BTSの“快挙”がK-POPの歴史を変えた! 知られざる「グラミー賞ノミネート」の本当の意味

文春オンライン / 2020年6月12日 17時0分

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グラミー賞授賞式(2019)で ©AFLO

 韓国が生み、世界が育てたボーイズグループ「BTS(防弾少年団)」。いまや世界各地に熱狂的なファン「ARMY」を持つ彼らの音楽と人気を論じる、初のBTS評論『 BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか 』(柏書房)が発売された。

 

 米韓で活躍する韓国人音楽評論家が、2018年までにBTSが発表した全楽曲を徹底レビュー。また、各界の専門家へのインタビューなどを交えながら、全世界を巻き込んだ「BTS現象」の裏側に迫る同書より、「コラム8 グラミー賞ノミネートの本当の意味」を特別公開!

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 BTSの第61回グラミー賞ノミネートが発表された2018年12月、私は韓国ポピュラー音楽として初めてのジャンル、または主要部門でのノミネートを期待した。しかし、残念ながら実現しなかった。韓国メディアはこれを「失敗」と評した。BTSの「快挙」と強調したアメリカのメディアとは真逆だ。

 韓国での低評価は、主要部門の候補にならなかったためだが、グラミー賞に詳しい人であれば、そしてK-POPの過去と現在を熟知している人であれば、これはとても短絡的な見方だと気づくだろう。ポイントを再度まとめてみよう。

K-POPの基礎は90年代から築かれた

 90年代以前、韓国のポピュラー音楽産業は、世界地図に存在しない無人島のような存在だった。「歌謡」と呼ばれた国産の曲は韓国人が好んで聴く「流行歌」のレベルを超えることができず、外国から輸入された音楽にくらべ、地位は高くなかった。韓国語で「ポップ」といえばアメリカンポップスを意味し、音楽ファンなら歌謡ではなく米国やイギリスのポップスやロックを聞くのが当たり前とされていた。

 流行に敏感な若者たちは、いち早く洋楽のトレンドを取り入れていた日本のポピュラー音楽を海賊版のカセットテープで聴いていた。私もそのような少年時代を送り、音楽ファンになった。90年代に入り、ソテジワアイドゥル、015B(90年にデビューしたバンド)、シン・ヘチョル、ユンサン(1987年デビューの歌手・作曲家。現在は音楽プロデューサーとしても活動)など、当時の若手ミュージシャンが現在のK-POPの基礎を築いた。

 2000年代以降、K-POPはグローバル市場の扉をたたきはじめる。だが、韓国の歌手がポピュラー音楽の本場であるアメリカに進出して互角に競い、成功できると思っていた人はいなかった。

ノミネートは「最優秀レコーディング・パッケージ」部門

 どんな部門であれ、グラミー賞にノミネートされることは、それだけで「成功」を意味する。その意味は、多くの人が考えるよりも、はるかに重要かもしれない。詳しい話をする前に、まずファクトを検証したい。

 BTSのアルバム『LOVE YOURSELF 轉 ‘Tear’』がノミネートされたグラミー賞の部門は、「最優秀レコーディング・パッケージ」(Best Recording Package)だ。「パッケージ」とは、アルバムのカバーイメージなどCD・LPのディスクジャケットを構成するものすべてを指す。

 よく知られているように、この部門は音楽にたいするアワードではない。1959年に「最優秀アルバムカバー」という名で設けられ、アルバム(当時はLPと呼ばれていたレコード盤)カバーの芸術性を審査する部門だった。一時期「グラフィック・アート」と「写真」という2つに分けられていたが、現在は「最優秀レコーディング・パッケージ」部門と名称をあらため、アルバム全体のデザインを評価する賞となっている。

 アルバムとアーティストの名前が表記されるが、実質的な候補はアルバムで、受賞するのはアーティストではなく、カバーとパッケージをデザインしたデザイナーだ。

そもそもグラミーとはどんな賞なのか?

 BTSのアルバムがグラミー賞候補になったのは、たしかに大きな進展だ。だが、音楽部門ではなくアルバムのデザインでのノミネートだったのは、残念だ。BTSの音楽は、グラミーにまだ認められず、「失敗」したのだろうか。この疑問に正確に答えるために、まずグラミーがどのような賞なのか、そして候補になる(あるいはならない)ことは何を意味するのか、ていねいに考えてみたい。

 1959年に始まったグラミー賞は、アメリカの音楽産業を代表するもっとも長い歴史をもつ音楽賞だ。1年間のアメリカの音楽シーンの総まとめの場というだけでなく、音楽産業そのものを牽引する役割を担う。米国でグラミー賞は、アマチュアスポーツ選手にとってのオリンピックメダルのように、ミュージシャンのキャリアでもっとも栄誉とされる。なぜなら、ほかのアワードとは異なり、人気に関する数値や指標を参考にしないからだ。

 グラミー賞のすべての部門は、主催者のレコーディング・アカデミーの会員によって審査され、選ばれる。アカデミー会員のなかでも投票権を有するメンバーに選ばれた一部の人だけが、この過程に関わることができる。レコーディング・アカデミーの会員は、3つのタイプに分かれ、グラミーに携わるのは、「投票メンバー」と呼ばれる一番高いランクの人たちだ。

「投票メンバー」は、レコード制作の経験を積んだ現役の音楽関係者で、厳格な認定プロセスを経て、グラミー賞の審査に参加する資格を得る。審査員を選ぶ段階から存在する厳しい「関門」。それが、グラミー賞の伝統と信頼が認められるゆえんだ。

 それだけではない。アルバムも、複雑で厳しい過程を経てノミネートされる。エントリーを希望する作品が提出されると、各分野の専門家が一次審査(スクリーニング)をおこない、ジャンル別、項目別に分類する。そして二次審査(投票)を経てようやくグラミー賞にノミネートされるのだ。

「グラミー賞は保守的」と言われる理由

 グラミー賞は、きわめて保守的なミュージックアワードとして知られている。これは、過去の受賞結果をみればよくわかる。代表的な例が、ポピュラー音楽で一番「若い」ジャンルのひとつ、ヒップホップにたいするグラミー賞のスタンスだ。

 グラミー賞に「最優秀ラップ・パフォーマンス」部門が新設されたのは、ヒップホップ初のレコードがリリースされてから10年も経ったあとのこと。主要部門で受賞者が生まれるまでは、さらに10年かかった。1999年の第41回グラミー賞でローリン・ヒルの『ミスエデュケーション』に贈られた「最優秀アルバム賞」だ。

 もちろん、数多くの会員で構成されるグラミー賞の審査員がヒップホップを無視したり、このジャンルの音楽性を認めなかったわけではない。ただ、審査員の音楽的な趣向が優先される特性上、大衆のトレンドが反映されるには時間がかかる。結果、受賞するのも、進歩的というよりは保守的、または中庸路線のアーティストや作品にならざるを得ない。

 また、レコーディング・アカデミーの会員の多くを占めるのは、アメリカのメインストリーム、つまり年齢が高い白人の中産階級の人びとだ。これも、ブラックミュージックよりポップやロックが、実験的でトレンディな音楽より安定して成熟した音楽が優先される理由といえる。新たなトレンドの音楽でグラミーメンバーを刺激したのは、商業的な成功で社会現象を巻き起こした数曲のみだ。とくに、ボーイズバンドやポップアイドルの音楽がノミネートされたのは、ほんの一握りにすぎなかった。

BTSがノミネートされた“本当の意味”

 BTSのノミネートについての疑問に戻ろう。BTSが「最優秀レコーディング・パッケージ」部門の候補になった意味とは何か。結論からいうと、パッケージのデザインを認めただけでなく、グラミーの会員たちがBTSの音楽を意識し、ある程度認めたシグナルだと受け止めている。

 ここでも表面的な現象ではなく、「行間」を読む必要がある。グラミー賞のすべての部門は結局、アメリカの音楽産業に携わる人びとの努力を称えるのが目的だ。普通の人にとっては、ほぼ無名のエンジニア、フォトグラファー、さらにはデザイナーにまで賞を与える理由は、彼らが音楽業界で果たす役割の大きさをグラミーがよく理解しているからだ。

 しかし、BTSはK-POPアーティストだ。米国内でアルバムがリリースされ、ビルボードのチャートでトップになったとはいえ、結局のところ、韓国の音楽産業に属するアーティストであることに変わりない。しかし、アメリカの音楽産業関係者を祝する場であるグラミー賞で、自国のアーティストによる数多くのアルバムを差しおき、敢えて韓国のBTSの作品にノミネートの機会を与えたのは、非常に異例のことだ。ましてや、BBMAsのようにソーシャルメディアの反応や人気を審査に反映していないにもかかわらず。

 偶然にも2018年、BTSの米国ツアー期間に、「グラミー・ミュージアム」(グラミー受賞者に関する資料を展示する博物館)はBTSを招き、音楽についてのQ&Aセッションをおこなった。グラミーがBTSの商業的な成功以外の面にも関心を寄せているのがわかる。このことが、デザインを評価するカテゴリーとはいえ、アルバムがノミネートされる結果につながった。

 つまり、断片的なファクトではなく、全体的な流れを理解する必要がある。受賞はもちろん、アルバム・パッケージのデザインが際立っていたためだろう。だが、2018年にアメリカで巻き起こった「BTS現象」にグラミーのメンバーが注目した証と考えると、より説得力がある。

K-POPの歴史において前例がない進歩

 グラミーはポップグループ、なかでもボーイズバンドを主要部門にノミネートした例がほとんどない、保守的なアワードだ。だがBTSは、主要部門や音楽ジャンルの部門ではないにせよ、音楽の美学に深く関わるデザイン部門で認められた。ある意味、それは変化が遅く保守的なグラミーが見せた、ささやかな賞賛のしるしかもしれない。グラミーの姿勢は消極的に感じられるが、これはK-POPの歴史において前例がなく、見逃せない進歩といえる。

 ひとつだけ付け加えたい。韓国ポピュラー音楽の価値は、アメリカの音楽産業に認められることによって、証明されるものではない。また、音楽が素晴らしいか否かは、賞によって決められるわけではない。アメリカを中心にすべてを判断する旧式の考え方も、いつか必ず克服されると信じている。

 しかし同時に、現実に目を向けることも大切だ。アメリカのレコード業界の威光はいまも絶対的で、世界中の音楽のトレンドを支配しているのは米国のポップスだ。また、限界は存在するものの、グラミーは権威あるアワードとして認められ続けている。これは、誰も否定できない。

 そんななかBTSは、韓国ポピュラー音楽のミュージシャンとして、初めてグラミー賞にノミネートされた。それだけで、賞賛され認められるに十分値する。私たちが気づかないうちに、多くのことが変わりつつある。もちろんこの先にも、さらなる変化があるはずだ。(翻訳・桑畑優香)

(キム・ヨンデ)

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