BTSからペ・ヨンジュンまで 韓国芸能界「新型コロナ寄付競争」はなぜ起こる?

文春オンライン / 2020年3月19日 17時0分

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ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」のイ・ヨンエも寄付 ©︎文藝春秋

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く韓国で、芸能人による「寄付」が続いている。最も深刻な事態となった大邱(テグ)、慶尚北道地域への寄付を皮切りに、社会の各方面へ“善行”が相次いでいるのだ。

 始まりは、韓国の演歌ともいうべきトロットのミューズのホン・ジニョンとK-POPアイドルグループのスーパージュニアだった。世界保健機関(WHO)が「国際的公衆衛生非常事態(PHEIC)」を宣言した1月30日、スーパージュニアはマスク1万枚、ホン・ジニョンはマスク5000枚を、それぞれ社会福祉団体に寄付した。

 俳優の中では、「宮廷女官チャングムの誓い」で有名となった韓流スター、イ・ヨンエが、大邱の社会福祉団体に「新型コロナで生計が厳しくなった社会的弱者層を助けてほしい」と、5000万ウォンの寄付をして、口火を切った。

韓流スターの“寄付リレー”

 さらに2月23日、韓国政府が新型コロナに対する国家危機警報を「深刻」段階に格上げすると、芸能人の“寄付リレー”もより活発になった。

 日本でも人気の高い韓流スターのイ・ミンホとソ・ジソプは、それぞれ3億ウォンを寄付し、女性ソロ歌手のIU(アイユ)も計3億ウォン相当の現金とマスクなどの物品を寄付した。

 他にも、映画「パラサイト」のポン・ジュノ監督と主演俳優のソン・ガンホをはじめ、コン・ユ、ソン・ジュンギなどの韓流俳優ら、BTSのシュガ(SUGA)、少女時代のユナ、Red Velvetのアイリーンとウェンディ、スーパージュニアのウニョクなどのK-POPアイドルたちも、それぞれ1億ウォンを寄付するなど、芸能人からの寄付が相次いだ。

 韓国の代表的な募金団体である「社会福祉共同募金会」の資料によると、3月9日までに有名芸能人や企業家から総額433億ウォン以上の新型コロナ関連の寄付金が集まったという。

「善きビルオーナー運動」とは?

 さらには、芸能人による「善きビルオーナー運動」も始まった。「善きビルオーナー運動」とは、新型コロナの感染拡大で経済的打撃を受けている自営業者らのために、ビルオーナーが一定期間、賃貸料を受け取らなかったり、値引きしたりする運動だ。

 韓国は「不動産不敗」という言葉があるほど不動産バブルが続いていて、ビルオーナーになることが韓国の青少年たちの夢、とまで言われている。過酷な競争で活躍する期間も限られる韓国の芸能人たちも、不安な未来の備えるようにして「ビル購入」という財テクに夢中になっている。

 ペ・ヨンジュン、チャン・グンソク、ソン・スンホン、チョン・ジヒョン、ユナ(少女時代)、ハン・スンヨン(KARA)、IU、D-LITE(BIGBANG)など、名前を挙げ始めたらきりがないほどの多くの芸能人が、数十億から数百億ウォンにもなるビルを所有している。ビルを買えるようになって初めて「いよいよ一流の芸能人になった」と評価されることがあるほどだ。さらに芸能人が所有するビルは「芸能人プレミアム」が付き、周辺の相場より高い賃貸料が取れるとされている。

 そんなビルオーナーの芸能人は、今回、次々に「善きビルオーナー運動」に加わった。分かっているだけでも、韓流スターカップルのキム・テヒ&RAIN夫妻をはじめ、ウォンビン&イ・ナヨン夫妻、チョン・ジヒョン、パク・ウネ、ソ・ジャンフンらが参加している。

ファンクラブも巻き込んで……

 なぜ、韓国芸能人の寄付活動はここまで活発なのか。その理由について、文化評論家で東亜放送芸術大学教授のキム・ホンシク氏は、筆者の取材に次のように説明する。

「韓国では、ボランティアや寄付に積極的な芸能人を『概念芸能人』と呼んで評価します。特に若者の間で『概念芸能人』とされると圧倒的に評価が高まるため、芸能人にとっては、個人的にブランド価値を高める役割を果たしているのです」

 ちなみに、韓国では考え方や行動が社会規範に反する人を「概念がない(常識がない)人」、逆に、模範となる人を「概念人」と表現する。似たような表現では、「ソーシャル(social)」と「エンターテイナー(entertainer)」の合成語である「ソーシャルテイナー(socialtainer)」という造語まで生まれている。

 芸能人のこうした行動は、そのファンにも影響を与えている。前出のキム教授が説明する。

「芸能人の寄付のトレンドが個別的な行動に止まるのでなく、ファンとのコラボ寄付やボランティア活動にまで繋がっている。これまでのファン文化といえば、自分の好きな芸能人に豪華なプレゼントを贈ったり、ライバル芸能人に悪質な書き込みをすることだったが、最近は社会に貢献する文化へと変化している」

 象徴的なのが、BTSのファンクラブ「ARMY」の事例だ。

 大邱が故郷のBTSのメンバーのシュガが、新型コロナ感染拡大の予防などのため、大邱へ1億ウォンを寄付すると、ファンクラブである「ARMY」もこれに賛同。新型コロナでキャンセルされた4月のソウルコンサートチケットの払い戻し金をそのまま全額寄付したファンも多く、BTSとARMYによる寄付総額は合わせて4億ウォンに迫るほどにまでなっている。

「手紙で済ませる気か! 1億ウォン以上は寄付しろ」

 しかし、芸能人の寄付リレーに、予想もできなかった否定的な反応が出てきた。

 俳優のイ・シオンは新型コロナのために100万ウォンを寄付し、自分のSNSに寄付をした領収書を載せたことで、ネット民たちから袋叩きにされた。「寄付の金額が少なすぎる」というのが批判の理由だ。

 また、韓流スターのヒョンビンは、手書きの手紙を公表して新型コロナに苦しんでいる国民にエールを送ったが、ネットでは、ヒョンビンの行動に「手紙で済ませる気か! たくさんの金を儲ける韓流スターだから1億ウォン以上は寄付しろ」などという書き込みが相次いだ。

 ネット民から非難世論が激しくなると、ある福祉団体が「すでにヒョンビンから2億ウォンの寄付を受けている。ヒョンビンに寄付した事実を公表しないで欲しいと頼まれたため、これまで明かさなかった」と釈明する事態となった。

ネットで出回った「寄付金額リスト」

 さらにネットでは「新型コロナ対策に寄付した芸能人リスト」が出回っている。

 寄付をした芸能人を、まるで成績を並べるかのように、「3億→2億→1億→5000万ウォン」と、金額の順に整理したリストが作られ、随時アップデートされているのだ。

 このように過熱した寄付文化について、家族心理学が専門でソウォン大学兼任教授のクァク・ソヒョン氏は、韓国の独特なファン文化の問題点を指摘する。

「韓国の韓流コンテンツには、インターネットを中心に強力なファン層が形成されているので、芸能人と所属事務所は、彼らの世論に左右される傾向が強い。寄付も、ファンの間で『いくらぐらい払わなければならない』という圧力が働いて、競争するかのように金額が跳ね上がっています。本来の目的より金額が注目されるようになってしまうと、本来の目的が色あせてしまいます」

 政治家や企業家に対する信頼が地に落ちている韓国社会で、芸能人こそが青少年たちのロールモデルになっており、高い倫理意識と道徳性を求められている。

 世界的な人気を誇る韓流スターたちは、それだけ重大な責任感やプレッシャーも抱えているのだ。

(金 敬哲/週刊文春デジタル)

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