コロナ感染の「新天地イエス教」からハーレム教団まで 韓国で“密室誘惑のカルト”が生まれる理由

文春オンライン / 2020年3月3日 6時0分

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「新天地イエス教」の行事の一幕(教団の公式YouTubeチャンネルより)

 韓国でも感染者が急増している新型コロナウイルス。感染者数は4000人を突破している(3月2日午前0時時点)。この韓国での感染拡大のきっかけとなったのが、新興宗教団体「新天地イエス教証しの幕屋聖殿」(以下「新天地」)だ。

「新天地」をめぐっては、他のキリスト教団体に潜入して乗っ取りを狙う布教活動や、「刈り入れ屋」と呼ばれる“スパイ”の存在など、秘密主義的な活動が報じられている。

 合同結婚式で有名な「統一教会」、“セックス教団”として話題になった「摂理」など、どうして韓国ではカルト的な新興宗教が次々に生まれるのか。京都府立大学准教授で日韓近代宗教史が専門の川瀬貴也氏(48)に聞いた。

「新天地」とは何者か?

――いま問題になっている「新天地」とは、どういう団体なのでしょうか?

 1984年に李萬煕(イ・マンヒ)氏によって始められたキリスト教系の新興宗教です。韓国のキリスト教系の団体の中でも、“異端”という意味では、いまや「統一教会」に替わって代表格と目されている存在です。規模については、今回の新型コロナウイルス対策のために、韓国政府に約21万人分の信者名簿を提出したと報じられています。

「新興」とはいっても、その教義はむしろ韓国キリスト教系の新興宗教では「伝統的」なものです。一言でいえば、「この世は悪に満ちていて、正しい信仰を持っている私たちだけが生き残ることができる」という考え方です。

他教会の信者をスパイ的に抱き込む「秘密の布教」

――韓国社会のなかでは、どのような存在だったのですか?

 今回のコロナ問題が明るみに出るまで、彼らは非常に見えづらい存在でした。なぜかといえば、彼らが「秘密主義」だったからです。

 たとえば、「新天地」の信者たちは“スパイ”として他のキリスト教の教会に潜入し、その教会の信者の抱き込みを狙って活動していました。他教会の内側から信者を「新天地」の信者に変えていくのです。正統派のキリスト教徒にとってみれば、本来の信仰を妨げて誘惑してくる存在なのです。

 外部の人を勧誘する場合も、彼らはいきなり自分たちの教会では布教しません。教団が作った喫茶店やビルの一室など、「アジト」的な関連施設で布教をして、勧誘を受けた人自身が「新天地」から勧誘を受けていることに気がつかないように工夫されている。気づいたら「新天地」の信者に囲まれて自分も信者になっていたという場合が多い。

 このような布教方法は、「統一教会」をはじめとした韓国のキリスト教系新興宗教でこれまでも見られた方法です。「新天地」は急に出てきた存在ではなく、韓国では「ベタな」一派ともいえます。

“セックス教団”もプロテスタントから

――なぜ韓国では日本でも知られるような新興宗教が次々生まれるのでしょうか。

 まずキリスト教がとても根付いていて、キリスト教の分派が生まれやすい社会であることが挙げられます。韓国の統計庁がまとめた2015年時点の調査では、「信仰する宗教がある」と答えたのは43.9%。内訳は15.5%が仏教、19.7%がプロテスタント、7.9%がカトリックでした。つまり韓国社会の27.6%、約3割がキリスト教徒です。

 プロテスタントのなかには少なからず新興宗教的教団が含まれている。たとえば「統一教会」はキリスト教のプロテスタントから出てきましたし、教祖がハーレムを作るなど女性信者への性的暴行で逮捕され、日本でも2006年に“セックス教団”として一躍話題になった「摂理」も、その「統一教会」から分派した教団でした。

 なぜ韓国の新興宗教の多くがプロテスタント由来なのかと言えば、カトリックは教団が一枚岩なのに対し、プロテスタント系の教団ではカリスマ的な牧師が自分のシンパを引き連れて分派していく傾向にあるからです。大げさに言えば、韓国のプロテスタント系教団の場合、ちょっと仲間と喧嘩したらすぐ分裂してしまうようなところがある。

 今回問題になっている「新天地」も、プロテスタント系の新興宗教です。彼らの教義にはいわゆる「終末論」的な色彩が濃く、「世界の終わりが来たときには14万4000人だけが天国に行ける」と教えていますが、これはヨハネの黙示録の第7章第4節に「刻印を押された人々の数」が「十四万四千人」だったと書かれているのが原典だとされています。これは「神の刻印を押されるものの数」、すなわち終末に救済される人数を表すとされる数で、終末論を説く教派はよくこの数字を持ち出します。保守的な信仰をもつ人びとは、聖書に書いてあることは全て本当に起きることだと信じています。

病気が治る? お金持ちになる?

 もう一つ重要な点をいえば、韓国のプロテスタントの一部には「現世利益」が持ち込まれているのです。信仰で病気が治る、お金持ちになる、といったわかりやすい利益です。日本の新興宗教もそうした勧誘手法をとりますが、韓国ではキリスト教を自称する一派がそれをやってしまう。韓国では、「恩恵(ご利益)がないから」といって、多くの教会を渡り歩く人も少なくありません。

 そのように、韓国社会に根付いたキリスト教と「終末論」「現世利益」が結びついた結果が、さまざまなキリスト教系新興宗教団体の誕生なのです。

――中には過激化する団体はあるのでしょうか?

 私自身が実際に見た中で印象的なのは、韓国国内で90年代に物議を醸した“病気治し”で知られるプロテスタント系の「ハレルヤ祈祷院」です。足を引きずっていた人が教祖の祈祷を受けると急に走り始めたり、「神から病名が判る力」「癒やしの業」を授かったと称する教祖が病気をその場で治したりするという“宗教行為”をしたり……。

 実際に暴力的手段に出る団体もいます。「万民中央聖潔教会」という教団は、1999年に教祖についての暴露的なテレビ番組が放映予定と知り、その放送局に乱入して30分以上も放送をできなくさせたことがあります。病気治しや「奇跡」は新宗教の基本ですが、カリスマ的な教祖に率いられて過激化する団体も出ているのです。

文在寅大統領は「進歩派・カトリック」

――韓国では、神秘主義的な信仰が多い印象があります。

 韓国の場合、日本の支配下に置かれたという歴史的な背景が指摘できるでしょう。

 日本統治時代の韓国には、「日本の支配が早く終わって、最後の審判の日が来ないか」「早く天国に行ける日が来ないか」と考えている人が少なくなかった。独立運動に立ち上がるのではなく、「信仰心を持っている私たちだけを、神様が救い上げてくれないだろうか」と願う。極端に言えば、どこか「引きこもりっぽい」信仰ですが、支配されている人々に信仰される宗教としては、世界各地で見られる形です。

――今回、文在寅政権を支持する革新派からは、「『新天地』は朴槿恵政権時代から保守派と関係があった」との主張もありました。韓国の政治と宗教には、どのような関係があるのでしょうか。

 これも歴史的な背景から説明しなくてはなりません。かつて朝鮮半島のキリスト教の中心地は多くの教会がある平壌でしたが、朝鮮戦争が起こって、北側にいたクリスチャンが宗教的自由を求め南に逃げてきた。この経緯から韓国のキリスト教の基本的性格には「親米・反共」の信条がありました。

 中でも、アメリカ留学経験者が多かったプロテスタントは、同じくプロテスタントでアメリカ帰りの初代大統領、李承晩を支援するなど、保守勢力として大韓民国成立に大きく関わっていったのです。

宗教と政治思想がねじれている韓国

 一方で、カトリックはプロテスタントほどアメリカ留学経験者が多くなかったこともあり、当初から親米路線が弱かった。加えて、1962~65年の第二次ヴァチカン公会議でカトリックの総本山から世界各国のカトリック教徒に向けて、社会に対して積極的な姿勢をとって協調するようにという方針が出されると、韓国カトリック教会も人権など社会問題の解決や民主化路線の強化に舵を切りました。枢機卿や司教は、韓国の軍事政権への批判を続け、カトリックは韓国の民主化運動の一翼を担うようになります。韓国カトリック教会のシンボル・明洞聖堂は、金大中を一時かくまうなど民主化運動の中心地でした。

 このような戦後の流れの中で、大まかにいえば「保守派政治家はプロテスタント」、「進歩派政治家はカトリック」という形で密接な関係を築いていった。歴代の大統領も保守派の李承晩や李明博はプロテスタント。進歩派の金大中、盧武鉉、そして文在寅はカトリックです。普通、カトリックは保守的で、プロテスタントがリベラル、というイメージがあるかも知れませんが、韓国ではそれが当てはまりません。かつての韓国の独裁政権を支えてきたのも、保守的なプロテスタントでした。

 今回、進歩派が「『新天地』は保守派と関係があった」と主張するのには、前提として、そんな背景があるのです。あくまで「外国の宗教」としてキリスト教を受容している日本に比べ、韓国のキリスト教は政治や社会と広く関わり合って土着化しています。

「道徳的にかわいそうな日本人を救う使命がある」

――韓国の新興宗教は韓国国内に留まらず、日本を始め世界に進出しています。「新天地」も日本に支部を持っています。

 基本的に、布教には「よい教えを知っている我々が、まだ知らないかわいそうな人たちに教えてあげないといけない」という意識があり、それが世界各地の宗教がよその土地へ進出する際の原動力になっています。

 ただ、「統一教会」や「摂理」などの韓国の新興宗教の場合は、現実の政治的な日韓関係が影響している感は否めません。「日本から虐げられたぶん、道徳的に韓国は有利だ。キリスト教が弱く、道徳的にかわいそうな日本人を救う使命がある」という意識が、進出の原動力に加わっている側面はあると思います。

――日本の新興宗教とはどこが違うのでしょうか?

 日本に比べて、自分たちの考えを政治的に実現することを重視する傾向はあるでしょう。たとえば、いま韓国では憲法改正が議論される中で、同性婚を認めるかが争点の1つになっています。すると、反対する保守的なプロテスタントが、ソウル駅前で憲法改正に反対するビラを配ったり、LGBTのレインボーパレードにも突撃したり……。時には、道に寝っ転がって、「悔い改めよ! 同性愛は罪!」というプラカードを掲げてまでパレードを妨害しています。昨年10月の大規模な「反・文在寅デモ」の中心にも、保守系のプロテスタント団体の牧師が関わっていました。

政府は20万人超の信者に全数調査を宣言

――政治と宗教が密接なだけに、今回「新天地」が起こしたような社会問題は扱いが難しそうです。韓国の一部では、新型コロナウイルスをめぐって文在寅政権が行っている「新天地」への対応が批判されています。

 政権の対応自体に大きな問題があったとは思えません。「新天地」の秘密主義によって実態が隠されていたために、結果的に事態の把握が遅れてしまった。むしろ、政府が20万人を超える「新天地」信者に対する新型コロナウイルス感染者の全数調査を宣言し、現場で業務に当たって残業が続いていた43歳の男性公務員が亡くなったと報じられているように、過剰すぎる部分もある。ここまで極端な事態が起こる要因には、大統領の権限が大きいことに加え、毎週教会に出席するような韓国人の信仰熱心さがあるのです。

(「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル)

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