「もう撃沈してますよ」無観客のPayPayドーム スタジアムDJツバサの嘆き

文春オンライン / 2020年3月13日 11時0分

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左からハリーホーク、ハニーズ、DJツバサ、トッシー兄さん、ハニー ©球団提供

「もう撃沈してますよ」

 電話口から聞こえるのは、耳慣れた重厚感のあるバリトンボイスだ。声は元気。しかし、その2文字が厳しい現状を物語っていた。

 声の主は藤澤翼さんだ。福岡ソフトバンクホークス主催試合やチームイベントなどでスタジアムDJを務めている「DJツバサ」である。

歓声のないプロ野球への違和感

 DJツバサは2014年シーズンからホークスの一員となり、今季で7年目を迎える。主催試合でいえば、球団マスコットキャラやオフィシャルダンスチーム「ハニーズ」、体操兄さんのトッシーらと一緒になって球場外周でのステージ司会や試合前のスタメン紹介、グラウンドでのMC、試合中のホークス選手のコール、本塁打や守備の好プレーの際にも場内アナウンスを通してスタンドを盛り上げるなど活躍の場は多岐にわたる。球場に足を運ぶファンにとってはお馴染みの人だ。ちなみに、球団公式ホームページではページの下段にある「エンタメ」を開き、その中の「スタジアムキャラクター」を開くと紹介ページに辿りつく。正直、もう少し見易いところにあってもいいと思うのだが……。

 さて、無観客で行われているオープン戦も残りわずかとなった。3月15日の日曜日でようやく全日程を終える。

 取材者は制約付きとはいえ球場内での観戦が許されているため、これまで同様に福岡PayPayドームのスタンド記者席から試合をチェックしている。しかし、やはり静かなプロ野球というのは何とも味気ない。先日、ヤフーニュースの個人枠で「無観客のプロ野球を敢えて楽しもう」という拙稿を寄せさせてもらった。その中でも触れたように「野球の音」が感じられることを好意的に受け止めている意見は多い。だけど、素直に首を縦に振ることはできない。やっぱり広いスタジアムのスタンドにファンがいない光景、そして歓声のないプロ野球への違和感は何試合経っても消えることはない。

 福岡PayPayドームがより静寂に包まれたのは、場内演出が一切行われなかったからでもあった。

 オープン戦の中継を見ていると、他球団では球場演出を縮小しながらも行うところも確認できたが、ホークスではほぼ一切が行われなかった。選手のアナウンスは女性のうぐいす嬢が単独で行うのみで、世界最大級を誇るホークスビジョンも基本スコアボードの表示だけ。打者が快音を響かせても何もなしだ。無観客だからCMもない。7回裏の応援歌も当然のようになかった。

 つまり、DJツバサは出番が全くないのだから、球団からお呼びがかからない。

 もう、死活問題である。

「スケジュールはめちゃくちゃです」

 新型コロナウイルスの影響で世界経済が沈没しかかっている。株価などを見てもある程度体力のある企業ですら厳しいのだから、フリーランスで生計を立てている個人事業主はたまったものではない。

 DJツバサはもともと香川をはじめとした四国地方や岡山県を拠点に活動をしてきた。バレーボールVリーグ女子の岡山シーガルズ、卓球プロリーグTリーグ岡山リベッツ、バスケットボールB3のトライフープ岡山など様々な競技スポーツでのアリーナMCをはじめ、サッカーで今年からJ3に参戦するFC今治のホーム開幕戦ならびに第2節でのスタジアムDJを務めることも決まっていた。なので、現在も福岡には“通っている”のだ。

 とはいえ、年間に主催公式戦だけで71~72試合が行われ、オープン戦やポストシーズンまで加えればかなりの試合数になるのがプロ野球だ。ホークスが生業の基盤となる。

「バレーボールや卓球はシーズンがすでに終わっていますが、Bリーグは中断していますし、J3は開幕時期が決まっていません。正直、色々な仕事がキャンセルになりました。これはマズいとどうにか仕事を作っても、それさえも消える。スケジュールはめちゃくちゃです。飛行機などの予約とキャンセルも何度繰り返したことか……」

 飛行機やホテルの予約とキャンセルを何度繰り返したか分からない。ホークス球団はスケジュールを押さえていた分の補償について今後話し合いの場を設けるようだが、具体的なことが決まらない限り仕事の受け手としては不安が消えることはない。

「公式戦でというのは考えづらい」

 ところで、文春野球コラムではたびたびスタジアムDJやMC、場内アナといった様々な肩書を持った方々が自ら書き手となり文字でも情報を発信してきたように、日本のスポーツシーンにおいて彼ら(彼女ら)は居ることが当たり前の存在となっている。選手同士が球団の垣根を越えて交流を持つように、彼らもまた横のつながりを大事にしている。

「西武のRisukeさんとかオリックスでやっていた平野智一さんとはよく話しする方です。ただ、今回の件で連絡を取り合ったりはしていないですね。しづらいわけではないけど、集まって話をしたところで何か違うような気もするので……」

 3月、無観客のオープン戦は現在の拠点の一つである東京でテレビ観戦していた。

「すごく違和感はあります。PayPayドームの試合をテレビで見るのは変な感じだし、やっぱり静かでお客さんがいない球場というのは。やっぱりプロ野球ですから。表現が難しいけど、何のためにやっているんだろうって思っています。今はまだオープン戦だから、公式戦のために仕方ない部分もありますけど、公式戦でというのは考えづらい」

 この電話から数日後の3月9日、プロ野球公式戦の開幕延期が正式に決まった。DJツバサは自身のSNSでそれを伝えるニュースのリンクと共に、「そうですか……。いつまでのスケジュールをキャンセルしていいでしょうか……? そろそろ……生活することも危機だな……」と綴った。

無観客のスタンドに声を張り上げる虚しさ

 福岡PayPayドームでは3月10日の巨人とのオープン戦から選手登場曲やイニング間のBGMが再開されたことで、少なからず雰囲気が変わった。

 そして13日と14日の広島戦。ついにDJツバサが球場に戻ってくる。音響や映像などのスタジアム演出が公式戦でぶっつけ本番にならないように、テストを兼ねて通常どおりのオペレーションで試合を行うためだった。

「野球のオフシーズンも他の競技で場内DJなどをやっているので、声を出すことの不安はないけど、野球には野球の空気感や間があるからそこには慣れないといけないです」

 そのように意気込みを語っていたが、当然ながら無観客のスタンドに向かって声を張り上げるのはどこか虚しさを覚えるものがあった。

「スタジアムDJって球場を盛り上げるためにお客さんを巻き込んでいこうという橋渡しのような役割を担っていると思います。ファンの心を動かす役回りというか」

 プロ野球を球場で見たいファンがいる。スタンドから声の限りを張り上げて、贔屓のチームや心を捧げる選手を目いっぱい応援したいのだ。

 そして、選手たちだって全力プレーを見てもらいたいと切に思っている。

 球場にいつもの光景が戻るまで少し我慢が必要になるが、その日常が戻った時には感情のままに目一杯プロ野球を楽しもう。スタジアムDJはそんなファンの背中を響きのいい声で優しく押してくれるはずだ。

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※「文春野球コラム2020  開幕延期を考える」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト https://bunshun.jp/articles/36617 でHITボタンを押してください。

(田尻 耕太郎)

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