「私はいじめられていた」作文を卒業文集に不掲載 札幌市立小学校の“事なかれ主義”

文春オンライン / 2020年3月16日 6時0分

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 北海道札幌市内の公立小学校で、今年卒業する女子児童Aさんが書いた卒業文集の作文に、いじめについての記述があったことで、学校側は掲載をしないと決めた。しかし、保護者がTwitterでその旨をつぶやくなどした後、一転して方針が変わり、作文を掲載するとの連絡があったことがわかった。

「6年前は、卒業式に出ないなんて想像もしませんでした」

 Aさんがいじめにより不登校となった件では、いじめ防止対策推進法上の「重大事態」とされたことで、調査委員会が設置されている。

 学校からの依頼文には「6年間の思い出の作文」とあり、分量は「縦25マス、横32マス、計800字」。テーマは「成長」「夢」「感謝」のいずれかに触れること、と記されている。「将来、大人になってから、自分や友達や家族が卒業文集を読み返した時のことを想像し、前向きで希望があふれる内容にしましょう」と説明が書かれており、「プロフィール紹介」では文字や絵などで自己紹介することが指定されていた。

 この案内を踏まえて、Aさんが書いた作文のタイトルは「学校生活で学んだ事」だ。そして、内容はこのように始まった。

〈6年前は、自分が卒業式に出ないかも知れないなんて想像もしませんでした。普通に入学をして学校生活を送り、普通に卒業すると思っていました。でも私は、5年生の途中から学校生活を送れませんでした。理由はクラスメイトからのいじめです。

 私は、だんだんと学校が楽しくなくなり、休み時間の事を考えると気持ちが悪くなりました〉

いじめのきっかけとなった鬼ごっこを、なぜか先生が強要

 Aさんは小学校3年のときいじめにあった。きっかけは、休み時間にクラス全員で行われた、鬼ごっこだ。2時間目と3時間目の間の「中休み」や昼休みはいつも、同じことをしていた。しかし、Aさんは「面倒臭い」と思うようになり、壁にいた。すると、Aさんは1回もタッチされなくなった。その後も、教室内で避けられるようになった。

 4年生のときは、自習の時間にトイレに行こうとすると、周囲の児童から「トイレに行っちゃだめなんだよ」と言われた。また、何か失敗すると、責められることがあったという。無視されたり、避けられたりしたが、Aさんは「一人で絵を描いていたり、本を読んでいた」と、当初はいじめの自覚がなかった。担任は、なぜか、鬼ごっこの全員参加を求めてきたという。

「先生も、鬼ごっこを強要していたんです。先生は、いじめとの認識はなかったと思いますが、嫌がっているのは知っていたと思います。3年生のときは、『中休みだけは全員参加』と条件を出されました。4年生のときは『運動不足解消のため、一緒にやろう』と言われたりした」(Aさん)

机に「死ね」「バカ」の文字

 いじめがエスカレートしたのは、5年生になってから。ゴールデンウィークが明けたころ、机に「死ね」「バカ」などと鉛筆で書かれた。ただ、すぐに消してしまったために、目撃者はいない。たまたま、PTAの用事で母親が学校へ行くと、教頭から机の落書きの件を聞いた。その数日後には、上履きが隠される事件もあったという。

 作文ではこう書かれていた。

〈いじめは3年生から始まりました。でも、学校は行かなければならないと思ってがんばっていました。休み時間は、絵を描いたり、本を読んだりして過ごすようにしていました。

 しかし5年生の5月、登校すると机にひどい言葉がいくつも書かれていました。2日後には上ばきがありませんでした。私は学校へ行けなくなりました。

 しばらくは自分の部屋からも出られませんでした。今でも子どもが多いところには行けません。

 私は学校でみんなと同じように勉強がしたかったです。でも、また嫌な思いをすると思うと行けません。どうして、いじめの被害者だけがこんな辛い思いをしなければいけないのですか?〉

「いたずら」ではなく「いじめ」

 5月10日には、保護者懇談会で教頭が「いたずらがありまして」と説明をしていたが、母親が「いじめ」と言い直しをさせた。その場で母親は「無理に仲良くする必要はないが、嫌いなら構わないで。このことを親子で話し合って」と話した。すると、一人の保護者から謝罪があったという。

 その後、Aさんは何度か学校を休んだりしたが、5月末からは不登校になった。

「秋ごろ、教頭から『転校はどうですか?』と、勧められました。しかし、なぜいじめられた側が転校しなければならないのかと疑問に思い、『なぜうちが?』と問いただしたんです。すると、教頭も『ごもっとも』と応じました」(母親)

 ただ、教育センターに行くと、登校扱いになるとのことだった。そのため、Aさんのケースは、統計上は不登校にカウントされないようだ。

中身確認のため、クラスメイトの手紙を担任が回収

 6年生になると、校長が替わり、「重大事態だから、学校としても、いじめの話を聞きたい。いいですか?」と伝えてきた。調査委は公開か、非公開かを聞かれたために、母親は公開形式を選んだ。また、調査委とは別に、校長は「過去のアンケートも再調査する」と言い、教頭に指示した。その結果、Aさんを心配している児童が複数人おり、無視やバイキン扱いをしていたとの内容が書かれていたと、口頭で報告があった。

 ただ、6年生になってからも、学校対応で問題がなかったわけではない。

「4月に、仲が良い女の子が娘に教室で手紙を書いていたんです。それを他の子どもたちも見て、みんなで手紙を書くことになったというのです。私が、用事で学校に行ったとき、教頭先生が『みんなで書きました。見ましたが、内容に問題はないんで、きっと元気づけられると思う』と、手紙を手渡してくれました」(母親)

 この時点で、担任は、クラスメイトが手紙を書いていたのを知らない。そんな中で、ある保護者が「手紙を出したのは知らなかった。中身を確認したい。傷つけたらいけない」と言ってきたために、すべての手紙が回収となった。担任の判断だったという。

状況を把握できていないチグハグな回答

「内容を確認した保護者が、問題がないと、Aさんに返したいと言ってきたのですが、担任に親としては『要りません』と言いました。その代わり、手紙を回収したことはクラスで説明してください、と言いました」(母親)

 5月になり、教頭と担任が謝罪をした。保護者懇談会では、担任が「僕がいたらなくて、手紙を確認もせずに、Aさんに渡してしまった」と説明した。しかし、手渡したのは教頭だ。教頭は内容を確認している。そのことの説明はなかった。校長はのちに「知っていたら、手紙の回収を止めていた」とも話していたという。

 こうしたチグハグな対応があったため、学校との連絡が滞りがちだった。そんな流れの中で、12月、卒業文集の話があった。女子児童は「書くよりも、(パソコンでの)データでも大丈夫なら」と伝えた。そして、作文をメールした。

いじめに関する部分を削除しなければ不掲載

 2020年1月6日。仕事始めの日に、学校から返事があり、「すばらしい内容」と書いてあった。しかし、細かい書き振りについて、相談をしたいとも言われた。そのため、母親は9日に学校へ行った。すると、いじめに関する部分を削除するよう言われた。調査委がいじめと認めなければ文集には載せられないこと、テーマに沿っていないことなどが理由だった。

 残すことが認められた部分は、具体的な記述がない次のようなところだ。そうでなければ、不掲載になると告げられた。

〈私は、いじめにより、国連人権宣言や日本国憲法にある『教育を受ける権利』が侵害されている事を知りました。また、学校教育法でも、加害児童への懲戒処分や出席停止により被害児童の教育を受ける権利を保障しようとしていますが、実際には全く守られていない事も知りました。

 大阪の寝屋川市では、子どもたちをいじめから守るための条例が去年の12月議会で可決され、いじめ加害者を出席停止や転校させる勧告を、市が教育委員会に出せるようになった事をお母さんが教えてくれました。

 このような取り組みが、少しでも早く、札幌、そして全国にも広まって欲しいです〉

ツイッターやメディアに訴えかけると、対応が一転

 一部削除には、Aさんも母親も納得がいかない。

「法務局に相談をしました。対応した職員は『(原文の掲載に)問題はない』と言いました。市教委にも相談しました。しかし、学校側は態度を変えませんでした。2月4日に『掲載しない』と伝えてきました」(母親)

 そのため、母親は、作文の一部削除の件をTwiterにつぶやいた。同時期に、北海道新聞、朝日新聞、共同通信に連絡した。2月10日に市教委や学校に取材があったというが、そのことが影響してか、校長から連絡があり、一転して作文が掲載されることになった。

 その後、校長からは、謝罪する内容の手紙が届いた。ただ、個人的な私信としての扱いのためか、校長という役職は書かれておらず、差し出し人の住所は、学校の住所ではなかった。

 Aさんは、医師からも「不安・抑うつ状態」などと診断されるほど、いじめの後遺症がある。ほぼ1年間は、外出もできないでいた。家族で半日のドライブをしたときでも、留守番をしていたくらいだ。

 ただ、取材日の数日前から外出できるようになったが、作文にもあったように、「それでも、同年代の子どもがいるところはダメ」と不安はまだ残っている。加害者に対しては、「二度と目の前に現れてほしくない。コンビニでたまたま見かけたときに、走って逃げたこともありますから」と語っている。

 札幌市教育委員会は、電話取材に対して「個別の問題は答えられない」と話した。

 児童からのSOSを封殺しようとした「事なかれ主義」の大人たちの責任は大きい。

(渋井 哲也)

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