「どうしても辞めるなら損害を負担しろ!」理不尽な退職トラブルに終止符を打つ代行サービス

文春オンライン / 2020年3月9日 11時0分

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©扶桑社

「退職代行サービス」が会社を辞めたいと考える人の間で話題を呼んでいる。上司のパワハラや職場の環境、同僚とのミスマッチなど、職場を変える理由は人それぞれだ。しかしいざ退職を決意しても、自力で実行に移せない人も少なくないのだという。たとえみずから退職を申し出ても、上司に突っぱねられたり激しい嫌がらせを受けたりする可能性も考えられる。

 そんな悩める社会人に救いの手を差し伸べるのが、退職代行サービス。退職代行サービスでは、退職の過程で必要な連絡を代行業者が当事者の代わりに行ってくれる。基本的に当事者は会社と直接連絡を取る必要がなくなるため、退職代行サービスは「仕事を辞める」と言い出すことで生じる厄介ごとを肩代わりしてくれる、いわば「心の保険」ともいえるものだ。

 退職代行サービスを展開するONE-BYE合同会社代表・桐畑昴氏の著書『 明日から会社に行かなくていい 退職代行マニュアル 』(扶桑社)より一部を抜粋し、その利用者の実情を紹介する。

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脅して諦めさせる会社

「人手不足だから、退職するな。どうしても辞めるなら〇〇するからな!」と脅迫するパターンもあります。特に労働組合がない、あるいはあっても機能していないような小さな会社の場合は、労働者の権利に関する考えがとてもあいまいで、上司と部下の力関係が何より優先されます。完全に「ブラック企業」と認定できる会社で、辞めさせないためにはなんでもアリ。非道なことも平気で行います。

 脅しでよくあるのは、親を巻き込もうとするパターンです。会社を辞めることを親に知られたくない人の場合、その弱みにつけ込み「親に連絡するぞ!」と脅します。こうした場合、自分で無理やり辞めようとすると、本当に親に連絡することがありますので注意が必要です。

 また、親の理解をすでに得ている場合でも、実家に何度も電話をされたら迷惑をかけてしまうため、それを恐れて退職できない人もいます。

 実際にあった悪質なケースとしては、すでに絶縁関係にある親への連絡をちらつかせることで、退職を諦めさせようとした会社がありました。彼女は入社後に両親が離婚し、事情があって父親とは完全に関係を絶っていました。そのことを知っている上司が、「入社時の緊急連絡先に記載されているから、父親に連絡することになる」と脅してきたのです。

 こうしたケースのように、会社に弱みを握られて脅されることが多いのですが、そればかりではありません。

 よくあるのが、理不尽な損害賠償の請求です。「人手不足なのに勝手に会社を辞められると、会社が回らなくなる。損害を賠償しろ!」などと脅してくるわけです。

 人手不足によって経営が成り立たないのは経営能力の問題であって、従業員に責任はありません。実際に訴訟を起こしたとしても勝ち目はないので、単なる脅しにすぎないことがほとんどです。しかし、そのことを知らない従業員は、背負うかもしれない金銭的負担を考えて、退職を諦めてしまうのです。

Dさん(21歳・飲食)の場合

 とにかく、雰囲気が最悪のお店でした。店長と本部の課長が毎日のようにもめていて、怒鳴り声が聞こえてくる。なにかミスをしたとき、怒られるのは仕方がないとは思うのですが、必ず、見せしめのように外から見えるところで叱りつけ、侮蔑めいた言葉をぶつけられる。何より仕事とはまったく関係のない家族のことを持ち出されて責められるのは本当につらいものでした。

 また仕事中、急にくすぐってくるなどセクハラめいたこともたびたびありましたし、障がいのあるお客様を、閉店後、みんなで笑いものにしていたのも許せませんでした。

「辞めてやる!」と決意はしたものの、職場は慢性的に人手不足。半年前に辞めた先輩が、いまだにヘルプとして出勤させられている状態でした。先輩が何を理由に働かされているのかわかりませんが、店長はとにかく口がうまくて、丸め込んでくるタイプ。まともに辞めたいと言っても、絶対に聞いてはもらえない。先輩の二の舞になるのだけは勘弁!と思ったのです。

嫌がらせをして追い詰める会社

 脅迫以外の嫌がらせもあ ります。こちらも非常に悪質です。「人手不足なので辞めないでください」と丁寧にお願いするのならまだしも、嫌がらせを続けて退職を躊躇させるという最悪のパターンです。

 たとえば、退職を願い出た従業員Eさんと仲のよかった同僚に、EさんとのLINEのやりとりを見せるよう、上司が強要したというケースがありました。Eさんが退職に関してどう考えているのかを調べようとしたのでしょう。直接的な引きとめではありませんが、Eさんにしてみたら、会社に残る同僚にいろいろなかたちで迷惑がかかるかもしれないと心配になります。結果、Eさんはなかなか辞めることができませんでした。

毎日毎日「どこに行っても通用しない」と言われ続け

 嫌がらせを受けたとしても、本人が心折れることなく「辞める」という意思を持ち続け、根気強く面談の機会を要求し続ければ、最終的には退職が決まることもあります。

 しかし、正式に退職日が決まったとしても、最終出社日までの間、いじめやハラスメントを繰り返すような職場もあります。業務の引き継ぎがありますから、それまでやってきた仕事以外の作業が生じるのは当然です。しかし、退職が決まったとたん、上司の態度が冷たくなり、適当な理由をつけてまったく意味のない雑用ばかりをさせたり、実質的に、就業時間中、ただ立ち続けていることを命じたり。

 毎日毎日、「お前のような人間はどこに行っても通用しない」などと言われ続け、耐えきれずに退職代行を使って、退職日を早めた人もいました。また、「辞めるんだったら、お前が代わりを探してこい。できないなら、損害を負担しろ」と要求された人もいました。

退職代行は「心の保険」

 最終的に、そんな会社から逃げられたとしても、受けた心の傷は一生残ります。退職代行を利用すると、会社とのやりとりは原則、郵送になります。直接会うことは基本的にはありませんので、こうした嫌がらせから逃れることができます。退職代行には心のダメージを回避する保険的な側面もあるのです。

 こうした嫌がらせをするような会社では、普段から従業員が上司の言動に怯えて萎縮してしまっています。恐怖で支配されているようなもので、簡単に言いなりになってしまうため、法的に認められている権利もなかなか行使できません。

 男性上司のセクハラが原因で、うつ病になってしまった女性が、退職するために診断書を提出したところ、「そんな紙切れどうでもいいから、破り捨てて、早く仕事をしなさい」と当の上司に言われたということもありました。

 退職代行をしていて実感するのは、労働基準法を守っていない会社ほど、従業員に高圧的な態度をとる傾向があるということです。サービス残業の多さを理由に仕事を辞めようとしたら、「責任感はないのか?」と上司に追い詰められるというのはよくある話ですが、「雇用者の責任を果たしていないくせに、労働者にそれを求めるの?」と思ってしまいます。

 そういう会社に限って、こちらから代行の連絡をすると、開口一番、「うちは無理に引きとめたりはしていません」と言います。退職代行を使う理由が、必ずしも引きとめというわけではありません。こちらから「引きとめ」という言葉を口にしてもいないのに、先に言ってくるということは、悪いことをしているという意識がどこかにあるのだと思います。

「1万円で会社とサヨナラ」まだ見ぬ天職と出会う“戦略的撤退”としての退職代行 へ続く

(桐畑 昴)

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