新型コロナ“情報隠蔽”の中国、日韓関係は“過去最悪”……東アジアの隣人とどうつきあうか

文春オンライン / 2020年3月16日 6時0分

写真

「3・1独立運動」から101年、ソウルで記念式典での文在寅大統領 ©ロイター/AFLO

 池上彰さんと山里亮太さんが共演するMBS(毎日放送)の深夜番組『生! 池上彰×山里亮太』から、激動する東アジアに焦点を絞った『 知らないと恥をかく東アジアの大問題 』(角川新書)。池上さんが新型コロナウイルスへの対応をはじめ、気になる東アジアの厄介な大問題について解説した「おわりに」を特別公開します。

独裁国家ともつきあっていかなければいけない

 山ちゃんとの対談を基にしたこの本の編集が終わったところで、中国・武漢で新型肺炎患者(新型コロナウイルスに関連した肺炎)が続出というニュースが飛び込んできました。中国では2002年にもSARS(重症急性呼吸器症候群)が発生し、多数の患者と死者が出ました。それに比べれば、情報がそれなりに発表されていると当初は思ったのですが、実際は、やっぱりそうではありませんでした。

 習近平国家主席が2020年1月20日になって「全力で感染防止に取り組まなければならない」と指示を出し、感染に関する情報は「直ちに発表しなければならない」と訓示しました。これ以降、患者数は激増しました。つまり、習近平国家主席が「感染情報を隠すな」と指示したので、現場は正確な数字を出すようになったということです。それまでどれだけ情報が隠蔽されていたことか。

 独裁者が存在する国家や企業は、全員がトップの顔色をうかがっています。自分では何も判断できなくなります。今回の新型肺炎も、こうした弊害を明らかにしたといえるでしょう。

 私たちは、こうした独裁国家ともつきあっていかなければならないのです。

韓国との関係も“過去最悪”の状態

 一方、韓国との関係も“過去最悪”の状態が続いています。日韓はどうして対立するのか。日本経済新聞・前ソウル支局長の峯岸博氏は、「順法」の日本と「正義」の韓国との対立だと指摘します。日本は、「日韓請求権協定」によって国と国との約束が結ばれたのだから、これは守らなければならないと考えます。一方、韓国は軍事独裁政権時代に国民不在で勝手に他国と結ばれた約束は「不義」であり、それを正すのは「正義」だというのです。

 このように他国の「内在的論理」を知ると、たとえ納得できなくても、「理解」することは可能になるかもしれません。何事も、相手の内在的論理を知ったうえでつきあうことが必要なのです。

東アジアの人件費上昇は消費を活発化させる

 東アジアといえば、日本以外は韓国、北朝鮮、中国、台湾ということになるのですが、ここで視点を南に向けてみると、また異なるアジアの姿が見えてきます。それは、日本をアジアのお手本として見て、日本に追いつこうと努力する東南アジア諸国の姿です。日本の近隣国家はときに「反日カード」を切りますが、南に行くと、親日国家が並びます。

 ベトナムは、いま1960年代の日本の段階にまで経済成長してきました。多くのベトナム人にとって日本は憧れの国。日本に出稼ぎに行こうと意欲を燃やしている若者が大勢います。

 しかし、そのベトナムも人件費が上昇しています。中国の人件費の安さに惹かれて中国に進出した日本企業は、中国の人件費高騰に頭を痛め、ベトナムへと工場を移転してきましたが、さらにカンボジアやミャンマー、バングラデシュへと工場を進出させています。

 日本の企業が多数進出することで、地元では多くの雇用が生まれますが、日本の工場で働くことができる能力を持った若者は限られます。次第に人件費が上昇するというわけです。

 進出する日本企業にとっては不都合なことでしょうが、こうした新興国でも高額所得者が誕生し、豊かな中間層が増えることで、消費が活発化。日本商品が一層売れるようになります。

夢と希望の象徴だった東京オリンピック

 さらに憧れの日本に旅行に来る人も激増しています。

 最近は日本国内の観光地で、中国人以外のアジア人の姿を見かけるようになりました。髪にスカーフを巻いたイスラム教徒の女性の姿をも見ます。インドネシアやマレーシアからも観光客が増えてきたのです。

 この姿を見ると、やはり1960年代の日本を髣髴とさせます。かつての日本は決して豊かではありませんでした。しかし、きょう一生懸命働けば、明日はきっと豊かになる。右肩上がりの経済の中で、人々は夢と希望を持って働いたのです。

 その象徴が1964年の東京オリンピックでした。新幹線や高速道路が整備され、日本の産業のためのインフラができたことで、日本経済は飛躍的に成長しました。オリンピックがいわば跳躍台となったのです。

少数派を無視するインドの国家運営

 フィリピンではロドリゴ・ドゥテルテ大統領が2016年に就任して以来、麻薬がらみの犯罪者は警察官が現場で射殺してもいいという驚きの方針を打ち出して以来、多数の“犯罪者”が裁判抜きで処刑されてきました。しかし、その結果、フィリピンの治安は急激に改善され、フィリピンに投資する外国資本も増えてきました。ドゥテルテ大統領は高い支持率に支えられています。

 人権より治安。治安が改善されれば経済が上昇。これが現実なのです。

 一方、インドではナレンドラ・モディ首相が就任して以来、「全戸にトイレを」を合言葉に衛生環境の改善に努めてきました。インドでは自宅にトイレがなく野外で用を足す人が大勢いたのですが、首相肝いりの施策で環境が改善されています。思えば日本も東京オリンピックまでは、いまでは信じられないくらいゴミや汚物にまみれていたものです。

 インドのモディ首相は、「ヒンズー至上主義者」として知られています。インド国内でヒンズー教徒を優遇し、結果的にイスラム教徒に不利になる施策が相次いで打ち出されています。

 モディ首相にしてみれば、全国民の80%を占めるヒンズー教徒の支持さえ得られれば政権を維持できるという計算があるのでしょうが、国内でのイスラム教徒の不満は高まっています。決して健全な国家運営とは言えません。

アウンサンスーチー氏の人気が急落

 国家運営といえば、ミャンマーの国家顧問にまで上り詰めたアウンサンスーチー氏の人気が急落しています。かつては軍事政権に抵抗して自宅軟禁にされ、ノーベル平和賞を受賞(1991年)した女性でしたが、いまや国内少数派のロヒンギャ族の大量虐殺の事実を否定したり居直ったりしています。

 アウンサンスーチー氏が自宅軟禁を解かれた直後、私は氏にインタビューできることになってミャンマーに飛んだのですが、二度にわたってドタキャン。会えませんでした。氏を知るミャンマー在住の日本人は異口同音に「彼女は建国の父アウンサン将軍の娘としてチヤホヤされ、わがままいっぱいに育った王女さまだよ」と称しました。それはいくら何でも言い過ぎだろうと当時は思ったものですが、やはり本性を現したというところでしょうか。

 アジアは混沌としています。それだけつきあうのが困難な国もありますが、それだから面白いとも言えるのです。

(池上 彰,山里 亮太)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング