われば別の男とつき合って、遺伝的に異なる子どもをつくるように女は進化してきたはずだ、というのです。

 これが「ヒトの本性」だとすると、「事実婚」が主流になり、子どものいる男女がパートナーになって新しい子どもを産むことも珍しくなくなったフランスのような社会へと、人類は向かっているのではないでしょうか?

(橘 玲/週刊文春 2020年2月20日号)

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