異色のベッドシーンで賛否両論! 映画『Red』の“容赦ない濡れ場”が日本社会に突きつけたもの

文春オンライン / 2020年3月21日 17時0分

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2月21日(金)より新宿バルト9ほかにて全国ロードショー  ©2020『Red』製作委員会

 直木賞作家・島本理生がセンセーショナルな性愛描写で新境地を拓いた問題作『Red』(中公文庫)。発表と同時にその倫理を超えた描写、衝撃的な内容で賛否両論を呼び、累計20万部を売り上げた。そのベストセラー小説を映画化した『Red』が公開中だ。関連ツイートには、女性客の興奮冷めやらぬ感想が並ぶ。

「容赦のない映画」
「ベッドシーンを見て号泣したのは初めて」
「全編が静寂に包まれているけれど、情熱と衝動に息を呑む」
「この映画は物事の善し悪しを問う作品ではなく、人の心が燃える時の輝きや美しさを感じる作品なのかもしれない」
「男性はおそらくたじろぐ。その強さと正面から向き合える男性はどれだけいるだろうか?」

徹底した女性視線で描かれた“異色のベッドシーン”

 だが一方で、男性客の感想には「怖かった」「何を見せられたのかわからない」と戸惑うものもあれば、「あれだけの役者を揃えてまったくの期待外れ」「原作とは違うエンディングに違和感」など、ネガティブなコメントがずらり。「“禁断の映画化”と謳うほどか?」「自己陶酔的で冗長」と辛辣な意見を見聞きすることも、決して稀ではない。

 これほど極端に男女で温度差のある映画も珍しい。その大幅な乖離の理由は、男たちがドン引きし、女たちが泣き濡れるベッドシーンに凝縮されているだろう。妻であり母である主人公がかつて愛した男と再会し、家庭を置いてのめり込んでいくなどという我々が見聞きし慣れたはずの不倫愛が、原作者(島本理生)、プロデューサー(日活・荒川優美)、監督(三島有紀子)全て女性という徹底した女性視線で描かれ、「性行為の一部始終を観客に直視させる」との強い意志すら感じられる、異色のベッドシーンに仕上がっているのだ。

「超男性社会」の映画界で本作が生まれた意味

 関係者はこう証言する。「日本の映画界は超男性社会。中でも老舗の日活で、女性だけでこういう映画を撮れたのは画期的なんです」

 2017年『幼な子われらに生まれ』で家族の心の機微と真理を鋭く描き出し、第41回モントリオール世界映画祭コンペティション部門審査員特別大賞など、数々の賞を受賞した三島有紀子監督。

 映画『Red』は、監督自らが「イプセン『人形の家』の現代版」と語るとおり、世間一般の基準ではおそらく羨まれるほどに恵まれた結婚をしていながら、さまざまな感情を抑え込む専業主婦の塔子(演:夏帆)が、かつての恋人である鞍田(演:妻夫木聡)と再会し、大病を患い死に直面する鞍田の愛の道連れとなり、心と身体の繋がりを経て壊され、解放され、覚醒してゆく物語だ。

女性監督が切り取った “性の悦びの現場”

 女性監督である三島が手持ちカメラで肉迫し撮り切った、二人の最後の夜となるベッドシーンは、我々がこれまでの商業作品で見てきたものとは別物の、目を逸らすことのできない、見た者それぞれに何かのスイッチを押される“性の悦びの現場”となっている。

「最後のセックスになるかもしれない時に、私たちは電気を消すだろうかと。この瞬間を目に焼き付けるように細胞レベルで記憶にとどめておきたいと思うのではないか、と考えた」と語る三島は、彼らの身体と表情をつぶさに見せようと、ありがちな薄暗さを排し、煌々と明かりの灯る部屋で撮影した。

作りものではない“リアルさ”はなぜ生まれたか?

 はじめは声を出せない塔子が鞍田のいざないで声を出し、自分を解放していく。これまで男性視線で撮られてきた作りもののベッドシーンやAVとは違い、女としてリアルな視点、行為、音声に、女性筆者は鳥肌が立った。性行為をする女の側からは、女が胸をあらわにしあからさまに脚を広げているような、単純に男の情欲をそそり起こさせる姿は見えない。だから撮らない。代わりに、相手の男の肩と表情と、男に舐められる自分の足先は見える。だから撮る。そして聞こえる音、息遣い、高鳴りゆく心音、声。

 目も耳も、逃がれさせてもらえない。最後には三島曰く「観音様のような」表情を塔子が見せるまでの満たされたセックスの一部始終と、その感情の推移を、観客は“女の側で”体験するのだ。

 今作で“男と女”に焦点を定めた三島監督は、この映画に2014年発表の島本理生の原作とは異なる、原作よりもはるかに厳しく、まさに“塔子の覚醒”という言葉が似つかわしいオリジナルの結末を2020年の女たちに向けて用意した。

男にとってかくも容赦なく、不都合な性愛

「塔子の自己中心的な生き方には腹が立つ」そして「あのベッドシーンには興奮しない」。男たちが呟くそれは自分たちが知らないものへのアレルギー反応であり、だが女たちは、その塔子の選択とベッドシーンにこそ泣き濡れる。

 不倫といえば、中高年男性が大好物とするコンテンツのはず。しかも激しい性愛のシーンが幾度となく投げ込まれる映画なら、なおさらだ。だが、これまで男たちが自分たちの願望を自分たちの視線で弄ぶように描いてきた甘い疼痛のようなファンタジーとは異なり、女が本性をあらわにして女の側から描く不倫の性愛は、男にとってかくも容赦なく、恐ろしく、不都合なのである。

 心も体も解放し、自由に美しくなっていく主人公、塔子を体当たりで演じる夏帆が見せる身体の紅潮が美しい。そして鞍田役の妻夫木聡は、今作のために体重を落とし、40歳目前の枯れ始めた色気を放つ。自覚なく塔子を傷つけるエリート夫・真を演じる間宮祥太朗の新鮮な一面も魅力的で、塔子に好意を寄せ、自由な婚外恋愛をそそのかす小鷹役、柄本佑の演技はただひたすら見事だ。

 タイトルの『Red』とは、女の体温を上げ、欲望を刺激し、変化を促し、ここではないどこかへと導く何か。惜しむらくはちょうど2月下旬公開以来、新型コロナウイルスの影響で娯楽業界全体の客足が著しく影響を受けていることだが、『Red』はその中でも着実に観客を集め、SNSで語られている作品でもある。「男がたじろぎ女が濡れるベッドシーン」には、まだ間に合う。

(河崎 環)

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