「早朝デートする?」人気アパレル元社長のセクハラLINEが“2重で”アウトな理由――弁護士が解説

文春オンライン / 2020年3月19日 17時0分

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「一連の報道でお騒がせした」として3月6日にストライプインターナショナルの社長を辞任した石川康晴氏 ©共同通信社

 若い女性に人気の「アースミュージック&エコロジー」などを展開するストライプインターナショナルの石川康晴氏が3月6日、社長を辞任した。

 石川氏は女性社員らに対して複数のセクハラ行為があったとされ、2018年12月に社内で臨時査問会が開かれ、厳重注意を受けた。しかし同社は「(石川氏の)セクハラ行為は認められず、処分もなかった」と説明している。

「ファッション業界の労働環境はブラックな面も否めない」と話すのは海老澤美幸弁護士。

 海老澤弁護士はファッションエディターから弁護士に転身した異色の経歴の持ち主で現在はファッション・ローをメインに扱っている。ファッション業界の契約関係やコピー商品問題が中心だが、最近では「労働問題」の相談も増えているという。

 そんな海老澤弁護士に今回のストライプインターナショナル石川康晴氏の一件はどう映ったのだろうか。

◆◆◆

「何時に寝る?」「このLINE、内緒だよ」

――石川氏の件は、 朝日新聞デジタル(3月4日) で『服飾大手社長がセクハラ』と報道されたことがきっかけでした。社内の査問会では2015年8月~18年5月にあった4件の事案が報告されたそうです。

海老澤美幸弁護士(以下、海老澤) そもそもセクハラには「環境型」と「対価型」の2つがあるとされています。「環境型」というのはたとえば職場にヌードのポスターが貼ってあることを労働者が苦痛に感じているような、働きやすい環境という意味で適切でないケース。「対価型」というのは、セクシャルな言動に応じない場合に減給や異動などの不利益が伴うケースです。

 報道を見ると、石川氏は会社のオーナーかつ社長(当時)という立場から女性従業員を誘っており、女性従業員からすれば、従わなければ不利益を受ける可能性があるという点で「対価型」といえます。セクハラの基準は被害者本人の「主観」が基本的に考慮されます。一方で平均的な女性労働者であればどう感じたか、という「客観的」な基準も加味されて判断されます。その主観・客観という両方の視点から石川氏の件は「悪質」であり、まさにセクハラと言えるのではないでしょうか。

――具体的に、 朝日新聞デジタル(3月5日) に掲載されたLINE画像によると、深夜0時を超えてから「何時に寝る?」「このLINE、内緒だよ」「1時半に15分だけ、抜けてくる? 話、する?危険かな? ●●号室」(※部屋番号は加工されている)と女性社員を宿泊している部屋に呼び出そうとしたケースが紹介されています。

「話、する?危険かな? ●●号室」LINEが“アウト”な2つの理由

海老澤 まずポイントになるのはこのLINEが「深夜」ということでしょう。早朝あるいは深夜という労働時間外に上司の立場から指示を出していることが不適切です。

 そしてもうひとつのポイントは「1人でホテルの部屋に」来るように誘っていること。これは一般的に見ても「不快」「従いたくない」と感じられるものでしょう。しかもこの社長の誘いに応じなかったら何らかの不利益があるかもしれない――「勤務店舗を変えられる」「給料を下げられる」――もちろんそれらはメッセージに明示されていませんが、被害者としてはそういうことを考えてしまうので、このLINEはセクハラにあたると考えます。

 もしも業務上必要な話があるのであれば、それは「労働時間内に」「店舗や事務所など」のしかるべき場所で行われるべき。つまり「時間外に」「彼の部屋」に1人呼び出して、というのはアウトです。このLINEのやり取りが事実であれば、証拠として残っている以上言い訳は通らないのではないでしょうか。

「新幹線代、ホテル代、出すから、●月、東京に来ませんか?指定休で」


――別のSNSメッセージも朝日新聞に掲載されています。「新幹線代、ホテル代、出すから、●月、東京に来ませんか?指定休で」「ホテルは東京駅の辺りで取りますよ」「石川と寿司デート」(※抜粋。一部加工されている)という内容です。

海老澤 上司・部下という職場の関係にも関わらず「ホテルを取る」「デート」などというメッセージを送っていることが、一般基準でセクハラと判断する材料になるでしょうね。

 法律上でいうと、男女雇用機会均等法(11条)が「職場において行われる性的な言動で労働者の対応によりその労働条件につき不利益を受けること、またはその性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」をセクハラと定義し、雇用主(=社長)に対し、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備する等、雇用管理上必要な措置を講じることを義務付けています。守らなければ国から是正勧告を受けたり、違反企業として公表されたりすることになります。

――仮にセクハラを受けた被害者が石川氏に文句を言いたいというケースはどうなるのでしょうか。

海老澤 民法の「不法行為」(民法709条)に基づいて損害賠償請求などをすることになります。この場合、会社に対しても使用者責任(民法715条)を追及することも可能です。より悪質で同意なく性行為に及んだというケースですと、強制わいせつや強制性交など刑法上の責任も問題になってきます。

 民事訴訟を起こす場合は、セクハラにより心理的にショックを受けて治療が必要となった、休業せざるを得なくなった、退職を余儀なくされた……そういうことに対して損害の補填を求めるケースが多いです。金額はケースバイケースですが、セクハラが原因で休業しなければならなくなったり、退職にまで追い込まれてしまったようなケースでは、慰謝料のほか休業損害や逸失利益の支払いまで認められることもありますので、高額になりますね。

なぜファッション業界ではセクハラ・パワハラがなくならない?

――海老澤先生は弁護士になる前、ファッションエディター(編集者)として活躍された異色の経歴でファッション業界に精通されています。今回の一件を受けて、「アパレル業界の膿を出すいい機会」とツイートされていますね。

海老澤 残念ながら、ファッション業界はセクハラやパワハラがまだまだ多いと言わざるを得ません。根本的な構造として、アパレルでは男性が経営層にいて、その下に多数の女性がいるという会社が多いです。もちろん日本では他業界でも女性管理職の割合が低いことが指摘されています(※2018年のILO調査で12%)。ただこの業界では販売員など若くてオシャレな女性がより集まりやすい。その環境において、もしも認識の甘い男性がいた場合、今回のような問題が起きやすいのではないでしょうか。

 ファッション業界では長時間労働の常態化も少なくありません。そもそも経営陣が雇用者の時間管理もできていないというケースもたびたび見てきました。デザイナー、パタンナー、バックオフィスのスタッフなどで、タイムカードがないケースすらあります。ファッション業界では、年に2回、S/S(春夏)とA/W(秋冬)という大きなコレクションシーズンがありますが、その期間になると「夜中まで作業を繰り返して、毎晩徹夜して……」というのが当たり前のことも多く、会社が時間管理しきれずに本人任せにしているケースがまだまだあるのです。そうした状況では、今回のように上司から部下に対するセクハラがあったとしても、部下へのケアが不十分で会社が事件を把握できていないというケースは少なくないと思います。

この一件でTwitterでは「不買運動」も

――そんな「ファッション業界の膿を出す」ために必要なことは何でしょうか?

海老澤 他の業態と明らかに違うのはファッションは「ブランド価値」が人気や売り上げに非常に大きく影響している点でしょう。ストライプインターナショナルであれば「アースミュージック&エコロジー」という主力ブランドは宮崎あおいさんや広瀬すずさんをブランドの顔としてCMに起用し「もう無駄なものは着ない(=サステナビリティ)」というイメージを強く押し出してきました。

 今の10代、20代は、ファストファッションを経た後のサステナビリティやフェミニズムといったテーマに興味がある意識の高い世代。「アースミュージック&エコロジー」はその子たちがメインターゲットになっていて、たとえば就活サイト「マイナビ」の大学生ファッションブランドランキング(19年)でも4位と高い人気を誇っていました。

 今回、セクハラ問題が明るみに出たことで、皮肉にも、サステナブルを前面に押し出してきた企業が、その内情はセクハラが横行する、サステナブルとはかけ離れた労働環境であることが明るみに出てしまった。同社のサステナブルなイメージが崩れ、意識の高い若い世代が一気に離れてしまいました。実際にこの一件を受けて、Twitterの一部では不買運動も起きました。ストライプインターナショナルのほかの社員の方はものすごくがんばっていらっしゃるはずなので、そういう意味でも石川さんの件は非常に残念ですよね。

 石川さんもそうですが、このご時世、セクハラがダメだということを知らない経営者はもういないはずなんです。なのにやってしまうのは、「自分は大丈夫」「相手は嫌がっていない」など認識が甘く、危機意識に乏しいからではないでしょうか。そうだとすれば、こうした経営者に単に「セクハラはダメ」と伝えるだけでは響かない。個人的な欲望によって取り返しがつかないほどの莫大な「ブランド価値」を失うということをより強調して啓蒙していく必要があるのではないかと考えています。

――ストライプインターナショナルでは社内の査問会で「セクハラの事実は認められず、処分はありませんでした」という結論になっています。朝日新聞の取材にも同社は「上司と部下として誤解を招く表現があった」「食事やホテルに誘ったことは認める」としています。

海老澤 そういう意味でも会社全体の認識の甘さが出ているのではないでしょうか。

 先ほども言った通り、セクハラに当たるかどうかは「主観」により判断される部分が大きいですし、密室で行われることが多いため、被害を受けた本人が「嫌だ」と思って訴えることがなければ問題が明るみに出ないことがほとんどです。また、セクハラを含む性被害の被害者は、ショックや自責の念から被害を申告できないケースがとても多い。査問会で事実は認められないとの結論になったのは、そうした背景があったのかもしれません。

 #MeToo運動が最初に盛り上がったのは2017年でした。そのとき私は、この運動をきっかけに、アパレルでも襟を正す企業が増えることで、業界が大きく変わるきっかけになるのではと期待しました。水原希子さんなど勇気ある女性が声を挙げてくれましたが、この声に応えた企業は一部の外資系企業のみ。日本のアパレル業界全体には広がらず非常に残念に感じていました。

 それが、今年になって、2018年にストライプインターナショナルでこの査問会が開かれていたことが分かり、大々的に報道されたことで注目が集まったわけです。これを契機にこれまで表に出ることのなかったケースにも光が当たり、「ファッション業界の膿を出す」流れになっていけばいいなと思っています。

(海老澤 美幸)

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