東大85名合格! モンスター級の女子校・桜蔭は何がすごいのか

文春オンライン / 2020年3月30日 6時0分

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女子御三家の中でも突出した進学実績を誇る「桜蔭」 ©︎矢野耕平

 昨年の4月12日、東京大学の入学式での上野千鶴子氏の祝辞が話題を呼んだ。

 上野氏がその祝辞でも言及していたのが、東大の女子入学者数が全体の2割を越えないという事実だ(昨年度のデータによると約18%)。上野氏はこの一因として「女性の価値と成績のよさとのあいだには、ねじれがある」点を挙げていた。

東大女子比率の低さを跳ね返す桜蔭の躍進

 しかし、今春2020年度の東京大学高校別合格者数を見ると、その合格者数において大躍進を遂げた私立中高一貫校の女子校がある。東京都文京区にある「桜蔭」(おういん)だ。東大合格者数は開成、筑波大学付属駒場につづく全国第3位の85名。これは桜蔭の過去最高数であり、昨年66名(第7位)からの大躍進だ。ちなみに、桜蔭につづく女子校は東京都千代田区にある女子学院の33名(第17位)である。桜蔭は女子校のなかでは進学校として別格の存在感を放っている。

 わたしは4年半前に『 女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密 』(文春新書)という本を上梓した。この本をベースにして、桜蔭の進学校としての凄さの秘密に迫りたい。

「桜蔭は日本一の学校なんだ」

 確かに今春桜蔭は東大合格者数で躍進したが、桜蔭の進学校としての実力は長い歴史を誇る。1994年度以来実に27年にわたって東京大学高校別合格者数で全国ベスト10入りを果たしているのだ。

 この点に憧れて桜蔭を志望する中学受験生が当然多い。

 東京大学教養学部文科3類1年生(取材当時、以下同)のAさんは、親の一言で受験を決めたという。彼女の父親は大学教授だ。

「中学受験は親が決めました。いろいろな学校に見学に行きましたが、『桜蔭は日本一の学校なんだよ』なんて親に言われてその気になったのです(笑)」

「一番上」ということばが志望理由に

 東京大学理学部3年生・Bさんは、自身の桜蔭志望動機をこう振り返る。

「わたしは1つ年上の兄がいて、なんでも真似していたくらい影響を受けていたんです。その兄が開成に合格し、わたしも中学受験勉強を当然のように始めました。6年生のときに桜蔭と女子学院両方の文化祭を見学して、両校とも良いなあと感じました。その後、塾の先生から『君は桜蔭を狙うとよいよ』とおだてられて(笑)、その気になってしまいました」

 慶應義塾大学経済学部の3年生・Cさんは、「一番上」ということばを志望理由に含めた。

「うーん、単純に桜蔭が有名だったから(笑)。どうせ中学受験をするなら、一番上を目指したいと思ったんですよね」

 彼女は端から女子学院や雙葉の受験は考えていなかったという。

 また、国立大学の医学部に進学した卒業生・Dさんは、父親が医者であり、小さな頃から当然のように医師を志していたという。そんな折、「日本で一番東大理3に進学する女子校がある」と聞き、それが桜蔭だった(ちなみに、2020年度は桜蔭から7名が、日本最難関の東大理科3類に合格している)。

桜蔭生は塾漬けの日々を送るのか?

 桜蔭に向かう途中に急な勾配の坂道(忠弥坂)、通称「桜蔭坂」がある。

 そこで登下校する桜蔭生たちを見かけると、多くの子が大きく膨らんだカバンを重たそうにして持っている。

 塾通いについて、卒業生のひとりに尋ねると意外な回答が得られた。

「桜蔭の授業を完璧にこなせれば大学受験に対応できます。わたしが中1~高3の最後まで塾にお世話になったのは、飲み込みが遅いせいなのです。桜蔭では理科・社会の高校単元は高3の最後になってギリギリで終わるんですね。そうすると、入試本番が迫っているので、その復習の時間がなかなか取れません。桜蔭の授業進度ですが、中学は割とのんびり。高校になってから一気に加速する感じです」

 そして、彼女はこう付け加えた。

「塾通いは中1時点で3割くらい。高校生になってから半数を超えるくらいでしょうか。高3時はほとんどが通っていると思います。でも、わたしが知る範囲で言いますと、塾通いを一切せずに東京医科歯科大学医学部に現役合格した友人もいます。また、高3になって『添削』と『自習室利用』が主たる目的で予備校に形だけ籍を置いていた子は、現役で東京大学理3に合格しています。塾の力を借りなくても、学校だけで大学受験は対応できるということですね。あと、『桜蔭の授業レベルが高すぎてなかなか消化できないため、それを補うために塾を活用する』という人もいますよ」

 こう聞くと、通塾率は他の私立中高一貫校と大差がなさそうである。いや、むしろ、低い部類に入るかもしれない。

桜蔭の授業を見学してみたら……

 わたしは『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』を執筆する際、桜蔭の協力を得て授業を見学させてもらったことがある。以下はそのときの様子と、桜蔭の授業を振り返る卒業生たちの弁である。

 わたしを校内へと案内してくれる先生の歩みが突然ゆっくりになる。音を立てないように気を配っているようだ。先生が小声で囁く。

「高3の数学の授業です」

 見ると、何人かの生徒たちが一心不乱に何かの数式を黒板に書き殴っている。座っている生徒たちはこちらの存在にまったく気付かない。心を決して散らすことなく、黒板に書かれた数式を皆黙々とノートに写しているのだ。殺伐とした……という表現を思わず使いたくなるほどの凄みが感じられる空間であった。なお、教室には黒板が前方だけでなく、横にも取り付けられていて、それらをフル活用した授業がおこなわれることもある。

 前出の東京大学理学部3年生・Bさんは、この数学の授業の様子を説明してくれた。

「数学のレベルは相当高いです。授業が始まるまでに事前に指名された生徒たちがそれぞれに課された問題の解答過程を黒板に書きつけておくんです。で、先生が入ってくると、すぐにその解説がスタートします。付いていくのにもう必死ですよ」

 東大、それも理系学部に現役合格している彼女がこう言うのである。

生徒の学びを喚起しようと……

 レベルが高いのは数学だけではない。慶應義塾大学に通うEさんは、地理と日本史の授業が奥深くて生徒間では評判だったという。

 東京大学の理系学部に通うFさんは、生物の授業のレベルが特に高いと感じたとか。

「実験はあまりおこないませんが、板書が細かくて、相当難しい内容に踏み込みます」

 トップクラスの生徒ばかりが集まる桜蔭だからこそ、生徒の学びを喚起しようと知らず知らずのうちに高度な授業が完成するのかもしれない。もちろん、教員にはその分確かなバックグラウンド、知識量が必要になることは言うまでもない。

 国立大学医学部のGさんはこう語る。

「中学生のときは優しくてユニークな先生に人気が集まりました。でも、高校生になると先生への見方、その評価の尺度が一変します。つまり、授業内容で人気不人気が決まるようになるのです。中学生のときに人気のあった先生でも、授業自体に刺激がなければ生徒はやがて離れていきます。逆に、中学生の頃には疎まれていた先生であっても、その先生から確かな教養を感じることができれば、わたしたちは付いていきます」

 実に桜蔭生らしいコメントではないか。これは教員の側も緊張感を強いられる。1回1回の授業に全力を尽くさねばならない。

大人顔負けの「卒業論文」

 そして、桜蔭は「書く」という作業を中高生活の中で徹底させる学校としても有名だ。実際に桜蔭の入試問題は、これでもかというくらいに記述問題が数多く盛り込まれている。

 桜蔭の中高生活の中で「書かせる」という点で最たるものは、中3の「自由研究」だろう。原稿用紙で30~40枚、手書き指定で論文を仕上げるのだ。以前はパソコン使用可としていたらしいが、手書きに限定したのは安易なコピペ(コピー&ペースト)を防ぐためらしい。

 自由研究の近年のテーマ一覧を見ると、なかなか面白そうで、かつ手強そうなタイトルが並んでいる。たとえば、「近代兵器の変遷とその背景」「暗号~単換字式から量子暗号まで~」「死後の世界」「空間情報科学」「犯罪者プロファイリング」「多重人格障害とは?」「潜在的左利き~転向の是非~」「癒しについて」……などなど。中には、「イケメンとは何か」「プロ野球をクビになった男たち」「菊はなぜ葬式の花なのか」「太る生活痩せる生活」なんていう一見すると風変わりなタイトルも。

担任はひとつひとつにコメントを付ける

 校長を務める齊藤由紀子先生が、自由研究の準備について説明してくれた。

「30~40枚ではまとめられないテーマは無理なので、担任が何回も面接をして決めるのです。わたしたちが内容に干渉することはありませんが、たとえば『あなたのやりたいテーマの資料はどうやって探すの?』『このテーマなら、こういうふうにして論文としてまとめていこう』というように声をかけています」

 この中3の自由研究は、毎年冊子にまとめられている。表紙の装丁も生徒たちが工夫をしてつくっているという。この冊子は後輩が目にしたり、保護者が見たりする。また、手書きの原本は全部並べて、全校生徒がそれらを手に取る機会を設けている。担任はそれらにひとつひとつコメントを付けて返却するらしい。

 わたしも論文の数々を読ませてもらったが、大人顔負けの文章揃いであり唸らされた。

学力の上下差など気にしない桜蔭の気風

 このように桜蔭を紹介していくと、さぞかし「勉強オタク」の女子ばかり結集しているように思ってしまう。実際どうなのだろう。

 東京医科歯科大学医学部1年生のHさんは、中高生活をこう振り返る。

「わが道を行くタイプの人が多かったですね。他人を気にしないドライな性格の子がほとんどだと思います。クラス内で何となくグループはできるけれど、それも流動的。たとえば、ディズニーランドに遊びに行ったときも『○○ちゃんも行きたいって言っているよ』と普段グループに属していない子であっても気軽に加われる雰囲気がありました。中1の頃は友だちの悪口をこそこそ言う子もいましたが、すぐにみんな丸くなります(笑)」

 これは彼女の代に限った話ではなさそうだ。

 彼女の2つ年上の卒業生3人に桜蔭内での友人関係を聞いてみた。

「クラス内は自然と幾つかのグループに分かれますが、正直はっきりとしない感じです。帰宅するときも、グループ内でというよりも、自宅の方向が同じ人と途中まで帰りますね」

「トイレに行くときは基本ひとりで、誰かが付いてくるなんてことはありません。下校時は駅くらいまでは一緒に帰るけれど……という人が何人かいました」

「いつも一緒にベタベタする……というような雰囲気はありません。帰宅前に話があんまり弾まないときは、ひとりで帰りました」

 同調圧力など無縁の学校生活を送っていたことが分かる。

勉強が出来ることは「当たり前」

 また、桜蔭の卒業生に取材をしていると共通していたのが、桜蔭内では勉強面で順位を争うことなどないという点だ。成績優秀者の掲示や公開も学校側ではまったくおこなっていない。卒業生が証言するところによると、クラス内で数人授業に付いていくのに苦しんでいた子がいたらしいが、勉強ができないことが原因で仲間外れになるような雰囲気は桜蔭には一切ない。

「勉強至上主義」であると勘違いされやすい桜蔭生ではあるが、そもそもトップレベルの学力を備えている在校生にとって、勉強の出来不出来で人を評価するなど下らないことだと考えているのだろう。つまり、勉強が出来ることは「当たり前」であり、それで優位に立とうなんていう思いはないのである。

 この桜蔭に加え、女子学院、雙葉の3校を合わせて「女子御三家」と呼ぶ。

 それぞれ伝統のある女子進学校ではあるが、その校風や生徒たちの雰囲気は三者三様である。

 ご興味のある方は拙著『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』をぜひ手に取ってほしい。

(矢野 耕平)

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